第34話 合コン

「なァ、慎一ィ、今度合コンしねぇ?」


 数少ない男友達の隼人はやとから電話がかかってきたと思えば開口一番そんなことを宣った。

 隼人のやかましい声は電話越しでもやっぱりやかましかった。声量や声質もさることながら、その内容にも僕は眉を顰める。


「合コン? お前、女子にまるっきり興味ないみたいなこと言ってなかったか?」

「いや、そうだったんだけどさァ。俺のダチが年上彼女にベンツで送り迎えしてもらってて、いいなァって思ってな! 俺ってイケメンだろ? 合コンすれば彼女の1人や2人簡単にできるだろーし」


 電話切っていいかな? なんでこの世界の男ってナルシストばっかなん?


「外車の助手席なんてそんな良いものじゃないぞ?」


 会長に外車で拉致された記憶がフラッシュバックする。あのちびっ子の運転はもう勘弁願いたい。


「慎一は童貞なんだから外車の助手席に乗る経験なんてしてないだろ。見栄張るなよ」

「お前いい加減電話切るぞこのヤロ」

「まぁ聞けよ。合コンに興味がある男子なんてほとんどいないだろ? だから俺の引き立て役探すのが大変なん——」


 僕は電話を切った。

 5秒もせず、プルルルルルと再びスマホが鳴る。

 

「——いきなり切るなんて失礼な奴だなァ」

「お前の発言の方が100倍失礼だわ」

「頼むよ慎一ィ! 今度エロDVDやるからさァ」


 ドクン、と胸が鳴った。頭の中に声が響く。

 


 ——AVが欲しいか……?



 AVが……欲しい!

 僕のち◯こアームズが覚醒した。

 この世界は男女比の関係で、男向けエロDVDが極端に少ないのだ。多分、男はヤろうと思えば、簡単にヤレるのも原因の一つだと思う。僕みたいな童貞男子も珍しいのだろう。

 だからこそ、誇り高き童貞にとっては喉から手が出るほど欲しい逸品なのだ。


「しょ、しょーがねぇーなぁ。親友のためだ、僕も一肌脱ごう!」

「ホントか?! サンキュー! やっぱり持つべきものは良き『当て馬』だよなァ」

「お前、まじでぶっ飛ばすぞオイ」


 こうして僕の合コン参戦は決まった。

 


 ◆


 あちこちで聞こえる楽しそうな声は程よく賑やかで、居心地が良さそうな店だった。

 隼人とその友人と連れ立って奥のテーブルまで進むと、テンションの高い女性陣の声が上がった。


「あ、来た! 来ました! ヒュー! イケメーン❤︎ 待ってたよォ」


 茶髪ショートカットのお姉さんが言った。お調子ものっぽい。生徒会にはいないタイプだ。


「今日は来てくれてありがとうねぇ〜。お姉さんとっても嬉しいなァ」


 こちらも年上の大人なお姉さん。黒髪なのは薫先輩と同じだが、声がアニメ声で甘ったるい。付き合ったら甘々に甘やかしてくれそう。よき。


「うん、本当嬉しい〜! で会えて嬉しい〜」


 こちらは波打つような薄桃色の髪が綺麗な美少女。名を桃山という。




 …………………………。




 桃山ァァアアア?! 何故いるぅぅぅうう?!

 コンタクトでもしているのか、いつもの赤縁メガネは見当たらない。雰囲気が変わって、新鮮だ。可愛い。

 ただ、僕にときめいている余裕はなかった。

 なぜなら桃山の綺麗な瞳の奥に激しい嫉妬の炎が燃え盛っているから。


 怖ぇぇええよ! てか、どっから情報仕入れた?!

