140字ツイート小説集1

(許されたアダムとイブ)


 男女が冬を過ごしていました。お互いを心身共に温め合うように気遣いましたが、男が病で倒れます。一向に回復しない男を、女は泣きつつ看病しました。途方に暮れていた時、女は窓辺の不思議な林檎に気づきます。食べさせると男は治り、女と共に春を迎えました。




(守護の神木)


 大樹は森の長老でした。いつも皆に慕われており、小鳥や小リスが太い幹を楽しそうに走り回ります。大樹に枯れ朽ちる時が来ました。周りで別れを悲しむ皆を優しく眺め、静かに目を閉じます。長い年月を生きた大樹の後に、守ってきた広大な森が果てしなく続きました。




(慈悲への返礼)


 村は食べ物に困っていました。ある日、みずぼらしい老人が、一宿一飯を求めます。皆は少しずつ食べ物を持ち寄り、夕餉を振る舞いました。老人は去り際、木彫りの地母神像を残します。村の祠に祀ると豊作が続き、皆は飢えることがなくなりました。




(財が繋いだ絆)


 生き別れた兄弟がいました。ある町で偶然、彼らは再会します。兄は豪商であり、弟は貧しい絵描きでした。兄は弟に小さな家とお金を与えます。弟は兄に、亡き父母との団欒の絵を描きました。優しい絵は町と兄の店の守り神として、末永く引き継がれました。




(人が好きな神)


 小高い丘に男が住んでいました。ある日、下の町に災厄が起こります。男は町人たちを全て呼び、丘で暫く避難させました。災厄は収まり、町人たちは男を崇めます。男は気に留めず、町人がくれる様々な物を少しだけ受け取り、暮らし続けました。




(縫い糸の縁)


 女は男に服を縫いました。男は風采が良くなり、仕事にありつけます。女のそれは無償の行為でしたが男は感謝し、礼を返そうとしました。女は男と結ばれることを望みます。男は女の裁縫の功で出世し、夫婦で白髪になるまで共に暮らしました。




(パンドラの再試練)


 業魔の城がありました。人々はそれを打倒し、取り返そうとします。多くの犠牲を払い、業魔はかき消えました。戦士たちは業魔の座で小さな箱を見つけます。中に入っていたのは、ひと欠片の光り輝く希望でした。人々は希望を大きく育てていきました。




(導きの聖杯)


 船が嵐に遭いました。流され辿り着いた岸壁に、船員が降り立ちます。そこは良い水と食べ物に溢れた楽園でした。嵐をやり過ごし、直した船で帰路の航海に立とうとした時、女神の船首像が持つ幸運の聖杯が消えているのに、皆は気づきました。船は無事に帰還したそうです。




(感謝の連鎖)


 いつもお腹を空かせている子たちがいました。ある人がご飯を充分あげ続けます。子供たちは成長し大人になりました。大人になった子たちは、お腹を空かせる子たちにご飯を沢山あげるようになりました。飢える子はいなくなり、どの子も感謝の心を持つ大人になったといいます。




(見返りを求めぬ情け)


 貧しく寝床もない人々がいました。ある町が温かく眠れる場所と食事を与えます。多くの人々がよく眠りよく食べ、元気と健康を取り戻しました。彼らはその後、町のために働きます。町には学校や病院、様々な建物が作られ、年を追うごとに栄えていきました。




(聖財)


 老夫婦がいました。夫は弱り、別れが来ます。妻は夫が託した封書を読みました。貧しく困る子達を助けて欲しいとあります。妻は蓄えたお金を使い、孤児院を開きました。老いた妻は孤児を助け続け、寿命がきます。孤児達は立派に育ち、遺志を継ぎ、各地で人々を救ったといいます。




(国越の情)


 速く走る男がいました。妻が大病になり、敵国へ薬を求め走ります。長距離を駆け、薬を手に入れた帰り、男は国境で臨検に遭いました。憲兵は敵国の者と見抜きましたが、必死の懇願に心打たれ、見逃します。薬は大病に間に合い、祖国と敵国の戦はそれをきっかけに終わりました。




