大陸西域編 13
第209話
大農園の麦畑の村、中規模農園の野菜畑の村、小規模の芋畑のあるシェアハウスの村と、エリザは暮らす村人たちの雰囲気や考え方が異なる村に、占い師の旅芸人に変装して訪れた。
農園の規模のちがいで、村人たちの暮らしが異なっていた。
職場の環境や人間関係のちがいがあり、パートナーとの恋愛や結婚生活の考え方や、子育ての方針まで異なる状況となっていた。
どの規模の農園が一番、村人が多いかでいえば、中規模農園の野菜畑の村のほうが大規模農園の村で暮らす人よりも多い。
シェアハウスの村の村人は、全体からすれば10%ほどだろう。
大農園の村人たちは40%前後で、中規模農園で働く村人たちは50%前後となっている。
とはいえ、大農園と中規模農園は大農園の下請けの野菜畑などもあるので、まったく人間関係でいえば無関係ではない。
シェアハウスの村に集まってきた女性の人たちは、大農園や中規模農園の村の暮らしをしていた人たちだったけれど、それぞれの事情からやって来た人たちである。
他人と見栄を張り合ったり、比べ合ったり、競争している他の村での暮らしよりも気持ちが落ち着いて暮らせているけれど、なんとなく大農園や中規模農園の人たちに引け目のような気持ちを感じる時もあると、相談者たちはエリザに話してくれた。
エリザがターレン王国でも、自治権がある伯爵領の環境によって人の暮らしぶりや考え方まで異なっていることを、相談者たちに聞かれて、少しだけ教えることがあった。
すでにロンダール伯爵領、ブラウエル伯爵領、ベルツ伯爵領で見てきた村人たちの暮らしぶりに比べると、リヒター伯爵領では生活の困り事が少ないように見えた。
エルフェン帝国の中原の耕作地の村に近い雰囲気も、全体的にみればリヒター伯爵領の村には、エリザはある気がしていた。
しかし、シェアハウスの村は、エルフェン帝国の中原にある耕作地の村にはないものだった。
(金貨を支給できたら、このシェアハウスの村みたいに同じ考え方をした人たちが集まって、まるで小さな国みたいな村を作って暮らし始めるのかも)
シェアハウスの村に来る人は、ザイフェルト夫妻から噂を聞いて心が疲れた人や、離婚して困窮してしまった人が拠り所を求めてやって来る人たちで、必要な衣服や他の食材はザイフェルト夫妻が必要な分だけ集めて運んで来てくれているらしい。
野生馬の荷馬車襲撃事件で、トレスタの街からこのシェアハウスの村へ運ぶ荷馬車も襲撃されたのは、他の大農園や中規模の農園の村よりも痛手だった。
シェアハウスの村があって、女性たちが協力しあって暮らしているという噂を大農園暮らしの村の人たちはあまり感心を持たなかった。自分には関係ないと思っているふしがあった。
中規模の農園の村暮らしの人たちは、ちょっと変わり者な人たちが生活が苦しくなって協力しあっているのには同情はしていたが、農作物の専売特許の優遇処置を知る人は、ちょっとずるいとさえ思う人もいた。
リヒター伯爵はいろいろな村の人たちが交流を持って、全体としてまとまって問題を解決できればいいと考えていたが、人間関係のこじれから避難するように、シェアハウスの村に集まっている人たちは、再び大農園の村や中規模の農園の村暮らしになかなか戻りたいと思わなくなり始めていた。
似たような苦労をして嫌な思いを経験した人たちが集まったこともあり、心を打ち明け合うことも一緒に暮らしている人たちと相談し合うことが多かった。
リヒター伯爵は、シェアハウスの村で女性たちが、恋愛はもう同性愛でいいと考えて異性を求めなくなっていることを想像できていなかった。
前世では大神官リィーレリアだったヘレーネや、大陸南方のクフサールの都の守護者シン・リーはいずれそういうことも起き始めると考えていた。
大農園の村で育った子供たちの考え方は、親の考えに従うことが良いとしつけられていて、大人になって大農園で働く立場になれるように競争して、さらに若いうちに結婚しないといけないと信じていて、離婚したり、なかなか恋愛できないのは自己責任で努力が足りないからだと考えがちに育っていた。
中規模の農園で育った子供たちは、父親と母親がどちらも同じように働き、夫婦で家事の分担なども行っている夫婦は対等で平等という考え方ができあがっていた。
大農園での安定した働き口を希望したが、選ばれなかった人たちが中規模の農園で働いていることもあった。
実家は裕福な家庭という人たちだけれど、一度競争に負けたような感じがあって、必要なら妥協してもいいという考えを持ってしまいがちだった。
恋愛まで妥協してパートナーを選んだ結果、夫婦で我慢くらべになったり、強気で相手を従わせるようなトラブルになってしまうことが頻繁に起きていた。
その両親の考え方や行動を、子供たちは見て育っている。
裕福な大農園の人たちのほうが結婚と恋愛は別と考える貴族たちのように、浮気や不倫をしがちだと思うかもしれないが、実際は大農園では立場を守るために浮気や不倫の弱みを握られるリスクを避ける傾向があった。
家庭の不満や愚痴を未婚の女性に相談したりして、家庭から離れたところで浮気や不倫の恋愛トラブルにはまるのは、中規模の農園で暮らす人が多かった。
どの農園もリヒター伯爵が大地主のようなもので、ベルツ伯爵領の村のようにそれぞれの村で地主の村長がいるわけではない。
栽培している作物のちがいと生産量の差だけで、本来、どちらが偉いというような格差はない。
リヒター伯爵が考えている全部の村が交流しあう状況になっていたら、そして帝都の学院のように子供たちが、どんな家庭環境でも同じように一緒に学ぶ施設が作られていたら、もっとややこしい恋愛関係トラブルで、自信喪失する男性たちは増えてしまったかもしれない。
恋愛は、どこか選別したりされたりする雰囲気がある。そして、相手選びの基準が、自分にとって都合の良い相手と考えたり、妥協していると、安定せずに破綻することがある。
シェアハウスの村の恋愛の雰囲気は、母親たちが仲良くしているのを見て育った子供たちほど、同性愛にこだわりはないところがあった。
生物がなぜ繁殖して子供を育て続けているのか?