 いや、聞くまでもない。聞くまでもなく、盗聴である。それしかない。奴の十八番おはこだ。


 合コンは自己紹介から始まった。

 恐怖であまり聞いていなかったが、まず女子2人が自己紹介をしたようだった。茶髪ショートのお調子者っぽい女性が麻弥まやさん、23歳新米弁護士。黒髪ロングのアニメ声の女性が京子きょうこさん、24歳ファッションデザイナー。

 2人とも結構美人だし、スペックが高い。そこに並べる桃山って何者なの? 確かに桃山もエリートだけども。エリートストーカーだけども。まぁルックスでいったら桃山が最強だから多分それで呼ばれたのだろう。

 自己紹介の順番は、ついに桃山に回ってきた。


「桃山遥香でェ〜すっ! 20歳女子大生やってまァ〜す」


 嘘つけ! お前女子高生だろ! 高校2年生だろ!

 この合コンの参加条件が『20歳以上』だからだろう。

 隼人は車送迎を前提にしているから、高校生だと門前払いされると踏んだか。

 桃山の自己紹介は続く。


「好きなタイプはァ、優しくて、変態で、名前に『慎』がつく人かなっ。てか、そこの人でェ〜す」

 桃山が両手で僕を指差した。

 それもう『好きなタイプ』じゃなくて、『好きな人』じゃん! 絶対一発目からやっちゃダメなやつじゃん!

 ただでさえ、笑顔ひとつ見せずに品定めしていた隼人ともう一人の謎のぽっちゃり男子——『謎ポチャくん』と呼ぶことにする——が、眉を顰めて桃山を睨んでいた。

 てか、なんでお前らしかめっつらなの?! 自分で合コン開催しといて、そりゃないわ! むしろ逆に、ニコニコしてる僕の方に「なんでお前、女子如きにそんな尻尾振ってんの?」とでも言いたげな冷めた視線を向けてくる。


 不意に謎ポチャくんが呟いた。


「ボク、人の物を掻っ攫うのが好きなんだよねぇ」


 にちゃっ、とした笑みを僕に向けてから、桃山に「ねぇ遥香」と声をかけた。

 謎ポチャくんが初対面でいきなり下の名前呼びをするが、この世界では割と普通だ。なんなら「そこのお前」とか「おい女」とか呼ばれることさえある。

 

「ねぇ、遥香。ボクの名前も『慎』がつくぞ。慎蔵しんぞうっていうんだボク。ボクの隣来い」


 名前渋っ!

 でも謎ポチャくん、キミの隣僕が既にいるんだけど?! 勝手に席替えさせないでくれる?! あいつ僕の上に乗りかねないから! 対面座位になりかねないから!

 僕は恐る恐る桃山に視線を向けた。




 しかめっつらしてるぅぅうう!

 やめろ! 桃山! お前のしかめっつら、怖ぇーんだよ! 僕のジョニーが縮みあがってるからやめろ!


「謎ポチャくん、光栄なことだけど、私はここで大丈夫だよ」


 桃山は綺麗に指を揃えた手のひらを謎ポチャくんに向けて、丁重に断った。

 というか、同じあだ名つけてんじゃねぇーよ。どんな確率だよコレ!


「あ゛?! 『謎ポチャくん』だと?!」と謎ポチャくんが気色ばみ剣呑な空気を作った。

「待て待て待て! 謎ポチャくん! 落ち着け! まだポチャギレる時間じゃない!」


 僕は慌てて、仲裁した。

 ——が、


「ポチャギレるって何?!」と隼人が邪魔してくる。

 バカ! 余計なツッコみしてんじゃないよ!

 謎ポチャくんは僕を睨んでいた。何故だ! キミ、桃山にポチャギレてたんじゃないの?!

 僕はとりあえずその場を収めようと皆の顔を見て声をあげた。


「と、とにかく! みんなで仲良くやりましょうよ! せっかくの合コンなんだし! ね! そう思いませんか? お姉さん方!」

「そ、そうだよそうだよ! 良いこと言うねー慎一くん!」

「そうそう! 真蔵くんの真剣な顔もカッコいいけど、笑った顔も見たいなぁ」


 麻弥さんと京子さんが援護射撃をしてくれる。

 さすが大人のお姉さんだ。空気が読める。

 それに引き換え、桃山は何故か更に不機嫌になっていた。

 僕が麻弥さん達に助けを求めたからだろうか。

 だって仕方ないじゃん! お前、謎ポチャくん怒らせることしかできないじゃん!