(心を繋ぐ神託)


 人々が互いにいがみ合う国がありました。ある神が、神託を授けます。国を憂う者たちは、成すべき意味を考えました。壁が取り払われると、人々の顔は徐々に和やかになり、互いを支え合う国に戻っていきます。それを見た神は、心安らかに休息を取りました。




(人を支える富)


 富を持つ者がいました。貧しき子が学び、糧を得るために富を使います。子は育ち、人々のために尽くしました。富者が増え、富をまた子のために使います。国は豊かになり、志を持つ者が多く育ちました。困る者を皆で支える、理想郷になったといいます。




(心優しき指導者)


 渇きに苦しむ聖霊がいました。青年が綺麗な水場に連れて行きます。水で潤った聖霊は喜び、青年が住む国を見守りました。数々の困難に見舞われますが、加護により、国は徐々に栄えます。青年も国を支える力ある者になったといいます。




(白衣の聖闘士)


 疫と戦う病院がありました。ある者が激しい戦いの中、心を乱します。病院長は、よく休息を取らせ、まだ戦えるかと優しく尋ねました。医に就く者は心が収まり、再び戦いに戻ります。長い戦いの末、国と病院は疫を終息させたといいます。




(厳寒の恋)


 厳冬の日、寒さで憔悴した男がいました。女は家に迎え、温かい食事と寝床を与え、休ませます。回復した男は、雪中の狩りで食料を残し、立ち去ろうとしました。女は引き止め、男と恋に落ち、夫婦となり子を腹に授かり冬を越します。狩りの男神は妻と子を守り、暮らし続けました。




(慈母の歌姫)


 美しい歌姫がいました。争いに疲れた兵士たちは、敵味方隔てなく歌を聴きます。彼らの荒んだ心が穏やかになるまで、歌い続けました。皆、武器を捨て、二人の国王だけが残ります。平和の歌声が流れる中、国王同士語り合い、歌姫の前で戦を止めることを皆に誓いました。




(分かち合う子たち)


 お菓子の家に住む子がいました。お腹を空かせたお菓子を食べたことがない子が訪れます。その子にお菓子の家を食べさせました。家をみんな食べてしまいましたが、職人と豊穣の神々が大きなお菓子の家をまた建ててくれました。子どもたちは一緒に幸せに暮らしました。




(神を鎮める饗応)


 怒れる太陽神が地に光を照りつけていました。人々は神の怒りを鎮めようと、牛の肉と酒、踊り子の舞を捧げます。太陽神の怒りは収まり、人々と共に宴を楽しみました。穏やかになった天は程よい雨をもたらし、その地は永く豊作が続きました。




(地蔵菩薩のおつとめ)


 賽の河原で泣き続ける赤子がいました。地蔵菩薩が赤子を抱え、現し世のその子の父母に厳しく問います。過ちを悔い泣き崩れた父母をじっと見た後、赤子の魂を母の腹に宿し直しました。子は産まれ、父母は過ちを繰り返さず、元気な良い子に育てていきました。




(国の春を守るため)


 国を守る士官がいました。争乱が起き、彼はそれを鎮めるため戦います。争乱は収まりましたが深手を負い、帰還しました。家族は看病を続けます。しかし、春の色鮮やかな花を見ながら、彼は息を引き取りました。士官は祖国の丘に埋葬され、英霊として国を見守っています。




(頼光の再来)


 強い鬼が国を荒らしており、立ち向かう猛者が現れます。鬼と猛者は一昼夜戦い、遂に猛者が勝ちました。死に際、鬼は懐かしそうに猛者を見ます。猛者が鬼を倒したのは二度目でした。鬼は酒呑童子、猛者の前世は源頼光。宝刀童子切で再び斬られ、酒呑は永い眠りにつきました。

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