第23話 ミスリル鉱
トール爺さんが淹れた茶を簡素なテーブルの席で飲みながら、二人は希少な金属についての話を聞いていた。素朴な茶菓子もテーブルの上にある。
「ミスリル鉱というものの鉱脈が最近この辺りで見つかっての、これが不思議な金属で丈夫な上に軽く柔軟性もある。いい所ずくめの金属なんじゃ」
トールは茶菓子のいり豆をつまみながら話を続けた。
「ただ、鉱脈と言っても、そうと十分に言えるだけのものではないというのが現状なんじゃ」
「と言うと?」
ジンとファルスの二人はどういう意味なのか分からず、トールに訊ねた。
「取れるミスリル鉱は雀の涙ということじゃ。シロの蹄鉄に使える分すらも、まだ取れておらん」
そうトールが言った後、三人の間にいくらか沈黙があった。三者三様に考えていたようだった。
「鉱脈を広げて採取量を増やす方法はあるんですか?」
沈黙を破り、口を開いたのはファルスだった。
「いくらか面倒じゃが、ある。そのためにお前たちを呼んだんじゃ」
トールはやや真剣な表情になり、詳しい話を二人に続けた。
ジンとファルスの二人は、トールからミスリル鉱に関する話を聞いた後、カラジ村内のある場所に向かった。
向かった先は、八人程度は乗れる大きさがある船が繋がれている、人の手がいくらか加わった湾で、船が十隻ほどあったが、その八人乗りの船が一番大きなものだった。
「おう! そこの若いの!」
二人がその船に近づいて行くと、船の手入れをしていた男が、二人を呼び止めた。その男は中年だが、海の男らしい、たくましい体つきをしている。器用に作業をしている両腕も筋骨隆々で太い。
「あなたがシーツさんですか?」
呼び止めた男に名を確認したのはファルスだった。トールと話をしている時に、この男が居ることを事前に聞いていたようだ。
「ああ、俺のことだ。あんたらはこの村じゃ見かけないから目立つな、すぐに分かったぞ」
シーツはそう話しながら手入れを続け、じきにやめた。大方の作業は終わったようだ。
「シーツさんがミスリル鉱の鉱脈に連れて行ってくれると、トール爺さんから聞いて、やって来ました。この船で行くんですか?」
ジンは船をよく眺めながら、そう訊いた。三人で乗るとすると、食料などの荷をしっかり載せれば、船内でも二、三日は過ごせそうなガッシリとした造りをしている。
「そうだ、いい船だろう。あらかた手入れも済んだ所だ。荷を積んで、鉱脈まで行くか。あんたらも手伝ってくれ」
「分かりました」
シーツの指示に従い、ジンとファルスは船に必要な荷を積み始めた。
カラジ村付近の海は、いつも波が穏やかだが、今日はよく晴れて風もなく、いっそう穏やかで船を出すにはよい日和である。
「よし! 船を出すぞ!」
船には櫂もついているが、基本的にはマストを広げ、風力で動くようになっている。小さいながらも帆船である。
シーツはマストと舵を巧みに操り、穏やかな天気の中で、少ない風をマストに捉えてミスリル鉱がある目的地に船を向かわせている。
「シーツさん、不思議に思ったんですが、船で行くということは、鉱脈がある場所は海のどこかということなんですか?」
船の甲板上にある支持棒に捕まって、崩れそうになる体勢を整えながらジンはシーツに訊いた。
「そうだ、ここから少し沖に出た所に、ほとんど岩で出来た島がある。そこで、少ないながらミスリル鉱を含む鉱石が発見されたんだ」
シーツは巧みに船を操りながら話を続けた。
「だが、その鉱脈は本当に雀の涙でな。かき集めても精々小さな装飾品になる程度しかミスリル鉱は取れない。村の若い衆を使って鉱脈を広げようとも考えたんだが、皆、漁やそれぞれの仕事が忙しく、第一、そんな山師のようなことは出来んと、誰一人乗り気になってくれない」
話をしているうちに、その島が見えてきた。
「そこで、お前たちの出番になったわけだ。着いたぞ」
島は確かに、ほとんど岩で作られている岩島だった。ただ、少ないながら、幾らかの植物も生えている。低木程度はありそうだった。
シーツは船の錨を下ろし、比較的なだらかな場所に船を停泊させた。
「少し足場が悪いぞ、気をつけろ」
ジンとファルスの二人は、先に島へ降りたシーツにあらかじめ注意されながら、慎重に船から島へ移った。
「まずまずの大きさがある島ですね。何かがありそうな雰囲気も感じられます」
ファルスがそう言ったのを受けて、シーツは笑って言った。
「この周りは俺たち漁師にとっては、昔からいい漁場じゃなかったんだ。ろくに魚も取れないから、漁船も寄り付かない。ミスリル鉱が発見された今でもそうだ」
そこまで言ってシーツは、
「よし、その荷を背負って歩くぞ。ついて来い」
と、二人に指示を出し、ミスリルの鉱脈まで歩き始めた。
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