 お姉さん方のヨイショでなんとか謎ポチャくんの怒りは収まり、男子陣の自己紹介も無難に終わった。

 ちなみに謎ポチャくんと隼人の自己紹介は名前のみの簡潔すぎる自己紹介だった。全然交流する気がねぇ!


 全然話に乗らない隼人と謎ポチャくんのせいで、当然場は盛り下がり、沈黙が訪れた。

 気まずいよ! 何か言えよ、主催者!

 隼人に目を向けると、スマホをだしてゲームをしていた。殺意が湧く。

 仕方なく、僕が沈黙を破った。


「じゃ、じゃあゲームでもしませんか?」

「もうしてるが?」


 隼人がスマホを見ながら言う。

 そのゲームじゃねぇよ! ファニーボーン弾き倒すぞ!


「皆でやるやつだよね? いいねいいね!」と麻弥さんが手を叩いた。

「じゃか何のゲームに——」



「王様ゲーム!」

 


 不機嫌だった桃山が京子さんの言葉を遮って叫ぶ。

 え、なに? 『それだったらやってもいい』ってこと? てか、なんで若干偉そうなの?! 謎ポチャくん並みに偉そうだなお前!

 なんでそんな地雷にまみれたゲームをこのメンツで——


「良いチョイスだ!」と謎ポチャくんがダンブル◯ア校長みたいな指先だけの拍手をして同意した。「偉大なこのボクに相応しいゲームだ! いいだろう、やってやる」


 謎ポチャくぅぅぅん! キミ、このゲーム知らないでしょ?! 王様より下僕になる確率の方が高いのよ?

 謎ポチャくんの鶴の一声で、王様ゲームの実施が決まった。


 ◆


「王様だ〜れだっ」


 先っぽに番号を書いた割り箸が僕らに向けられた。

 ホスト役の京子さん以外が一斉に割り箸を引く。ちなみに京子さんは残り物の割り箸が割り振られる。


「あ、私王様だァ!」と声を上げたのは京子さんだった。「じゃァ〜、1番が2番の膝の上に座る!」


 京子さんが命令した。さすがだ。このゲームをよく分かっている。

 王様ゲームは軽いイチャイチャを楽しむためのゲームだ。エロの度合いが高過ぎてもいけないし、エロがなくてもいけない。塩梅あんばいが重要なのだ。


 僕は自分の番号を見た。

 あ! 2番だ! やった!

 つまり僕の膝の上に女の子がくる! ふはははは! いいぞ! 後ろから思いっきりクンカクンカしてやる!



「あ、俺1番だわ」



 隼人ォオオオ! お前じゃないだろ! どう考えてもここに来るべきはお前じゃないだろォオオオ!

 野郎と密着してどうする!? 野郎をクンカクンカしてどうするぅ?!

 てか、なんで隼人、何も言わないの?! 『おいおい、慎一かよォ』みたいな事、言えよ!

 なに当然のように上に来る?! よいしょ、じゃないんだよ! ちょっとは嫌がれよ!


 隼人が膝の上に乗ったまま、第2回戦が始まった。


「王様だ〜れだっ」


「あ、私だ! やったァ」と麻弥さんが座ったまま小さくぴょんぴょんする。「じゃあねぇ〜。3番が5番の膝の上に座る!」


 さっきからなんで『膝の上』縛りなの?! 他の命令しろよ!

 僕は自分の割り箸を見る。


 ——4番。

 

 ふぅ、今回はセーフだったようだ。

 僕がそう思った瞬間。

 膝の上から声が上がった。


「あ。俺5番」と隼人。

「ボク3番」と謎ポチャくん。


 結果、僕の膝の上に座る隼人……の膝の上に座る謎ポチャくんというキモいタワーが出来上がった。

 重てェェエエ! 謎ポチャくんがズッシリきてるぅう! 僕の太ももが煎餅せんべいになるぅぅううう!


「あ、あはは。なんか……すごいね」と麻弥さんが苦笑する。

 引いてんじゃねぇぇええよ! お前の命令だろォォが!