その答えのシンプルだが、半分しか人には当てはまらない答えは快感と快楽を得るためというものである。
それは蛇神ナーガが、世界に散らばった女神ラーナの力を取り込もうと創世の時から、ずっと求め続けている影響から生じた生物に本能的欲求ともいえる。
しかし、蛇神ナーガと女神ラーナだけではなく、女神ノクティスがこの世界には存在している。
愛と豊穣の女神ラーナは、蛇神ナーガに取り込もまれないように逃げ続けているだけでなく、いろいろな生物として転生して、蛇神ナーガと創世した世界の中で生きる道を選んだ。
女神ラーナは、神の加護によって世界に命をめぐらせている。
そして世界が蛇神ナーガに統合されて、創世から散らばっている命が絶滅してしまわないように存続させ続けている。
女神ノクティスは、大神の蛇神ナーガと女神ラーナの力のどちらも半分ずつ授かりあらわれた存在であり、蛇神ナーガの異世界や女神ラーナのこの世界の狭間にある夢を司っている。
蛇神ナーガに統合されるのではなく、愛したり愛されたりしたいと女神ラーナは、さまざまな姿で女神であることを隠して化身として転生を繰り返している。
完全に拒絶するわけでもなく、諦めて統合されるわけてもない。
受け入れつつ抵抗しているような、より良い関係を探し続けているような曖昧なところもある。
女神ノクティスは、女神ラーナのように世界の一部となって存在し続ける道を、聖騎士ミレイユに恋をするまで選ばずに夢の世界だけに存在していた。
しかし、蛇神ナーガにミレイユの命が奪われることに反逆して、聖騎士ミレイユを守護して、共に生きる道を選んだ。
結果として、女神ラーナの化身の乙女である僧侶ラーナを聖騎士ミレイユが守るために命がけで蛇神ナーガの怪異と戦ったので、女神ノクティスは蛇神ナーガに対立して、女神ラーナを助けることになった。
聖騎士ミレイユが、蛇神ナーガの脅威に怖れて戦わずに屈していたら、女神ノクティスはミレイユを失い、また、ノクティスも蛇神ナーガに統合されて、世界の見えざるバワーバランスの均衡は失われていただろう。
本来であれば世界の命運に干渉せずに、蛇神ナーガから夢の世界へ逃れ隠れていた女神ノクティスが、魔剣として出現したことで、世界の人々の心に影響を与え始めている。
女神でありながら、女性のミレイユに恋をしているノクティス。
一人の女性が異性である男性を真似るのではなく、ありのままの自分のまま、同性の誰かに恋をして愛する気持ちを持つ人が現れ始めたのは、単純に同性だけて共同生活をしている状況だからという単純な理由ではなかった。
問題解決、トレスタの街へ戻られたし。
白い梟のホーが、野生馬の襲撃事件の解決をエリザたちにトレスタの街から飛んで来て、預言者ヘレーネの伝言の短文の手紙をシェアハウスの村に届けた。
「この村から明日、また旅立つことになりました。仲良くしてくれてありがとうございました」
エリザに惚れて通いつめていたシェアハウスの村の乙女カリンはエリザに別れの挨拶を言われて、涙目になってうつむいた。
帝都では、貴族令嬢たちが同性の恋人に夢中なのが当たり前になっている。
しかし、リヒター伯爵領の常識では同性愛者であることは、ひそひそと囁かれて、めずらしがられてしまう。
だから、シェアハウス内の秘密として、ザイフェルト夫妻をふくめて他の土地の人には同性愛者であることをカリンは隠していた。
レチェがカリンの膝の上に乗り慰めるように小さな声で鳴いた。
「カリンさん、あなたのことを好きな人があらわれそうです。誰か思い当たる人はいますか?」
カリンから頼まれた最後の恋愛占いの結果は、的中していた。
エリザたちが村から去ったあとで、告白できずに失恋してしまい落ち込んでいるのを、まわりの人たちに心配かけないように元気なふりをして隠すカリンの部屋へ、数日後、カリンの恋人になる新たな同居人がやって来るのだった。
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うーん、説明を詰め込みすぎて長くなってしまった。
お読みくださりありがとうございます。
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