ループな小説家のループな苦悩

神楽堂

第1話 時を戻せる私

私の名前は鴻上琴葉こうがみことは

小説家、と言いたいところだけど、今はまだ、小説サイトに作品を応募しているだけの女子高生。

いつか、作品を認めてもらって作家デビューするのが私の夢。

その夢を実現させるために、今日も私は頑張っている。


さて、私、鴻上琴葉には実は特殊能力がある。

なんと、時を戻せるのだ。

いゆわる、タイムリープというやつである。

中学生くらいの時に、私はこの能力に目覚めた。


「時よ戻れ!」

と念じると、少し前の時間にのだ。

戻れることがある、と書いたのは、実は時をからだ。

どういう状況なら時を戻せて、

どういう状況だと時を戻せないのか、

私は検証をしてみた。


掃除当番で面倒な仕事を押し付けるジャンケン。

私はここで能力を使ってみた。

ジャンケンポン!

私はグーを出して負けた。

すかさず念じた。


「時よ戻れ!」


しかし、非情にも時は戻ってくれなかった。

私は、半分やけになりながら、教室のゴミ箱を持って焼却炉に向かった。

肝心な時に役に立たない能力。

と、私は思っていたのだが……


友達とパーティーをしたとき、お菓子が当たるくじ、というのを友達が作ってくれたので、私は引いてみることにした。


1番から5番までのくじがあり、友達5人が、1人1つずつ引いた。

1つだけ、当たりが入っている。

「琴葉から引いてみて」

そう言われ、最初に引くことになった。


真ん中の3番を引いた。

だが、引いてしまってから私は思った。

くじを作った友人の性格を考えてみれば、

真ん中や両端に当たりは置かないのでは?

そんな気がしてきたのだ。


そこで、私は念じてみることにした。


「時よ戻れ!」

すると、時は戻ってくれた。

くじを引く前の状態になったのだ。


私は、2か4で迷い、2番を引いた。

次の子は4番を引いた。


それを見た私は、今度はなんとなく4番の方が当たりのような気がしてきた。

人の選んだものが良いように思えてしまう心理だ。

私は、またもや念じてしまった。


「時よ戻れ!」

すると、ちゃんと時は戻ってくれた。


私は4番を引いた。

よし、これで間違いない。大丈夫だ。

私は、全員がくじを引き終わるまで、時を戻さずに待った。

果たして結果は……


3番のくじが当たりであった。


なんてこった。

時を戻してやり直したからといって、

必ずしもいい結果になるわけではなかった。


私は更に念じた。

「時よ戻れ!」

しかし、時は戻らなかった。


私は、自分の能力の秘密に気がついた。

どういう場合に時を戻せて、

どういう場合に時を戻せないのかを。



しかし、結果が出た後では、時を戻すことができなくなるのだ。


なんという中途半端な能力……

しかし、うまく使えばきっと役に立つはず。


その後も試行錯誤を重ね、自分の能力の限界を試してみた。

結果が分からないうちは何度でもやり直せるようだ。

せっかくの能力だ。

うまく使っていこう。


この能力を手に入れたのは、私が中学生の頃だった。


能力を自覚してから、私には悩みが増えた。

まず、自分の能力を人に話せない、というのは辛い。

話せば、おかしな人だと思われるだろう。


あるいは、面白がられて

「じゃあやって見せて」

とか言われそう。

記憶が連続しているのは私だけだから、

この能力を人に証明するのはなかなかに面倒くさい。

証明はやれないこともないのだが、

私の力が認知されたら余計面倒なことになりそうな気もする。


何か悪いたくらみに利用されてしまうかもしれない。

だから、この能力のことは誰にも知られてはいけないのだ。


この能力をどう使っていけばいいのだろうか。

当時中学生だった私は、そんなことばかり考えていた。


ある日、街で小学生時代の友人にばったり出会った。

彼女の名前は恵美えみちゃん。

すらりとしていて、とってもかわいくて、頭もよい子だった。

そして、涼介くんという男の子といつも仲良くしていた。

私は正直、そんな恵美ちゃんを羨ましいと思っていた。


恵美ちゃんは、中学は私立の方に行ったので、しばらく会っていなかった。

けれど今日、街で見かけて、そのかわいい制服姿にびっくりし、

私もその学校に行きたい!

と思ってしまった。


その学校は、高等部からも入学することができる。

私は、憧れの恵美ちゃんと同じ学校に入って、

あのかわいい制服を着ることを目標に、

毎日の勉強を頑張った。


使うんだ、ここで私の能力を。

私はそう思った。

結果が分からないうちは、何度も時を戻せる。

時が戻っても、私の記憶は維持されたまま。


ということは、受験勉強を何度も繰り返せるということだ。


私は、高校受験の直前1週間を、いくども繰り返した。


試験問題を見てから時を戻し、その範囲を勉強しよう、とも考えたが、

問題が分かってしまうと時を戻せなくなるのではないか、

という不安があった。

なので、受験する前の期間を何度もループしてやり直すことにした。


はたして、この作戦は成功した。

中学で習う全範囲の復習をしっかり行うことができた。

納得がいくまで、勉強をすることができたのだ。


気持ちに余裕を持って受験会場に行くことができた。

私はすっきりしていた。

これだけ勉強を頑張ったのだ。

落ちても悔いはない。そう思えるまでに至った。


そして、合格発表、当日を迎えた。


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