お茶会

 次兄ともアビゲイルとも全員険悪のまま、翌日になった。


 出入り商人に頼んでおいた辻馬車に乗り、城郭へ向かう。不機嫌がつづいてるアビゲイルはひと言も喋らない。

(ドレスの着付けはひとりでやったのかな?)

 ちゃんと着れてるとこを見ると、意外に手伝ってくれる友人とかがメイド仲間の中に居るのか。ビックリだね。

 わたしの方は、自分ひとりでちゃっちゃと身支度整えれたけども。



 ガラガラガラッと車輪を鳴らし、辻馬車は王城の門前に着いた。ここからはまだ中まで舗装された道も続いているが、公共の場とはいえ、当然民間の辻馬車は入れず追い返される。

(貴族家所有の馬車なら通してくれるんだけども……)

 わたしにフェアネスの紋章入った馬車を使わせてくれるわけないから、仕方ない。


 馬車から降りて、侍女を従え城門へ。

 トボトボと歩いて近づいてくる着飾った女二人に、王城の出入り門を警備してた衛兵たちが戸惑っているのが見えた。



 子供が「通してくださる?」と言うから、お嬢ちゃんここは偉い王様の座すところで子供が入れるところじゃないんだよ、と少し困ったように諭された。


「あら、それもそうですわね。不作法いたしまして、お恥ずかしい」


 これ幸いと、用意しておいた手紙を渡し、では引き揚げますごきげんようと立ち去ろうとした。

 王太子側に取り込まれないため参加を断りたかったのを、適当な言い訳が考えつかずやむなく出席になったのだ。門を通れなかった、というのなら、王家側の責で回避出来る。


(わたしが一応は来たってのは、衛兵の日報で訪問者の記録読めば確認取れるでしょう)

 追い返した不審者なら、業務として絶対にメモってるはずだからね。

 フェアネス家として、一番良い形で落着出来そう♪



 え、いいのか?と不安そうにしてるアビゲイルを追い立て、さっさと戻って待ってもらっていた辻馬車に乗り込もうとする。━━━━直前に、近衛の隊長が大慌てで呼び止めに来てしまった。


(チッ)

 思わず舌打ちしてしまう。やむなく、王城側によってすぐさま手配された迎賓の馬車に乗り、衛兵に守られながら城内の庭園へと案内された。

 窓枠に頬杖ついて嘆息してると、対面に座るアビゲイルが緊張で蒼白になって固まってた。(ホント小物ね、この子……)情けなくて笑っちゃう。



 お茶会の会場は美しい庭園だった。季節の良さもあってか、咲き誇る花々が美しい。

 既に招待客は揃っていて、わたしが遅れてきた最後みたいだ。開催時間にはまだなってないけど、侯爵家の身分を鼻にかけた不遜な態度と思われてしまったかな?まぁいいや。


 執事の方に案内されてテーブルに着くと、すぐに王太子殿下の出迎えを受けた。素直にカテーシーで応える。

 実際には前回と今回で二回目の対面だけど、王太子は夢の中でさんざん追い縋って見た通り金髪碧眼の超絶美形で、幼少期はまさに天使の如き美貌だ。

 性格は確かに高貴で人当たりも良く万人に好かれるタイプだけど、この容姿に相応しい能力を十分の一でも備えてくれてたなら素晴らしい事だったろう。実際は、王族らしい冷酷さと、要領良く立ち回るのが上手いだけの、年相応の凡庸な男にすぎないのが残念だ。


(いやいやいや、それはあくまでわたしが勝手に見た夢の中だけの話だったわ)

 つい現実とごっちゃになってしまいそうになる。非礼を働く前に気をつけなければ。

 しかしフェアネスに負けず劣らず整った容貌をしてるなぁ。王侯貴族は選ばれし血統だからか、他の招待された上流階級の少年少女たちもおしなべて美しい容姿をしていた。


 比べてわたし自身は……。

(そら何処の馬の骨だ、って言われるよね~)

 言い訳させてもらえるなら、実父ではなく実母の家柄のせいじゃないか?と思わなくもないけど。




 殿下から、着けてきた宝飾品を似合うと褒められ、わたしからその贈り物の礼を言う。このあたりの定型文みたいなやり取りは、さんざん叩き込まれたから自然と出来て助かる。夢の中のわたし様々だ。

 ついで、先客たちとの紹介。

 女の子が四人と、男の子が五人。


 女の子は王太子の婚約者候補たちで、侯爵家一に伯爵家が三。

 男子は、王太子側近候補の将軍令息に大臣令息などなど。

 要は、わたし以外全員将来の王太子派ってことね。確かに何人か、学園の頃の面影あるわ。わたしを取り込みたいのか脅したいのか、そのあたりの意図があるのだろう。



 それぞれが、執事や侍女を連れている。中には自分の兄とおぼしき人物を連れてる男子もいた。

 わたしにとっては、そっちの方が重要だ。

 ウチの侍女と縁を結べそうな男性は居ないかな?と物色してみる。年頃が丁度良さそうで将来性がそれなりにありそうなのは……



 と、王太子の侍従が柔和に話しかけてきた。


 サボー・ディ・ネイト


 夢の中で、辣腕宰相となった貴公子だ。

 そして、わたしを貶めた陣営の主幹のひとりでもある。いい印象は無い。


 が、わたしから王太子に返した刺繍や栞を素敵だと誉めつつ、侍女をチラリと見てる。

 あれれ?何かアプローチしてる?


 えー、うっそー!マジでー?!


 もしかしたらもしかするの!?と、ちょっとワクワクしながら聞かれた刺繍の意図や意味の事を返事してると、次期宰相は目を見開いてわたしを見つめてきた。

 う、気持ち悪い…。この男、優秀だ優秀だと言われて、実際軍事も内政も優れた功績上げる事になるけど、夢のわたしはこいつが外交でやらかした尻拭いさせられた苦労から苦手にしてるんだよねぇ……


 どのみち立場的にも心情的にも対立するんだから、あまりお近づきにはなりたく無い。関わり合いになりたくない。






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