第5話 それぞれの復調
「今月はよくやってくれたな、佐野君」
「ありがとうございます。自分でもホッとしています」
高木の復帰後第一戦から、少し月日が経った。ペナントレースも終盤でエレファンツは優勝争いをしていた。
ある日、佐野は最近の営業成績を課長から褒められていた。
「うん、君らしさが戻ってきたな。これからもこの調子で頑張ってくれ」
「はい」
課長との話が済んだ佐野は自分の席に戻った。
「よかったな」
同僚が話し掛けてきた。佐野が明るい表情をしていたので、この同僚も笑っている。
「ああ、一安心だよ。でも、これから成績が取り返せるにしても、今期は前期とどっこいどっこいだろうな」
「だが、来期につながるんじゃないか? 景気も変わってくるしな」
「そうだな、そうなるといいな」
佐野は机に汲んであったお茶を少し飲んだ。
高木邸。
「まあ、いらっしゃい。どうぞお上がり下さい」
佐野と日野は前回の登板後、再び調整を命じられた高木がどうしているか気になり、様子を見に来ていた。
「ありがとうございます。お邪魔します」
出迎えてくれた紗江に通された二人はリビングへ行った。
リビングでは、高木が息子の遼太と遊んでいた。父親らしい笑顔で相手をしている。その様子を見て、佐野と日野は少しホッとした。
「遼太君、久しぶりだねえ」
「あっ! 佐野と日野のおじさんだ! こんにちは!」
おじさんと呼ばれた二人は苦笑いを浮かべた。
「こらこら遼太、お兄さんって言わないと駄目だぞ」
高木もやや笑いながら、遼太にそう言った。
「いいんだいいんだ、俺達も二十代後半だし、すぐおじさんになっちゃうから、お兄さんもおじさんも同じようなもんだよ」
「そうだよなあ、年取ったよな、俺達も」
年齢の話になってしみじみしていると、紗江がスポーツドリンクをグラスに注いで持ってきた。
「遼太、お父さん達のお話しの邪魔になるからお母さんの所に来なさい」
紗江は優しい口調で遼太を呼んだ。
「分かった。後で遊んでね」
二人にそう言って、遼太は紗江と一緒に別の部屋へ行った。
「聞きわけのいい子だよな、遼太君は」
「そうだな、いい子に育ってくれているよ」
三人はグラスのスポーツドリンクを取り、まず喉を潤した。
「腐ったり、ふさぎ込んでたりするかなとちょっと思ってたけど、元気そうで良かったよ」
佐野は高木の顔を見ながらそう言った。
「力が戻ってきた感触があるんだ。それで余裕が出てきたからそう見えたんだろう」
「握力もか?」
問いかけたのは日野だった。気になっていたらしい。
「ああ、ほぼ骨折前と同じくらいに回復している」
高木は残りのスポーツドリンクをグイッと飲んだ。そして、
「だから、明日の登板は期待しててくれ。今度は前のようにはいかない」
と力強く言った。
「お前がそう言うということは、相当状態がいいんだな」
「こりゃ応援のし甲斐があるな」
佐野と日野は高木の頼もしい言葉を聞いて笑みを浮かべていた。
「明日勝てばリーグ優勝だしな。まあ見に来てくれ」
高木は闘志に燃えていた。
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