インフィニティ

 恒星間航行用宇宙船インフィニティ。地球からの大規模エクソダスのために作られた輸送用超大型宇宙船だ。その銀色の山を思わせる巨体に、これから数万人の命が乗ろうとしている。


「大きいなー! すごいね! 父さん!」

「ああ、すごい宇宙船だ。でもな、ソラ。これに乗ったら地球とはお別れだぞ。乗る前にしっかり見ておきなさい」


 ソラとテツヤの父子は貧しい生活を地球で今まで続けていた。ソラが今より幼い頃、彼の母は病気で他界している。貧困から十分な医療を受ける金を工面できなかった結果、テツヤは妻を失ったのだが、彼らの家庭の貧しさは、政府の圧政によるものであった。


(俺には地球に恨みしか残っていないが、ソラは違うだろう)


 宇宙船基地を中心とし、雄大な地平が広がる景色を目に焼き付けるように名残惜しそうに、ソラはじっと見続けている。倍率の高い抽選で選ばれ、移民船への乗船を許されたことは、ソラとテツヤにとって一生一度の幸運と言える。だが、ソラは苦しい生き方を強いられていたとはいえ、地球を離れることに一抹の未練が残っていた。しかし、それもすぐに吹っ切れた。


「船に乗ろう、父さん。新しい星に行こう」

「そうだな。そうしよう、それがいい」


 全ての移民を乗せたインフィニティは、間もなく発進し、大気圏から宇宙へ出た後、時空を歪め、恒星間ワープを行う。


 ソラとテツヤがその先に見た新しい星は、優しく美しい青さで彼らを出迎えてくれた。

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