第3話 メカニックガール

 アキヒトとサラが家でぐっすり眠った翌日。


「私はコントロールタワーに行くわね。あなたも気をつけて行ってくるのよ、アキヒト」

「うん。じゃあサトルさんの所へ行ってくるよ」


 親子で会話を交わし、アキヒトとサラはそれぞれ朝から別の所へ向かった。アキヒトが向かっているのは、村の色んな設備の修繕をしている人物の家で、その家の主はサトルと言う。アキヒトは定期的にサトルの所へ行き、村の設備の保守点検の手伝いをしており、今日もその日だった。


 サトルの家は、アキヒトの家からやや離れているため、今日はバイクを使ってアキヒトは移動している。電動バイクであり、非常に高性能で長持ちがする小型バッテリーに充電を行うことで、動くようになっている。


 十分ほどバイクを走らせると、サトルの家に着いた。家というよりは、家付きの小さな工場と言った方がいいかもしれない。二階建ての家の隣に、金属の合板で外壁が作られた小さな工場がある。高さは隣にある家と同等であった。


 サトルの家の前にバイクを停めたアキヒトはインターホンを鳴らし、来たことを知らせた。程なく内側から扉が開いた。


「おはようアキヒトちゃん、今日もいい天気だね」


 中から出てきたのは気風の良さそうな、愛嬌がある女性だった。年は四十歳前後に見える。


「おはようございます、メアリーさん。いつも通り来たよ」


 アキヒトは挨拶をすると、メアリーと呼んだ気風のいい女性に、


「おじさんは工場にいるの?」


 と、工場の方を指さして訊いた。


「うん、あっちにいるよ。娘もそこで物をいじってるはずだよ。行ってみてごらん」

「分かった、ありがとう」


 アキヒトはサトルの工場へ入って行った。




 工場内は整備修繕を主にしているのもあって、様々な工具が置いてあり、交換用の部品なども多くある。その工場の一角で、車の整備をしているサトルの姿があった。


「おじさん! おはよう!」


 アキヒトは大きな声でサトルを呼んだ。サトルもそれに気づき、


「おう! 来たか! ちょっとこっちに来てくれ!」


 と、整備を続けながらアキヒトを呼び返した。


「サラさんは元気にやってるか?」


 アキヒトが車の方へ来ると、サトルはまずサラのことを訊いてきた。サトルは、サラが赤ん坊だったアキヒトを連れて、この村まで逃げて来た所を保護した人間だ。そのため、サラの世話を何かと焼き、気にかけている。


「母さんは元気だよ。今日もコントロールタワーに行って、アテナと相談してるはずだよ」

「そうか、それならいい。それにしても今じゃすっかり、サラさんがアテナの一番の相談役になったな」


 サトルは車の整備の手を手際よく進めながら話している。


「ところでマリーもここに居るって、おばさんから聞いたんだけど、どこに居るの?」


 アキヒトは工場内をキョロキョロと見た。マリーというのは、サトルとメアリーの一人娘だ。


「ああ、あれならここの小部屋でモニターの修理をやってるよ。ちょっと行ってみてやってくれ」


 サトルはそう言うと、車の下に潜り込んで整備を続けた。アキヒトは工場内の片隅にある小部屋に行ってみることにした。




 工場内の隅にある小部屋に行ってみると、大きなモニターを直している少女がいた。少女と言っても、アキヒトより年上なように見える。


「マリー、なかなか大変そうじゃないか」


 アキヒトが呼びかけると、モニターの裏側に回って修理を行っていた少女が手を止めて出てきた。切れ長な目で、スラっとした体格をしている。色が白く鼻筋も通っていて、整った可愛らしさがあり、将来美人になりそうな少女だった。


「ものは大きいけどそうでもないわよ、接触がちょっと悪かったけど、あと十五分もあれば直せるわ」


 そう言うとマリーは、またモニターの裏側に回り、工具を使って修理を続けた。アキヒトはその様子を黙って見ている、マリーとアキヒトは幼なじみで、アキヒトは小さい頃からマリーが機械をいじる姿をじっと見るのが好きだった。マリーにとっては機械は子供の頃からの玩具代わりだったようだ。


 モニターは予定より早く、十分ちょっとで直った。


「鮮やかなもんだな、いつ見ても」

「へへ~、まあね。端末につないで映像を試しに映してみるわね」


 小部屋の机にあるコンピュータ端末をモニターにつなぎ、マリーは適当な画像をモニターに映しだした。鮮明な画像が映っている。


「バッチリじゃないか。そういや、このモニターってアテナのコントロールタワーになかったっけ?」


 アキヒトは直ったモニターを見つつ、マリーに訊いた。


「そうよ、二階の会議室にあったんだけど、調子が悪くなってたから工場に持ってきて直してたの。たまに会議で使うこともあるしね」


 マリーは修理後の片付けをしながら答えた。


「それはそうとアキヒト、あなた設備の点検の手伝いに来たんじゃないの? お父さんの所へ戻ってみたら? 私も行ってみるわ」

「ああ、そうだった。つい修理を見るのが面白くて忘れてた」


 アキヒトとマリーは、小部屋を出てサトルの所へ戻りに行った。

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