第46話
「ここまでとは……クラリサ嬢。時間が経っても契約破棄されない。そこに明記されていれば別だがな。あなたの両親が何も話さなかったようで、よくわかっていない様だから少し話そう」
厳しい顔つきで陛下がクラリサを見つめ言った。
「よいか。メルティ嬢の父親は、あなたの父親の兄でレドゼンツ伯爵家の当主だった。ある事件でメルティ以外のレドゼンツ伯爵家が全員亡くなったのだ。その為、レドゼンツ伯爵家は廃爵の危機になった。それを回避する為に、条件付きであなたの父親が一時的にレドゼンツ伯爵家の当主に納まったのだ。それが12年前の契約で、期限はメルティ嬢が当主になるまでの間。そうであるな、レドゼンツ伯爵」
「はい……」
「そ、そんな……」
やっと事態を把握したクラリサが、愕然とした顔つきで呟く。
今まで、自分がレドゼンツ伯爵家を継ぐのだと思っていたのだから当然だ。両親はクラリサが継ぐと言っていた。
ふと、クラリサが顔を上げ父親であるイヒニオをジッと見つめる。
「でも、私がなるのよね? そう言ったよね?」
「……クラリサ。すまない」
そう言ってイヒニオは、彼女から目を逸らす。
今までは何とかなるだろうと思っていたが、もう無理だと悟ったのだ。全てバレていると。
「………。……全部、全部メルティのせいよ!」
突然泣きながらクラリサが叫ぶ。
「やめないか、クラリサ!」
「あなたが、私達に従っていれば私が当主になれたのに!」
「どうしてそうなるの? 最初から私がなる予定なのよ? それを私が知らないから騙して、あなたを当主にしようとしたのよ!」
メルティにそう反撃されて、クラリサはキッとメルティを睨みつけた。言われている事はわかるも、納得がいかない。期間限定とは言え、レドゼンツ伯爵家の長女になったのだ。それなら自分にも権利があると、クラリサは考えた。
「私にも権利はあるでしょう!?」
「クラリサ、もうやめましょう」
母親であるファニタが、諫める様に語り掛けるもクラリサは、メルティへと歩んでいき、目の前に右手人差し指を突き出した。
「あなたさえいなければ、私が当主になれたのに! 全員死んだというのに、なぜあなたは生きているのよ!」
クラリサの言葉に全員、息を呑んだ。その言葉は、メルティの心をえぐる言葉だった。
バチン!
クラリサは、叩かれた左頬に手を添え驚いた顔つきで、叩いたメルティを見つめる。
いや彼女だけではなく、その場の全員がメルティを驚いて見ていた。
メルティは、クラリサを睨みつけている。チラッと隣に立つラボランジュ公爵夫人を見てからクラリサに向き直り口を開いた。
「クラリサ嬢。あなたは、私と違って当主になるべく教育を五年も受けていたのよね? だったら当主に関わる法ぐらい習ったのではないの?」
「え?」
いきなり何を言い出すのだと、クラリサはキッとメルティを睨みつける。
「そうね。知っていればこんな発言はしていないわね」
ラボランジュ公爵夫人は頷く。そして、さりげなく上げていた手を下げた。
もし、メルティがクラリサを叩いていなければ彼女が叩いていただろう。
メルティが今日見た予言では、ラボランジュ公爵夫人がクラリサを引っ叩く場面が見えていた。
メルティは、そういう場面が来るのだろうと思っていたが、このタイミングだったようだ。そういう事があるとわかっていても、タイミングまでは結局はわからない。できれば、ラボランジュ公爵夫人がクラリサを叩く前に自分が叩いて阻止したいと思っていたが、そんなの関係なく叩いていた。
これでラボランジュ公爵夫人の部が悪くなるのを避ける事ができたのだ。
「な、何よ……」
「陛下がレドゼンツ伯爵家が廃爵になるところだったと言ったわよね。どうやって阻止したかわかるかしら?」
「え? け、契約でしょう」
「それだけでは、防げないのよ。五年以上当主がいない場合は廃爵になるの。つまりメルティが当主になれるまでに五年以上あった。だからただ契約するだけでは無理なのよ。習ったでしょう? 覚えていないようですけどね」
ラボランジュ公爵夫人がそう言うと、クラリサは悔しそうな顔をして俯いた。
法の授業はあったがあまり関心はなかったのだ。
「その状態では、君の父親と契約は結べない。一度、その家名から抜けた者は、爵位を継げないという法があったからだ。一度、クリアにしなくてはいけなかった」
「え?」
陛下が説明するもクラリサは、キョトンとした顔を向けた。
「つまり一度、他の者の手に爵位が渡らないとクリアにならないと言う事だ」
「……他の者?」
「そうよ。私が頼んで夫に爵位を買ってもらったの。つまりそこで爵位は、ラボランジュ公爵のモノとなった。そもそもメルティが生きていなかったら爵位はそのまま消滅していたのよ」
クラリサが、ラボランジュ公爵夫人の説明で、驚愕の顔をする。兄が亡くなったから弟のイヒニオが引きついたと思っていた。だからメルティがいなければ、自分がなれたのにと思っていたのだから。
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