第195話

 アルテリスは、ヘレーネのことを性悪女と呼ぶ。

 野心がある人物たちがヘレーネの前世であるリィーレリアが必要だと考えて、自分のものにしようと魅了された結果、奪い合ったからである。


 偽物の預言者の老人イドリースは、一角獣ユニコーンに奪われた少女ラーダでなくても、同じ褐色の肌の美貌の乙女リィーレリアさえいればいいと考えた結果、ラーダは一角獣ユニコーンに捧げて、リィーレリアを拉致した。


 アルテリスはエリザに性悪女と呼ぶ理由のたくさんあるうちの一つの話として、偽物の預言者や三人の豪族の王たち、王たちの寵妃やその配下だった武将がリィーレリアに魅了されて身を滅ぼしていったという話を聞かせた。


 それは自業自得ですから、とヘレーネは涼しい顔をしている。


「もしも、アルテリスに一騎討ちの決闘で勝てたら、あなたの妃になります」


 リィーレリアは条件つきで婚姻を受け入れたふりをして、アルテリスをこのリィーレリア争奪の騒動に巻き込んだ。

 ユニコーンに乗って一騎当千の実力を発揮したアルテリスの実力を信じない主君を裏切った腕に自信がある武将は、アルテリスに一騎討ちの決闘で、こてんぱんにされてしまい、結局、リィーレリアを連れ去られることになった。

 

 ルヒャンの街にいた子供たちや予知の力を持つ少女ラーダは、アルテリスが街に攻め込もうとしていた三人の豪族の王たちが集めた千人の軍勢を撤退させたのを見ていた。

 ユニコーンとアルテリスの満月の夜の武勇伝は、生き残った子供たちが老人になるまで、ずっと語り継いだ。


 アルテリスとユニコーン状況に対応して騎乗して協力した。

 また、それぞれで部隊を各個撃破して、陣形を台無しにした。

 さらにアルテリスが敵の服や武装を奪って変装して戦うことで、同士討ちさせたりして、敵軍を混乱させた。


 少女ラーダは自分がいれば、また偽物の預言者のような人物に利用されると考えて、ユニコーンと一緒に行くと決めた。

 少女ラーダは神隠しでアルテリスや子供たちに見送られて、目の前から朝の光の中で消えた。


「だから、あたいは性悪女の時渡りの話を信じたのさ」

「ふふっ、アルテリスは目立ちすぎてましたからね。アルテリスがいれば戦に勝てると噂が立って」

「いやいや、性悪女のほうが、絶世の美女とか言われて、すごく狙われまくってたから!」


 本当に今でも、仲がいい二人だとエリザは思った。


(ちょっとうらやましいです。思い出せないけれど、帝国宰相エリザになる転生前には、私にもこの二人ぐらい仲がいい友達がいたのでしょうか?)


 今はそれぞれ目立ちすぎないように暮らそうと、アルテリスとヘレーネは決めたという意見で一致するとこれを見る限り、かなり大騒ぎを二人で引き起こしたことは間違いないようである。


「エリザ様とシン・リーは、私たちがバイコーンを対処しているうちに、ザイフェルト夫妻に会って一緒に、村人たちの相談を聞いてみていただきたいのです」


 エリザはヘレーネに言われて、少し困った顔になった。

 エリザは中原の村で、アルテリスと一緒に草むしりや収穫の手伝いをした経験がある。


(アルテリスさんのほうが、農家のみなさんの相談なら、ちゃんと対処できそうですけど)


 そもそも、自分はあまり話しかけられるのは苦手だと思っている清楚すぎるエリザなので、村人たちの相談を直接聞くのは、あまり気乗りがしない。


「エリザ様は、シン・リーが対策を考えたことを、占いの結果として伝えて下されば、丸く収まるでしょう。これは、シン・リーだけではできません」

「うにゃ~」


 そうだと言わんばかりに、レチェが鳴いたので、ヘレーネにレチェは、チラッと見られた。

 レチェが急いでエリザの足元へ逃げてきた。


「バイコーンの対処にレチェは役立たずですから、エリザ様としばらく一緒に連れて行ってもらえますか?」

「ヘレーネさん、レチェくんをあずかるってことですか?」

「レチェは不思議な猫です。しかし、とても直感の鋭い子なので、もし、村のほうで何かあればすぐに気づくはずです。聖女様、お願いできないでしょうか?」


 ヘレーネが、エリザは猫好きなことを感じ取って説得している。

 アルテリスは、やっぱり性悪女だとジロッとヘレーネを見ているが、ヘレーネは無視している。


(リヒター伯爵領の農家のみなさんのお悩み相談は、ちょっとめんどうそうですね。だけど、レチェくんをあずかるのは、大歓迎ですよ!)


「わかりました、レチェくんをちょっとあずからせてもらいます」


 エリザが微笑して答えるのを、アルテリスは見て、こうやって性悪女は人を丸めこんで頼みごとや自分の都合のいいように人を動かすんだと思った。

 やっぱり性悪女はあざとい。


「エリザ、ザイフェルトとフリーデに会ったら、スト様のところの話を聞いたらおもしろいかも。ザイフェルトはあたいと修行して、あたいほどじゃあないけどさ、かなり強くなったからね。エリザが法術とか魔法とか、そういうのを身につけるのに、なんか参考になるかもよ」


 アルテリスも、エリザの興味が持ちそうなことを言ってみた。


(アルテリスさんみたいに、戦闘力を上げ修行はするつもりはないんですけど)


 またエリザの顔色がちょっと困ったみたいな感じになったので、ヘレーネはチラッとアルテリスを見た。


(アルテリスとレチェは、誰かと交渉するときには、そばにいないほうが、すんなり上手くいく感じですね)


 ふぅ、とヘレーネはため息をついて気を取り直し、エリザが占いで使えそうなものを用意しようと考えることにした。

 思いつきで言ったので、準備ができていない。


(うーん、占い師ですか。なんか変わった服装とかしたほうがいいのでしょうか?)


 エリザはなぜか、占い師は変わった衣装をまとっているものと思い込んでいた。


 大陸南方から大陸各地へ旅立った流浪の民は、占いをしながら人の悩みに寄り添いアドバイスをしながら、旅を続けた人たちでもあった。



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