第31話 悪役アビロス、さらに衝撃を受ける。
「アビロス君~~入園おめでとう~! やっぱり凄いや!」
おめでとうじゃねぇ!
なんでおまえが入園してないんだよぉおお!
「ブレイル……お、おまえ。なんで……」
「ああ、僕はダメだったよ。また来年に向けて頑張るよ!」
来年だと!?
んな悠長な事言ってんじゃねぇよ!
この1年で学園のメインイベントは目白押しなんだよ!
「でも学園の計らいで門番の職に就けたんだ! 良かった~~」
良くねぇえええええ!!
いや、門番という職がダメというわけではない。
必要な職業だからな。
だがな―――
どこの主人公が門番になって喜ぶんだよぉおおお!
すべてのゲームブレパファンに謝れ、おまえ!
純粋無垢な笑顔を振りまいてくるブレイル。
いやいやいや~~~これどうすんだよ!
こんな意味不明な状態で、メインストーリーが動き出すのか?
ヤバいぞ、主人公抜きでは最終的に世界滅びるぞ! マジで!!
「アビロス君? 顔が真っ青だよ、どうしたの? あ、もしかして緊張しているの?
よ~し、僕が応援しちゃうよ~頑張れ、頑張れ、ア・ビ・ロ・ス!」
頑張るのは、おまえなんだよぉおおおお!
「あれ? アビロス君、なんで頭抱えているの? 寝てないのかな? ダメだよ、夜更かしは頭痛の原因だからね」
いや、頭痛の原因はおまえなんだよぉおおおお!
「アビロス? 大丈夫ですか? この方はお知り合いですか?」
「ああ……試験会場で知り合ったんだ」
「わあっ! 聖女ステラさまだ! 僕、ブレイルです! よろしくお願いしま~す!」
「まあ、これから毎日学園を守ってくださるのね。よろしくお願いします、ブレイルさん」
「わぁああ~~聖女さまにお願いされちゃった~~僕、頑張って守ります!」
ぐっ……門番ではなく主人公として守ってくれよ。世界を……。
あとなんかキャラ軽くなってないか? こいつ。
そんな俺の気持ちなどお構いなしに、ブレイルが学園を指さした。
「アビロス君、早く行かないと遅刻しちゃうよ」
「あ、ああ……じゃあなブレイル」
「うん、また声かけてね~~アビロス君!」
この悪役の俺がアビロス君かよ……ストーリー改変がすぎるぞ。これ。
こうして俺は、入学初日早々に頭痛の種を抱えてしまったのだった。
◇◇◇
学園の門をくぐると、見たことのある風景が俺の目に飛び込んできた。
おお~~ゲームと一緒だ!
すげぇ~~ちょっと感動するぜ。
正門で思わぬ事態に遭遇してがた落ちだった俺の気分が、一瞬にして上がっていく。
悪役アビロスに転生して約5年。
遂に来たのか……
ゲームブレパのスタート地点。学園生活の始まり。
俺たちは校舎の風景に視線をゆらしながら、教室を目指す。
ロイヤルブレイブアカデミー、通称ロブアカのクラスはSクラス~Eクラスまでの6段階クラスだ。
Sクラスが最高ランクであり。これは入学試験結果に基づいてクラスが振り分けられる。
トップクラスのSクラスともなれば、優秀な先生に指導してもらえるし、使える施設の自由度も高い。
また、どのクラスで卒業するかも重要だ。それが貴族における箔につながるからだ。
面倒な話ではあるが。貴族として生きていくうえでは重要である。
では、このクラスが固定かというとそうでもない。
学年が変わる前に行われるテスト結果によって、入替があるのだ。
ロブアカは3年なので、1年と2年の終わりに大きな試験があるということになる。
ステラはSクラスだ。
さすがメインヒロイン。彼女はラビア先生の修行もやりきったし、勉学も凄まじく努力を重ねて最高ランクの実力を兼ね備えている。
そして……俺はというと……なんとSクラスなのだ!
筆記試験は猛勉強したし、実技試験は鬼の教官にしごかれたかいがあったよ。
さあ~~Sクラスのモブ生徒として学園生活を楽しむんだ!
そう意気込んで教室に入ると、すでにある程度の生徒が着席していた。
俺たちが入った瞬間に一斉に視線が集まる。
当然ながら俺にではない。
「あら~~ステラさま~~ご無沙汰しておりますわ」
「まあ、メリンダさん。こちらこそ」
メリンダ……風魔法が得意なお嬢様系キャラ。というかまあ実際に貴族令嬢なんだが。
いきなり知ってるキャラが出てくるとは、流石はSクラスだ。
そしてメリンダの挨拶を皮切りに、ステラに挨拶の列ができはじめる。
さすがメインヒロインの聖女様。
キャラに恥じぬ人気ぶりだぜ。
―――俺?