 3回戦の王様は再び京子さんだった。

 さっきから桃山が全くゲームに絡めず、口を一文字に結んでむすっとしている。お前が絡むと碌なことにならん。ずっとそうしてろ。

 京子さんはこれ以上、僕に荷重が掛かったらヤバいと思ったのか、こう命令した。


「じゃ、じゃあ2番が王様の膝に座るぅ〜」


 なるほど! これなら誰が当たっても大丈夫だ! 2番が男ならイチャイチャできる上に、僕の荷重を減らすことができる! 考えたな!


 僕は自分の割り箸を見た。そして言う。


「僕、2番……」


 京子さんの顔が真っ青になった。

 ヤバいィィイ! 京子さんが潰れるぅ! なんとかしなきゃ……。男の僕がなんとかしなきゃ!





「し、慎一くん……大丈夫?」と京子さんの声が耳元で聞こえる。だけど、今それを楽しんでいる余裕はなかった。

 僕は椅子に手をついて少し腰を浮かせて、あらん限りの力で膝の上の野郎タワーを支えていた。下の京子さんにはほとんど負荷はかかっていないはずだ。

 京子さんの膝の上方数センチのところで、プルプルと震えながら踏ん張る僕……の膝の上に座る隼人……の膝の上に座る謎ポチャくん。奇妙なトーテムポールが完成した。


 早く……! 早く次のゲーム……! というか、もう終わって! 頼むから終わって!


 次はようやく桃山が王様になった。

 桃山は満足そうに頷き、天使のような美しい微笑で言う。


「王様と慎ちゃんがディープキス。R18になるくらい凄いやつ。できれば唾液交換系の」


 天使が言うセリフではない。


「てか名指しで命令してんじゃねぇぇえよ! それ無しだろ!」

「何言ってんの慎ちゃん?」と桃山がこてんと首を傾げる。「私、王様だよ?」

「暴君か!」


 僕が踏ん張りながら、一生懸命、桃山を説得していると、トーテムポールのてっぺんの謎ポチャくんが階下を覗き込む。バランスが崩れるからやめてくれ!


「遥香。ボクも『慎ちゃん』だ! ボクが特別にディープキスしてやる。唾液交換系のやつ」

「いえ、あなたは『慎ちゃん』ではありません。ポッチャリ謎めく『謎ポチャくん』です」

「あ゛ぁ?! 誰がポッチャリ謎めく謎ポチャくんだ!」


 謎ポチャくんが、自分の胸を叩いて怒りをあらわにしだした。

 何その怒り方?! ゴリラかよ!

 謎ポチャくんが激しくドラミングして暴れたために、トーテムポールがグラグラと揺れる。


「ばか! 謎ポチャくん! 暴れんな! ドラミングやめろ! 倒れるから!」

「だァァれが謎ポチャくんだァァ!」


 謎ポチャくんが更に激しくドラミングしだす。

 でも『誰が』を『だァァれが』と言うあたり、意外に謎ポチャくんもノリノリなのではないか?

 謎ポチャくんのドラミングで、ついにトーテムポールは限界を迎えた。

 隼人のところからぽっきり折れてまず隼人が横に弾かれるように落ちた。そして、必然的にその上の謎ポチャくんが僕の上に落ちてきた。

 あまりの衝撃に「ふぐゥっ」と呻きがもれた。謎ポチャくんは僕にバウンドしてソファに落ちた。

 結果、僕はぐしゃっと潰れた。

 京子さんの豊かな胸の谷間に後頭部が埋もれる。両耳に柔らかい肉圧を感じる。上品な香水の匂いが京子さんの胸元から香った。

 いわゆるラッキースケベである。

 しかし、今はラッキーとは言い切れない。もちろん京子さんに問題がある訳ではない。シチュエーションの問題だ。


 僕は未だ柔らかい谷の中に身を埋めながら、おそるおそる桃山に目を向けた。

 真顔で、目を見開いて暗い瞳を僕に向ける桃山がいた。


 怖い怖い怖い怖い! お願いだからもっとラブコメ感だして?! キミのそれはホラーだから! サイコホラーだからァ!


