第197話
「……あの、私の恋人が、たくさんの美人さんたちを見て、私のことを見劣りしてしまって、嫌いにならないか心配で」
ウェイトレスのコニアは、預言者ヘレーネに相談した。
「それはまったく心配ないようです。花を私たちは綺麗だと思って見ることがあります。その季節ごとに咲く花に目を奪われても、自分の好きな花はその季節に咲いていなくても思い浮かべられるものでしょう?」
ヘレーネはそう答えると、並んでいた占いの木札の中にある太陽の絵の彫られた木札に指先を乗せた。
「これは太陽ですが、大きな花と見ることができます。陽は昇り、昼間は天を巡り、夕方には地に沈み、また朝には昇ります。何度も繰り返して。夜には月や星が天を巡りますが、陽の光のまぶしさやぬくもりを忘れてしまうわけではありません。何度も陽が大地を照らすように、その恋人の隣で笑っていればいいのです。心配はありません」
ヘレーネはそう言うと、占いの木札をてきぱきと集め、手のひらに乗せた木箱に、占い木札を収めた。
「はい、ヘレーネ様。ありがとうございました!」
ぺこっと頭を下げたコニアは、席を立つと、店内から笑顔で厨房に入って行った。
シナエルは、その占いの木札と似た別の絵が彫られた木札を見たことがあった。
バーデルの都の賭博場には、
22枚の木札の裏側には数字と星の絵が彫られている。
ディーラーは先に1枚、表側に並んだ木札の中から1枚を選び手元において伏せておく。
残りの21枚の木札から、客は伏せられた木札を2枚選び、そのうち1枚を選んでディーラーや他の客と勝負をする。
最も小さな数字の木札を選んだ者が場に出された賭け金を得る。
客はディーラーの木札が公開される前に自分の木札の数字を公開して、勝負から降りることができる。降りると賭け金は半分返却される。
勝った者は、参加者全員の賭け金を総取りできる。同じ数字で引き分けになることはない。例外はディーラーが勝利放棄した場合のみである。
ディーラーは引き当てた木札の数字が1から5の場合のみ、数字を公開する前に勝利放棄の引き分けを宣言することができる。
ディーラーが勝利を放棄しているため、参加者がディーラーとの数字くらべで負けていても、場に出した自分の賭け金を戻してもらえる。
数字の1が最も強く
客は自分の木札を開く前に、2倍、4倍、8倍、10倍を宣言できる。勝てば総取りする金額が上乗せになる。負ければ、勝者に不足分を上乗せして支払う。
10倍勝負はめったに宣言されない。
報酬の倍取りを宣言する参加者がいると、他の参加者は勝負を降りてしまい、倍取り宣言の参加者とディーラーの勝負になりがちになる。
シナエルは占い木札を見て、バーデルの都の賭博場で見た
(木札に彫られた絵から、お悩みを解決できそうな意味を探すわけですか。なかなか難しそうです)
預言者ヘレーネから、エリザに占い木札を贈られた。
この占い木札を使って、エリザとシン・リーはリヒター伯爵領の村人たちの相談事を聞いて、悩んでいる気分を雨上がりのあとの青空のようにする手助けをするというのが、ヘレーネの頼み事なのだった。
「えっ、ヘレーネさん、もらって良いのですか?」
「もしも、自分が悩んでいたり、悩んでいる人がいたら、励ましたり、八方塞がりの考えを拓くきっかけを見つけたりする時にお使い下さい。あと、気軽に自分の運勢を占うこともできますよ」
(こういう恋占いは、ジャクリーヌが好きそうだなぁ)
アルテリスはそう思いながら、預言者ヘレーネの占う様子や並んだ木札をながめていた。
「賭け事の木札ですか。もしかすると、もともとあったものから、工夫されて別の使われかたをされるようになっていったのかもしれませんね」
ロンダール伯爵領の木工職人たちのドレチ村で、一番星の賭け木札は作られたものである。
母親アリーダが使っていた占い木札を、預言者ヘレーネはエリザに贈った。
「もし、エリザ様が帝都へ帰られたら、この占いを教えて欲しいという人を占ってあげて下さい」
アルテリスは、首をかしげてヘレーネに言った。
「なんで恋占いなんだ?」
「ふふっ、アルテリス、恋は一瞬でしょうか、それとも永遠だと思いますか?」
「あのさ、そんなこと、あたしにはわからないよ!」
「だから、人は恋に悩むのです」
アルテリスに、預言者ヘレーネはそう言って微笑していた。
(他人の気持ちを感じたい時に、アルテリスのように何も道具を使わない人もいますが、道具が必要な人も、たくさんいるものなのですよ)
預言者ヘレーネはそう考えている。エリザは占い木札を手に乗せてみて、少し優しいぬくもりのようなものを感じた。
(ロンダール伯爵の妹ちゃんたちに見せたら、これはすごく喜んでくれそうですね)
ロンダール伯爵は、自分のタロットカードに似た絵が彫られた占い木札を、当主として受け継ぎ所有している。
ロンダール伯爵の一族にも、並べかたがちがう木札の占いが伝えられていた。
+++++++++++++++++
お読みくださりありがとうございます。
「面白かった」
「続きが気になる」
「更新頑張れ!」
と思っていただけましたら、★をつけて評価いただけると励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます