ニューストピックス
融木昌
第1話 先々のことは誰にもわからない?
一昨日の交通事故において思わぬ事態が生じていた。事故はT市三丁目交差点を直進しようとしていたタクシーに対向車線から右折してきた貨物車が衝突し、弾みでタクシーが左側の横断歩道に突っ込んで、たまたま横断歩道を渡っていた四十代の男性がそのタクシーに撥ねられ死亡したというものだった。極めて不運な出来事としか言いようがないが、話はこれだけではなかった。その後の警察関係者への取材で意外な事実が浮かび上がってきたのだ。
このため事故の経緯(いきさつ)について幸い軽傷で済んだタクシー運転手に突撃取材を試みた。なお、タクシー側に過失はないと判断されている模様だ。
「悪いのは貨物車です。分かってますよね。今から思えば停(と)まらないで――えっ、最初? お客さんを乗せたところからですか? 分かりました。急いでおられたのか車道まで飛び出してきて手を挙げられました。こっちが慌てて停車したものだから後ろの車が追突しそうになったみたいでクラクションを激しく鳴らされましたよ。赤いクーペで運転席の若い男が私を睨みつけていきましたが、あとであおり運転をされないかと気懸かりでした。お客さんの行き先はそれほど遠くではありませんでした。予定の時間に遅れそうだったのかもしれません。ところが二分ほど走ったところで急に、停めてくれ、降りると言われたんです。理由ですか? 訊きましたよ。この車に事故が起きるという神のお告げがあったと言うんです。嘘じゃないですよ。そんな馬鹿なと思いましたが、停めろ、停めろとおっしゃるので路肩に寄せました。そんなことを信じるような人に見えなかったけど、さっさと降りられました。私ですか? お告げなんか気にしていなかったので料金を貰うとすぐに車を発進させましたよ。そしたら次の交差点で貨物車がぶつかってきたんです。びっくりですよ。すべてがあっという間だったし。貨物車は前方をよく確認していなかったんでしょう。でも、あのとき停まらないで走り続けていれば事故に遭わなかったんじゃないかと思うんですけど、それも含めてお告げなんですかね。あとはご存知でしょう。亡くなった方が直前まで乗っていたお客さんだったとは本当に驚きました。駆け足で目的地に向かわれていたようで、あの横断歩道を渡っていたときだったんですね。お告げ通りになったけれど降りないで乗っていれば死ぬことなんかなかったのに。ご冥福をお祈りするのみです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます