第2話 悪役アビロス、あいさつしただけでビビられる

 俺がゲーム「ブレイブパーティー(ブレパ)」の悪役貴族アビロスに転生した翌日。


「ふあぁ~~朝か……良く寝た~~んん?」


 足元が重いと思ったら、専属メイドのララが俺の足にしがみついて寝息を立てていた。

 手には縄が握りしめられている。


「たく……自分の部屋で寝ろと言ったのに」


 俺はこれまでの行いを悔い改めると、彼女に言った。

 だから、俺と同じ部屋で寝る必要もないし、縄で縛られる必要もない。


「ふう……まあララには、徐々にアビロスの調教から脱してもらうとしよう。さて―――」


 少し早く目が覚めてしまった。


 なので、ちょっと外に出てみることにした。美少女メイドを起こさないようにそっとベッドから出る。


「しかしけっこうデカい屋敷だなぁ~」


 屋敷の通路を歩きながらひとり呟く。


 まあアビロスのいるマルマーク家は4大貴族のひとつだからな。

 4大貴族とは、王族を支える最上位の貴族のことである。


「あ、おはようございます!」


 使用人の1人と廊下ですれ違ったので、元気よく挨拶をする。

 もう少し威厳ある感じにした方がいいのかとも思ったが、俺はまだ子供だしこれでいいだろう。

 しかし、朝早くから大変だな。


「ひえぇえええ! アビロス坊ちゃんがぁああ~~あ、あ、あ、挨拶された~~~」


「………」


 お、今度はメイドさんきた! 


「おはようございます!」

「ええ!! アビロス坊ちゃん! 今なんとおっしゃたの!」

「え? だから……おはようございます。と」

「ああ! こういうことですか!」


 メイドさんは若干恥じらいながらも、ストッキングを脱いで足の裏を突き出してきた。


 ―――なにやってるの!?


「あ! ストッキング着衣バージョンの方ってことですか」


 違います! 着衣とか関係なく、足裏ニオイは欲してないですから。


 俺はメイドさんに一礼して、慌ててその場をあとにした。



 くっ……アビロスよ……おまえちょっとやりすぎだぞ。

 朝の挨拶をしただけでこの反応とは。



 俺は屋敷の中庭ベンチで、はぁ~とため息をついた。

 ヤバいな……アビロスのクズ具合が想像以上のようだ。


 というか俺はたしか10歳のはず。昨日ララに年齢をそれとなく聞いてみた。


 イヤイヤイヤ~~待ってくれ! 俺10歳だぜ。前世でいうなら小学生だぞ。

 幼少時点で、性癖変態ぶりを発揮しすぎだぞアビロス。


「しかし悲観している暇はないぞ」


 まずは現状確認だ。


 このゲーム世界「ブレパ」は様々な分岐点があるとは言ったが、本筋となるメインストーリーは存在する。

 主人公が仲間を集めて、復活した魔王を倒したり厄災を乗り切ったりというふうに。


 そしてストーリーが進むと、悪役貴族アビロスは主人公たちに成敗(ざまぁ)される。どの分岐点をたどうがアビロスが成敗される展開だけは同じだ。


 少なくともアビロス生還ルートがあるなんて聞いたことがない。

 というか、ほぼ全てのプレイヤーがそんなルートは望んでいないしな。


 となると、危険は覚悟のうえでストリー自体を多少改変する必要がある。


 ただし、大きく改変するのはダメだ。


 それをやってしまうと、復活する魔王や厄災といったメインイベントを乗り越えられなくなる可能性が高い。

 メインイベントをクリアできないと、人類は滅亡したみたいなことになってしまう。それは嫌だ。せっかくゲーム世界に転生したんだ。俺なりにひっそりと楽しみたいし。若くして死にたくない。


