眼力の大魔王が地球に転生した

しょうわな人

第1話 からまれて覚醒

 とある小学校の校庭の、校舎から影になって見えない部分で陰湿ないじめが行われていた。


「ほら、とおる〜、出せよ、お前の粗チ○を!」

「ほら早く出せって言ってんだろっ!! お前の粗○ンを!!」


 大柄な中学校の制服を着た二人にそう迫られているのは小柄な小学生で、だが六年生を示すバッジを胸に付けている。けれども何やらその子の様子がおかしい。怯えている訳ではなく、何かに気を取られてボーッとしている様子だ。


「ったく! 俺のミーコに色目を使いやがって! 早く出せっ! ゴルァ!」


 抵抗もせずにボーッとしたままの六年生はズボンごとパンツまで引き下ろされた。

 その股間にぶら下がる一物いちもつは大人よりもかなり大きな逸物いちもつだった……


「なっ! なんだよ、コレ! うちの父ちゃんよりデカイぞ!?」

「うわっ! キモッ! よーし、コレを撮ってミーコに見せて幻滅させてやるっ!!」


 そう言って中学生の二人はスマホを取り出しその大きな逸物いちもつを撮影する。

 小学六年の少年はなされるがままだ。どうやら意識が何処かにいってしまっているらしい。何やらブツブツと二人には聞こえない程度の声で言ってるのが分かる。


「何だ? どうなっておる? ここは何処だ? 我はいったい……」


 ブツブツと呟いている間に中学生の二人は撮影を済ませ馬鹿笑いしながら去っていった。




 暫くした後にハッとしたようにパンツとズボンを引き上げる小学六年の少年。そして……


「どうやら異世界に転生したようだな…… それも前世で勇者を多く排出する国、日本のようだ。我は何故この世界に転生したのだ?」


 と呟きながらその少年もその場を去っていった。


「トオルくん、大丈夫? 酷いことされなかった?」


 校門にたどり着いた少年に同い年ぐらいの少女が声をかける。中学生の二人の少年に連れて行かれたトオルという少年を気遣い、校門で待ってくれていたようだ。


「うん、大丈夫だよ、アキちゃん」 


 トオル少年はそう返事をして少女に微笑みかけた。その微笑みを浮かべた顔は何故か今までよりも大人びていて、アキの心に響いたようだ。


「トオルくん、何だか雰囲気が変わった?」

「そうかな? 自覚は無いけど…… それよりも早く帰ろう」

「あっ、うんそうだね。帰ろう」


 トオルとアキは互いに頷き合い家路を走り出したのだった。


 神乃眼統かんのめとおる十二歳、御厨亜季みくりやあき同じく十二歳。隣同士の幼馴染は、明日からの学校生活が一変してしまう事をこの時はまだ知らなかった……


 お互いの家の前に着いた二人は、それぞれに


「それじゃ、また明日ね。トオルくん」

「うん、それじゃまた。明日はちゃんと起きてね、アキちゃん」

「うん…… 善処します……」


 などと会話を交わしてから家に入っていった。


 とおるの家も亜季あきの家も神社の中に建っている。朱塗りの大鳥居をくぐり、御神体を祀っている本殿から外れた場所に隣同士で建てられているのだ。

 神主の神乃眼家と、神の食事を整える御厨家は凡そ八百年の長きに渡ってこの地で神を奉ってきた。


 どちらが主で従かという関係ではなく、対等にして同じ神を信仰する者として長年の間、仲良くやって来たのだが、当代の当主二人はとても仲が悪かった…… まあその子供は仲が良いので大丈夫だろう。当主の妻同士も仲が良いようだ。


 トオルはただいまと言って自分の部屋に入ると鞄を置いてベッドに正座した。


『ふう、さてと我はどうやら神乃眼統かんのめとおるとしてこの世界に生を受けたようだが…… 女神アマノメよ、貴女あなたの意思でしょうか?』


 心の中でそう尋ねるトオルに返事があった。


『ウフフフ、お久しぶりね、大魔王ガン・リキール・イア・ツムソウ。いいえ、今はトオルくんって呼ぶ方が良いかしらね』


 その返事にトオルもまたこたえる。


『貴女は本当に…… で、我をこの世界に転生させて如何したいというのだ?』


『フフ、別に何も望んではいないわ。強いて言うならアナタも今世では怖れられる事なく、人として生きなさいって事かしらね。あ、でもステータスは見られないけれども転生特典として言語理解とスキル【眼力】はちゃんと付与して上げたからね。どう使うかはアナタの自由よ』


