第70話 関西旅行
ナズナ、モモと二人の彼女ができた。
俺にとって嬉しいことであり、二人が俺を受け入れてくれたことがありがたい。
普通なら、二人の彼女と付き合うなんて許されないことだ。
だけど、俺の事情を理解して、二人がそれでもいいと思ってくれたことに感謝している。
「今日から本格的に旅行を楽しみましょう」
関西は一週間ほどの観光を予定している。
1日目は京都の街並みを歩いて、湯豆腐やすき焼きをいただいた。
今日は観光地を巡るということで、八坂神社から清水寺、ハイヤーで移動してどんどん観光地を回っていく。
夜になれば、大阪に移動して料亭で食事をとって市内にあるホテルで一泊をとった。
昨日はモモと一緒に過ごしたこともあり、ナズナと共に眠る。
モモとナズナは互いに喧嘩することなく、譲り合うほど仲が良い。
不意に、ミミの視線が気になったが、ミミは俺たちの歪な関係に対しても不快に思っている様子は受けなかった。
三日目は、大阪の新世界や難波にいって串カツにたこ焼きを食べて、奈良へと移動する。
夕方前につけたことで奈良公園の鹿と戯れて、猪鍋をいただいた。
山登りをしたくなるが、彼女たちがいるので、今回はやめておく。
桜の咲き乱れる季節にきて、吉野山の桜をゆっくり歩いてみたい。
なんだか四人で行動していると修学旅行のようだけど、タケトはこんなに楽しい修学旅行を小学校でも、中学校でも経験していないだろうから、素直に楽しいと思える。
奈良で一晩泊まった俺たちは温泉に入って、モモとナズナが温泉に突撃してきたので、一緒に入ってのぼせてしまった。
二人がベッドに眠っている中で、俺は冷たい飲み物を求めて自販機があるフロアへ移動する。
そこにはミミが座っていた。
「タケトも飲む?」
「自分で買うっての」
自分が飲んでいる抹茶オレを差し出してくるので、俺は炭酸飲料を購入して隣に座る。理性を保ててはいるが、ミミを見た時からサガは発動している。
浴衣姿で無防備なミミは美少女で、欲しいと思ってしまう。
これがNTR悪役として、動くようになるタケトのサガというべき衝動というなら恐ろしいものだ。
「ふぅ」
「大丈夫?」
「えっ?」
「なんだか苦しそう」
「いや、気にしなくていい。持病みたいなものだ」
「そう?」
俺の中で決めたことがある。
サガがあるのは理解した上で、歯止めがなくなってしまった体を理性でどうにか抑え込む。
相手が俺を受け入れてない状態では絶対に相手を襲わない。
たとえ体が悪役として求めようと、心は俺なんだ。
「タケトも、ナズナも、モモも、みんな前に進んでいるんだね」
こちらを心配していたミミが、そんな言葉を発して、抹茶オレに口をつける。
ミミも周りの変化に悩んでいるのかもしれない。
「……」
「タケトはナズナとモモのことが好き」
「ああ、それは間違いない」
「ふふ、断言するだね」
「もしも、好きじゃないなら、俺は二人に手を出していない。それだけは絶対だ」
「……いいね」
「そうか? 二人の女性を好きだって言っている時点で、普通じゃないってことは思っているぞ」
「ううん。それがナズナとモモが嫌なら、ダメなんだろうって思う。だけど、二人もそれを受け入れていて、タケトもちゃんと二人を思っている」
モモは手の中で抹茶オレのペットボトルを転がしている。
丸い物を転がしている姿はやっぱりどこか猫のような印象を受ける。
「ハァー、多分、ナズナに聞いたと思うが俺は自分の気持ちに歯止めが効きにくい」
「サガの話は聞いたよ。あんまりわからなかったけど」
「まだ、どんなサガなのか、ハッキリとは俺にも分かってない。だけど、好意を抱いている女性が側にいると胸が苦しくなるんだ」
ナズナとモモの二人から受けたアプローチの時は向こうからの好意だったから、苦しくなることはなかった。
ミミに対して少なからず好意をいただいている。
その相手と二人きりになることで、こんなに胸が締め付けられるような苦しさを味わうと思わなかった。
「そうなんだね。辛い?」
「ああ、凄くな」
「ボクにしてあげられることはある?」
心配そうに俺の顔を覗き込むミミの手がそっと頬に触れる。
ダメだと思っても、ミミの手を握ってしまった。
「痛っ」
「すまない。今は触れないでくれないか我慢ができなくなるんだ」
「我慢?」
「さっき言っただろ。好意を抱いている女性が側にいると胸が苦しくなるって」
「それって、タケトはボクが好きってこと?」
「悪いな。二人も彼女がいる奴がミミを好きなんて言っても嫌だろう。だが、安心して欲しい。ミミが俺を好きじゃないなら。俺は絶対にミミに何かをしたりはしない」
息を整えるために、俺はミミから距離をとって先ほど買った炭酸を一気に飲み干して咽せてしまいそうになる。ぐっと息を止めて我慢する。
だけど、そのおかげで少しだけ気持ちを誤魔化すことができた。
「ボクがタケトを苦しめているの?」
「えっ?」
やっと気を鎮められた俺にミミが寄り添っていた。
「タケトはボクが好きで苦しい。ボクはまだわからないんだ。タケトのことは好き。ナズナやモモのことも好き。だけど、そんな関係でいいのかなって。わからなくて……。ねぇ、タケト。教えてくれる?」
「教える?」
「うん。キスしてほしい。嫌だったら、その続きはなし。だけど、嫌じゃなかったら、ボクもタケトの彼女になってもいいよ」
どっちなのか判断はできない。
だけど、それはミミも同じなのかもしれない。
これは二人の気持ちを確かめ合う行為。
俺はミミの髪をそっと撫でて唇を重ねるだけの軽いキスをした。
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