前世はブラックだったから異世界では引きこもりたい
プラントスクエア
第1話 次は引きこもりたい
「ハア・・・ハア・・・ハア・・・」
男の名前は紅林陣(57)。会社がブラックすぎるあまり疲労が溜まり現在目の前が霞み息も絶え絶えでフラフラで歩いている。
そのせいで歩行信号が赤なのも気付いていない。
プー!!ドーン!!
赤信号に気付かずにそのまま横断歩道を歩いた結果止まり切れなかった車に撥ねられた。
「(・・・ああ・・・死ねてよかった・・・来世では・・・働きたくないな・・・)」
撥ねられた陣に駆け寄る周囲の人たち。しかし次に陣が目を覚ましたのは地球ではなかった。
*****
「・・・んん・・・ここは・・・」
見渡す限りの草原。近くに海が存在する。そんな場所で目を覚ました陣。
「・・・俺・・・どうなったんだっけ?・・・」
必死に思い出そうとしている陣。
「そうだ・・・俺って車に撥ねられて・・・なのにどうして・・・それにここはどこなんだ?・・・」
分からないことだらけで混乱している陣。そこで下を向いた結果、陣はやっと自身の違いに気付く。
「あれ?地面が見える?」
陣は前世では太っており真下はお腹が邪魔して見えなかった。それなのに今は見えていることに驚いている。
「何がどうなって・・・まさか異世界転生?」
前世の唯一の趣味である漫画によって異世界系の作品もある程度は読んでいた陣はその可能性に思い立った。
「いやでもまさか・・・そんな・・・でも、それ以外に可能性は・・・」
他の可能性を考える陣。しかし一向に思いつかない。なので恥を覚悟であのセリフを叫んだ。
「す、ステータスオープン!」
ブォン
陣が半信半疑の状態で言った結果本当にステータスが出た。
「じゃ、じゃあ・・・本当に・・・異世界に・・・・・・やったー!!あの会社から解放されたー!!」
陣は異世界に来たことよりも会社に行かなくてよくなったことに一番喜びを感じていた。
「っとそうだった。ステータスはっと」
_______
-紅林陣-
年齢:17歳
性別:男性
種族:人間
スキル:家(至高)
称号:異界者・限界を迎えし者
_______
こういったステータスが陣の目の前に出てきた。
「HPとかMPとかはないのか・・・17歳っていうのは驚きだけど名前とか年齢とかはいいとして問題はスキルか・・・家ってどんなスキルだ?至高って何?」
分からないことだらけの人。しかし口に出したのがよかったのかそれらの詳細が陣の目の前に出てきた。
「・・・便利だなー・・・」
家:発動させれば家が出現する。その家は本人が快適に過ごせるような家となり
至高:スキルのランクで最高ランク。*スキルのランクは上から至高→上位→中位→下位となっている。
「つまりこの家スキルは最高ランクのスキルってことか?・・・どうやって使うんだろう?」
称号は後回しにして陣は家スキルを使ってみたい気持ちでいっぱいだった。
「え~と・・・家よ出ろ!」
ポン
なんとかくそう宣言した陣。ポンという音と共に得てきたのは一般的な普通の家だった。
「・・・豪邸とかじゃないんだ・・・」
なんだか拍子抜けした陣。すると、その声を聞いてか一般的な二階建ての家から見たこともないような豪邸に姿を変えた。
「おお・・・姿って変えられるんだ・・・いやでもこれから住むんだったらさっきのがいいかな?・・・」
という意見を受けて家は先ほどの一般的な二階建ての家に戻った。
「うんうん。これから住むんだったらこれが一番だな」
そう言いながら家に近寄っていく陣。そして家のドアノブに手を掛ける。
「ただいまー」
なんとなくそう声を出して家の中へと入る。当然誰の返事もない。
「おお!普通の家だ!異世界にいるのに普通の家がある!」
興奮した陣は早速家の中を見て回ることに。
「おお!ビールがある!コーラもリンゴジュースも!」
「肉も魚も野菜もあるし料理器具もあるし料理は出来そうだな!」
「こっちはお菓子か!最近は食べてないな~」
「おお!漫画がある!小説も!テレビがあるしゲームもある!」
興奮しっぱなしの陣。さらに判明したことと言えば飲み物や食べ物は即座に補給され漫画や小説やゲームは最新の物。当然のようにテレビも見れる。
「わけわかんないことだらけだけど・・・俺は引きこもるぞー!」
こうして陣は引きこもる宣言をした。
ちなみに時間が経ってから確認した称号はこのような感じだった。
異界者:世界と世界を渡ってやってきた者。
限界を迎えし者:なにかしらの限界を迎えた者。生きているのは稀。
おそらく後者の称号は仕事で限界を迎えたのだろうと推測した陣は改めて解放された喜びで泣いた。
*****
数日後
「ギーレモ公爵!我が領内に所在不明の珍妙な家らしきものが建っています!」
「なんだと!我輩の領内を不法占拠する輩はどこにいる!」
「ゾーラン王国との国境付近です!」
「騎士を派遣せよ!そのような不届き者を排除せよ!」
「はっ!」
こうして陣がベッドの上でお菓子をつまみながら漫画を読んでいる裏では危機が迫っていった。
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