 僕は慌てて京子さんから離れようとした。

 が、それよりも早く京子さんの腕が伸びてきて、がっしりと頭をホールドされる。


「や〜ん、慎一くん、だいた〜ん❤︎ いいよっ? ここにずっといて?」


 ちょ! やめ! お前死にたいのか?! 見られてるから! ガン見されてるから! 死神桃山に!

 桃山はサイコホラーな顔でじーっと僕を見つめながら、目の前のグラスを手に取り一気に呷った。



 て、お前それ——。





 ダァン、と桃山が空のグラスをテーブルに打ち付ける。

 そして、静かに「慎ちゃん……」と呟いた。

 『貞子が喋った!』くらいの衝撃が走る。



 いつの間にか桃山の顔は真っ赤に染まっていた。そして、感情が戻ったのか、眉間に皺を寄せて僕を睨む。




「慎ちゃんの…………」



 また桃山が呟く。頭がふらふらと揺れている。

 僕は京子さんの膝から抜け出し、桃山のグラスを手に取った。においを嗅ぐと明らかにアルコールのにおいがした。あいつは20歳だと逆サバを読んでいたから、配られた飲み物が酒だったのだ。

 要するに酔っ払いである。初めての酒で一気飲みするからそうなる。

 僕は酔っ払った桃山が大暴れする様を思い浮かべ、身構えた。ビンタの一つや二つ、あるいはチンタッチの一つや二つくらいは覚悟した。





 が、桃山はポロッと涙をこぼした。





「慎ちゃんのばかぁぁぁああ! うぁああああ〜〜〜ん」





 まさかの泣き上戸……ッ?!

 僕は慌てて桃山の横まで駆け寄った。

 

「何泣いてんだよ桃山」

「だって……! だってぇ〜……! ぅわぁああ〜〜〜ん」


 一向に泣き止まない桃山の肩を抱いて、頭を撫でる。


「私は慎ちゃんが好きなのォ!」と桃山が泣きながらよく分からないキレ方をする。

「分かった分かった。分かったから落ち着け。な?」

「慎ちゃんじゃなきゃ嫌なのォ! なんで分かってくれないのォ?!」

「分かってるって! よォく分かってる! 分かりすぎて困る! ストーカー被害でガチ困るくらい分かってるから!」


 延々と泣きながらキレる桃山が不意にピクっと動きを止めた。

 そして慌てて両手で口を覆う。


 あ、これヤバいわ。こいつ吐くわ。


 僕は即座に近くに置いてあった僕のカバンの中身を全てテーブルにぶちまけた。隼人からの報酬である僕のエロDVDが大衆の目に晒される。麻弥さんと京子さんから、『え?!』て顔で見られた。

 大丈夫。変態バレはもう慣れっこだ。引きたければ引けば良い。全国区に勃起を晒された経験のある僕はもはや無敵だ。


 僕はカバンを桃山の口の前に広げた。

 さよなら、僕のカバン。この世界に来てからずっと使ってたカバン。お前は今この時からカバンではなく、ゲロ袋だ! 活躍してこい……!

 間一髪だった。僕のカバンは見事、虹の滝をキャッチした。

 



 その後、桃山は酔い潰れて眠ってしまった。


「あー、実は僕桃山とは知った仲なんですよ。なんで、僕が桃山を家まで送ります」


 そう言って、僕は桃山と合コンを抜け出し、桃山をおぶって帰路についた。


 夜道をとぼとぼと歩く。空には満月が綺麗に見えた。

 一歩進むごとに桃山の胸の感触が背中に伝わる。役得である。

 

「今日も楽しかったなァ」と何となしに呟くと、「私も」と背中から聞こえた。「ありがと、慎ちゃん」とも。

 僕は気が緩んでいたのだと思う。

 無事に今日という一日が終わり、どこか心の奥で安心していたのかもしれない。

 エリートストーカー桃山がこれで終わりにするはずがないというのに……。




 つづく

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