当然ながら誰も挨拶などしてこない。
してくるわけがない。俺が転生してからこの5年はほとんど社交の場に出ていないが、本来の悪役アビロス時代が酷かったのだろう。貴族連中は俺を避けていると思われる。まあ、一部平民出の生徒はわからんけど。
と思っていたのだが―――
「あ、あの……アビロスさん」
「わぁっ! アビロス君だぁ~」
んん? 誰?
「こ、こら、ウルネラ。アビロスさんは4大貴族のご子息なのよ」
「ええ~~ナリサ~~だってクラスメイトでしょ。いいよね? アビロス君?」
「ああ、もちろんだ。アビロスでも君でも好きに呼んでくれ」
彼女たちはナリサとウルネラ。平民の子たちらしい。
2人とも俺のゲーム原作知識にはないので、ゲーム上はモブキャラなんだろう。
平民でSクラスに入るのは容易なことではない。そもそも受験に臨む環境がまったく違うからだ。
だからなぜかこの子たちには好感が持てた。
俺と同じく、底辺から這い上がって来た仲間的な感じがしたからだ。
「じゃ、じゃあアビロス君って呼ばせてもらいます。試験見てました。そ、その凄くカッコ良くて……」
「ふふ~~ん。じゃあウルはアビロっちて呼ぶよ~。でさあアビロっち~聞いてよ~ナリサったら試験のあとずっとアビッチのことばっか話してくるの~」
「ふえぇ~! ウルネラ、な、なにを言ってるの!」
ハハッ、楽しい2人組だな。前世ではほとんど友達いなかったからな……俺。
悪役アビロスに転生してしまったが、いいこともあるもんだ。
「おい? どうした2人とも?」
あれ? さっきまで騒がしくコントを繰り広げていた2人がなぜか固まっている。
「よう、アビ!!」
「アビって……ああ、マリーナでしたか……」
「ハ~ハッハ、マリーナでしたかとはご挨拶だな。やはり入学してきたな、アビロス」
声の主は第三王女のマリーナだった。
模擬戦ではホットパンツだったんだが、流石に学園ではブレザーにスカートだった。赤色の。引き締まってはいるが女性らしさを含む太ももが凄い……。ゲーム世界の学園をそのまま現実に持ってくるとヤバイなこれ。
「んん? どうしたアビ。わたしに見とれているのか?」
「い、いや、前回お会いした時とはまた印象が違ったもので」
「ハ~ハッハ、そうか! 嬉しい事いってくれるじゃないか! 前にも言ったが敬語はいらんダチとして付き合え! どうだ? 授業が終わったらひと勝負しないか? いいだろうアビ!」
どうやら第三王女の中で俺の呼称は「アビ」に決定したようだ。
しかしすげぇな……ほとんど気配を感じなかったぞ……魔力を最小限にまで抑え込んでやがる。
やはり学園では色々と学ぶことがありそうだ。
が……いきなり第三王女のマリーナと一戦は勘弁だ。初日に目立ちすぎるしな。
「マリーナ、申し出はありがたいが今日はやめておくよ。すまないな」
「ハ~ハッハ、そうか残念だ。まあうしろの聖女殿がとんでもない殺気を放っているからな。今日はやめておこう」
―――え? 聖女が殺気?
「アビロス! さあ、席につきましょう! 私は横に座りますからねっ!」
「お……おう。ステラ……」
俺の手をグイグイ引っ張っていく聖女様。
いや、確かになんか怒っているような。
なんだ?
「もう……ちょっと目を離すと、王女さまやカワイイ子たちと嬉しそうに……」
なんだ? 俺はまたなにかをやらかしたのか?
しかし、元悪役アビロスのクソ暴言は今のところ出ていないはずだが。
よくわからんが、とりあえず促されるままに着席する。
しかし―――
なんで一番うしろ??
「目立つところにいると、人気が出すぎちゃいますから……ブツブツ」
なんかブツブツ呟くステラ。
ああ、そうか。自分が目立ちすぎるのを避けたいんだな。
なるほど。メインヒロインも大変だ。
俺たちが全員着席すると、コツコツと人の気配が近づいてきた。
担任か。たしか原作では魔法学のエキスパートで魔法属性の研究者でもあったはず。
俺の【闇属性】は参考資料が乏しく、ほとんど独学状態だ。もしかしたら何か知っているかもしれない。
いや~~これは楽しみだな。
ウキウキしていると、俺たちの担任が教室に入って来た。
その瞬間―――俺の思考が止まった。
「ワタシがお前たちSクラスの担任だ! 貴族だろうが、平民だろうが分け隔てなくしごき倒してやる! 覚悟しろよ!!」
いやいやいや、なんであなたが学園にいるの?
――――――ラビア先生
本日2回目の衝撃である。
ダメだ、もうストーリー改変がすぎて意味わかんねぇ!
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