 女神アマノメの言葉にトオルはため息を吐く。


『はあ〜…… また厄介なスキルを…… で、前世と同じなのですか?』


『そうね、今は幼いから、高圧眼と豪圧眼しか使えないわ。成長すると共に大魔王だった頃と同じように使えるようになるわよ。それと、今回は熟練度を設けて上げたから。あ、今から確認してみてよ。心の中で念じれば出てくるわよ』


 そう言われトオルは心の中でスキル【眼力】と念じてみた。すると、


【眼力】

高圧眼(3)

豪圧眼(1)


 頭の中にこのように見えた。横のカッコが熟練度という事だろうと察するトオル。


『女神アマノメよ、熟練度はどのようにして上がり、どう使うのだ?』


『あら、簡単よ。この世界ではアナタの高圧眼(1)で睨まれたら普通の人なら恐怖で固まってしまうわ。いわゆる暴力関係の人でも高圧眼(5)で土下座しだすわよ。熟練度は5が最高で、その眼力のレベルも表しているの。つまり、トオルくんは高圧眼なら意識すれば1~3のレベルで使い分けが出来るという事なの。ねっ、簡単でしょ』


 聞いたトオルは再度ため息を吐く。 


『普通の人なら1で固まるという事だが、そんな人に3で睨んだらどうなる?』


『うーん、そうねえ。気の弱い人なら心臓が止まるわね…… だからちゃんと考えて使ってね』


『…… なるべく使わないようにするよ……』


 トオルの返事には意外な答えがかえってきた。


『あら、それは無理よぉ〜。だってトオルくん明日から本格的にいじめられるんだから。だから効果的に使いなさいね。今世でも前世と同じようにね』


 身に覚えがないトオルが考え込んでいると、女神アマノメが教えてくれた。


『ほら、あの中学生二人に絡まれてる時に記憶の覚醒が始まったでしょ? あの時にアナタは余りに無防備すぎて神の逸物いちもつの写真を撮られちゃったのよ。それが明日には学年中に拡散されてるから、一部の女子や多くの男子から揶揄われる事になるの。もちろん、一部の女子やアキちゃんはそんな事はしないけどもね』


 そこでトオルは思った。


『あの覚醒にも貴女の思惑が絡んでいるのではないか?』


『やぁねえ、そんな事…… あるわよ! それじゃ、私は忙しいからコレで!?』


 その言葉を最後に女神アマノメの気配はトオルの心から消えた。


『全く…… あの女神様ときたら…… しかし、このままではマズいな。我はしっかりと意識を持ってしまっている。トオルと完全に融合してしまおう。その方が良いだろう……』


 そう言いながらトオルは正座のまま一時間、ジッと動かない。一時間後、目を開いたトオルは、


「うん、僕は神乃眼統かんのめとおる。でも前世の記憶があって、何故か前世と同じスキルが使えるようになったって事だね。その内にアキちゃんにはちゃんと話そう」


 そう呟いた後に、


「スキル【眼力】」


 と言葉を発した。するとトオルの左眼が前を見ているのだがどこにも焦点があってない状態になる。


「やっぱり…… 完全に融合したからだろうね。増えてるよ……」


【眼力】

[威圧系]

 高圧眼(5)

 豪圧眼(3)

 威圧眼(2)

 獣威眼(2)

 王威眼(3) 

[色欲系]

 視姦眼(5)

 情欲眼(3)


【女神アマノメの解説】


(高圧眼)

 地球レベルの威圧だけど熟練度5だとその眼力で気弱い者の心臓が軽く止まるわ

(豪圧眼)

 獣相手に使用をオススメ。百獣の王と呼ばれるライオンも熟練度2で腹を見せて服従するわ

(威圧眼)

 熟練度1で地球で最も胆力がある者でも失禁し失神しちゃうから一般人に使っちゃダメよ

(獣威眼)

 数の暴力で迫ってきた獣にはコレ! 全ての獣がひれ伏すわ

(王威眼)

 人々に畏怖の気持ちと尊敬の気持ちを起こさせるわよ

(視姦眼)

 この眼で見つめられた女子は脳内がキャーッ!! な状態になるわ

(情欲眼)

 この眼で見つめられた女子は行動がキャーッ!! な状態になるわ


 まだ前世の半分にも届いてないけど、上手く使って頂戴ね〜 

 


 トオルはまた大きくため息を吐くのだった……




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