第17話
「承知しておりました。私もこの様な事になり驚いております」
「え……わかっていたの?」
「もちろんでございます。ただ私からは何も申す事はできませんでしたので」
(そうよね。お父様に抗議など出来るはずもないわ)
そう気が付いた事で、メルティはしゅんとして俯く。
「私を信じ、ご相談頂きありがとうございます。聖女の件がメルティお嬢様のご意思ではないと、わかりました。私は、メルティお嬢様の味方です」
「私の? お父様とお母様よりも?」
「はい」
アールにそう言われ、メルディは目をぱちくりと瞬かせる。
「ありがとうございます。お姉様が聖女と発表され、ルイス殿下とご婚約してまって、もうどうしたらいいかわからなくなってしまったの」
「そうですか。そのようにおっしゃっておりましたか」
少し考え込むアール。
(そうよね。こうなってしまうとどうしようもないわよね。そういえば、あの首飾りなんだったのか聞いてもいいかしら)
「あの、アール。あの首飾りは一体誰のだったのですか。サプライズだと言っておりましたけど、恐ろしい予言を見てしまって、着けずにしまってありますが……」
「そうでしたか。そこまで考えが及ばず、申し訳ありません」
「いいえ」
「どのような予言をご覧になったのでしょうか。差支えなければ、お教え願いませんか」
「はい。お母様が、凄い形相で投げつけようとする姿です」
「そうですか。投げつけようとなさりましたか」
予言なので、現実にはそのような事は起こっていないが、目にすればそうなると言う事だ。
「あの首飾りは一体、誰の物だったのですか」
「いずれ家名を継ぐ、あなたの物でございます。メルティ様」
「え! お姉様ではなく私がですか?」
メルティは次女で、姉であるクラリサがいる。順序的にクラリサが家名を継ぐ。もしメルティが、男児ならば姉がいてもメルティが継いでもおかしくはないが、そうではない。
「詳しい事は、私からはお話をする事はできませんが、時期が来ればかの方が、全てお話して下さるでしょう」
「わかりました。でも、私のだとして、どうしてあの首飾りをつけていけと言ったのですか?」
「あれが、このレドゼンツ伯爵家に代々受け継がれている秘宝だからです」
つまりは、後継者が手にする物という事だ。
聖女である
だとすれば、予言でファニタが首飾りを投げつけようとしたのも頷けた。
今それを身に着けるとすれば、ファニタでなくてはおかしいからだ。
(お母様は、後継者であるお父様の夫人として相応しくないという事なのかしら? それって誰が決めているの?)
「疑問は色々とおありでしょう。もう少しお待ちください。必ずや正しき有様に戻るはずです」
「はい。ありがとう、アール。そうだわ。今日、ラボランジュ公爵家からお手紙が届くはずよ」
「なんと……」
「お父様が、手紙を受け取って喜んでいる姿を予言したのよ」
「なぜそれを私目に?」
「これからは、見た予言は全てアールに伝えるわ。朝食時にお父様達に教える事になっているけど、言ってないの。今日は見ていないって。たまにだけ伝える事にしたのよ」
「左様でございましたか。それが宜しいでしょう」
メルティは、うんと頷く。
「それでね、私に関与する周りの人の予言しか出来ないと伝えたら、ルイス殿下とお姉様が会う時について行き、予言を見たらお姉様に伝える事になってしまったの」
「なんと、そんな姑息な手段に出るとおっしゃいましたか」
「はい……あの、陛下にもしこの事が知れたらどうなると思いますか?」
「クラリサお嬢様の事がご心配でございますか?」
「それもありますが、もし本当は私が予言していると知っても、お姉様を聖女として世間体を保とうとするのかしらと……」
「それは、陛下がですか?」
そうだと、メルティは頷く。
真実を知って面目が潰れるくらいなら、この状況のままで世間を騙す事を選ぶのではないか。陛下にしてみれば、どちらが聖女でも構わないのではないか。
ふとそう不安になったのだ。
「あり得ません。ご心配なさらずに」
「うん。そうよね」
あんな事があった後でも、クラリサを聖女として発表したと思っているメルティは、アールに言われるも不安をぬぐい切れないでいた。
そして、その日予言通りにラボランジュ公爵家から手紙が届き、イヒニオ達が歓喜したのだった。
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