第20話お説教

 久しぶりに『剣』を振ったけど、なかなか悪くないね。ただ、欲を言えばもっとまともな剣が欲しかったかな。今回ただの木の枝だったし、技を一度軽く使っただけなのにもう折れちゃった。って言うか消滅しちゃった。


 ちなみに、最後の雷は、生命力を別の物質へと、あるいは性質へと変化させたものだ。

 生命力の搾りかすである魔力で魔法が使えるんだ。その大元である生命力でできないわけがないだろ? まあ、魔力よりも扱うのが難しいからできる人なんて限られるけど。


 まあそれはそれとして、目先の問題も片付いたしもう一つの残ってる問題の方を片付けるとしようかな。むしろ、どっちかっていうとこっちの方が重要なことだしね。


「さて、それではお前達二人の申し開きを聞こうか」


 残ってる問題とは、ズバリ二人の行動についてだ。僕はダメだと、今日は狩りは休みだと言ったはずだ。それなのに二人は勝手に肉体強化を使い、獲物を狩った。まずこれがダメだ。


「……あーっと、その、な……」

「そ、その前に、ディアス? お前、なんかまた口調がおかしくないか?」


 ダンッと軽く足を踏み鳴らして二人の言葉を遮る。

 確かに、今の僕の喋り方はおかしなものになっているだろう。というか、〝私〟のものになっている。それは少しばかり気が高ぶっているからということ、怒っているからだ。


「そのようなことはどうでも良い。今はお前達が私との約束を破って勝手に力を使い、狩りをしたことだ」


 力を得たら使いたくなる気持ちはわかる。力を得たことで増長するのもわかる。

 だが、それはダメだ。僕が二人に力の使い方を教えたのは、力を見せびらかして自慢するためなんかじゃないんだから。


「永遠に狩りをするな、力を使うな、などというつもりはない。私たちは今は仲の良い三人組としてやっているが、今後の未来ではどうなるのかわからないのだからな。それぞれの進路次第では、仲が良くとも別れて暮らすことにもなろう。その際に、力を使うなとは言わん」


 永遠に力を人前で使うなとも、自分の意思で使うなとも言わない。ただ、少なくともまだ未熟な今は僕のいうことを聞けってだけだ。こんな約束も守れないようなら、教えることはできない。


「だが、今は別だ。私が教えた以上、お前達が力を使った責任は私が負わなければならん。勝手に力を使われ、もし何か問題が起きれば、私が解決しなければならないのだ。お前達がどう思い、どう言ったところでな」


 結果的に今日はなんとかなったけど、次は?

 あるいは、増長した結果二人が力を悪いことに使ったら?

 二人なら僕が教えた力を悪いことに使わないと思うけど、未来のことなんてどうなるかわからない。もし万が一にでも二人が鍛えた力を使って誰かを傷つけるようになったら……その時は、僕が殺さないといけない。僕は二人の友人だけど、曲がりなりにも二人の師匠でもあるんだから。


「実際、今回お前達だけで力を使い、狩りをしたことで、あのような輩に襲われることになった。ここで襲われたのだ。以前から目をつけられていたのだろう。私としても、力を隠すのが甘かったという点は認めよう。だが、お前達が力を隠し、狩りをしていなければ、襲われることもなかったはずだ」


 二人は増長し、僕の言いつけを破って狩りを行った。その結果が、今回のこれだ。

 状況から察するに、あの三人組には元々目をつけられていたんだろう。けど、狩りをして肉を持っていなければ、襲われなかったかもしれない。そして、肉体強化を使おうなんて考えなければ、狩りだってしなかったはずだ。

 自分達が肉体強化を使えるようになって増長したからこうなったと言える。


「容易く力を見せるな。お前達に教えた力は、栄光を掴むこともできると同時に、厄介事も引き寄せることになる。他者に力を見せるのは、力を使わなければならない場面か、もしくは絶対に相手を殺す時だけにせよ」


 今回に限らず、自身の能力を他人に見せることは危険なことだ。弱ければ舐められるし、強くてもそれはそれで襲いかかってくる者もいる。だから、強さを見せないのが一番賢い生き方だ。

 あるいは……


「もしそこに文句があるというのであれば、他人に見られ、厄介ごとが舞い込んだとしても自分の力だけでねじ伏せることができるだけの力を身につけるのだ。苦労して集中したうえで一秒で三倍などという児戯ではなく、瞬きの間に十倍を、呼吸するかのように行えるようになれ。そこまで行って、ようやく半人前だ。だが、半人前ではあれど普通に暮らす際に起こる問題に対処する分には十分な強さだと言えるだろう」


 それだけの強さがあれば、今回のように絡まれたとしても問題なくやり過ごすことができたはずだ。仮に勝つことができなくても、逃げることはできたと思う。


 ……そうだね。今回のことがあって僕たちも気が緩んでたのは事実だし、少し肉を狩りすぎたかもしれない。少し持って帰る量を減らして注目を減らすと同時に、その分を二人の修行に充てるのもありかな。


 二人だって、ちょうど今回ズタボロにされたことで危機感を感じたことだろう。その危機感が消えないうちに訓練をした方が、二人の成長のためには良いかもしれない。人が一番成長するのは、いつだって〝生きるために頑張ってる時〟なんだから。


「ふう……これから、二人にはその領域に至ってもらう。それまでは狩りは中止だよ」

「「ええええーーーーー!」」

「そりゃねえよ!」

「肉を持って帰んの待ってる奴らがいるんだぞ、ディアス!」


 ロイドもマリーも叫び声をあげて文句を言っているけど、嫌なんだったら勝手なことをしなければよかっただけの話だ。

 それに、確かに家族達からの不満もあるだろうけど、自分達の命とどっちが大事なのさ。


「そのような言葉は聞く耳持ないよ。二人は今回僕の指示を無視して勝手に行動した挙句、問題を起こしたんだ。絶対に次がないと言い切ることはできる? 無理でしょ? だったら、一度起こってしまった問題が二度と起こらないように、対処するのは当然じゃないかな? その対処として、二人が自力で危険を潜り抜けられるだけの強さを手に入れるように鍛えることにしたんだ。そうすれば、もう襲われても危ない状況にはならないし、なったとしても逃げられるでしょ?」

「うう……。でもそれってよぉ、どれくらいかかるもんなんだ?」


 どのくらい? ……どのくらいだろうね?


「さあ? どの程度かかるかは本人の才覚次第だけど……まあ軽く半年はかかるんじゃないかな」

「半年!?」

「そんなに肉が食えねえのかよ!」

「恨むなら、約束を守らなかった自分達を恨んでよね」

「言葉は元に戻ったのに、その笑顔は怖いままかよ……」

「こいつ、これはマジで本気だぞ」

「当たり前じゃないか。まあ、二人は狩りが禁止ってだけでお肉自体は僕が獲ってくるから、たまーになら食べられるんじゃない? 二人の進捗具合によるだろうけど」


 僕だってお肉食べたいし、母さんにだって食べさせたい。だから、肉をとってくること自体はやめるつもりはない。この体で動くことにも慣れたから、一人だろうと問題ないしね。


 というわけで、これから頑張っていこうね。大丈夫。僕が……この剣王が、二人を立派な剣士にしてあげるから!

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