 メインイベント攻略は、主人公パーティーが必要不可欠となる。


 とくに主人公とメインヒロインである聖女。この2人は絶対だ。

 この2人がくっつくことによって、互いの力が何倍にも膨れ上がりメインイベントを乗り越えていく。

 ざっくり言うとそういうストーリー展開なのである。


 そしてその2人の仲を邪魔するのが―――


 アビロスだ。



 つまり―――俺。



 ことあるごとに、いらん事をするのがアビロスというキャラなのだ。


 主人公とヒロイン聖女の恋仲も邪魔しまくる。なによりアビロスは聖女のことが死ぬほど好きなのだ。

 なんとしても自分のものにしようとするのだが、この行為が卑劣かつ変態すぎてゲーム登場人物やプレイヤーにヘイトを溜めまくる。正義感の強いゲーム主人公からは特に。


 だが今の俺は10歳。


 ゲーム上の原作ストーリーはまだ始まってない。


 ならば聖女にちょっかいを出さなければいいのだ。

 というか極力聖女には近づかない。


 うん、そうだな。まずはこれを基本方針としよう。

 むろん、聖女以外にも破滅フラグは多数存在するが、聖女のフラグはかなりでかい。

 ここをへし折っておけば、破滅回避に大きくプラスとなるはずだ。


「ふぅ~~あとは俺自身のレベル上げとかもやらないとだな~」


 やることは多い。

 が、なんとしても破滅回避を成し遂げてやる。


 なんかその後も色々考えてたら、完全に朝になってしまった。

 そこへタタタ~と近づく足音。


「ご主人様~~朝ごはんの準備ができたです~~」


 ララが呼びに来てくれた。


 縄を片手に握りしめて。


 破滅回避の準備も重要だが、まずは手に持っている縄をなんとかさせよう。

 まったく、アビロスの調教はどこまで深いんだよ。




 ◇◇◇




 中庭から戻った俺は、朝食を取っていた。


「アビロス坊ちゃま……そのお味はいかがでしょうか」


「ええ、とっても美味しいですよ! いつもありがとうございます!」


「えええぇええ! あ、いや失礼いたしました。よ、よ、喜んで頂けたならなりよりです……」


 俺に問かけてきたシェフのポキンさん。驚愕の顔をしてらっしゃる。

 いや……なとなくアビロスの所業がわかってきた。この屋敷での。


「ところでポキンさん」

「ひぃいいい! やはり取り替えます! もっと肉を増やします!」


 いや、まだ何も言って無いですよ……

 あと、なんちゅう顔ですかそれ。


 アビロスは肉大好き人間である。剣と魔法のファンタジー世界ではあるが「焼肉屋」も存在するはずだ。

 この様子だと、基本的に肉しか食べていないのであろう。


「いや、肉もいいんですが、可能であれば野菜も入れて頂けると助かります」


「えぇえええ! 坊ちゃんが野菜ぃいいい! は……そうか! 野菜という名の伝説の肉とか!?」

「いや……普通に緑の野菜ですよ。今日の食事も美味しいのですが、今後はバランスを取ったメニューにしてもらえると嬉しいです。今までワガママ無理難題を言って困らせてしまいごめんなさい」


 体は資本だ。


 おそらくアビロスのクソワガママで、野菜食べてなかったんだろうけど。今後はバランスの取れた食事にして身体面も充実させねば。


 破滅回避するにしても、ある程度の戦闘力が必要である。

 いつバトルイベントが発生してもおかしくない。悪役アビロスならなおさらだ。


 もちろん訓練は必要だが、それ以前の問題として身体が整っていないと。

 食事はそれらを支える貴重なベースとなる。


「うぅうう……」


 ええ! 誰か泣いてる!?


 俺の母親ナリーサだった……


「アビロスちゃん……ついに改心してくれたのねぇ……ママは嬉しいです!!」


 そう言うと、俺に飛びついてくる母。


「おお……アビロス、我が息子よ……ついに……この日を待っておったぞ」


 俺が母親ナリーサの豊満な膨らみに埋めれているところへ、父親サシアンの声が。



 いや―――俺は「おいしい・野菜も増やしてほしい」って言っただけなんですけど!



 ぬぅうアビロス……

 おまえ今まで何をしたらこんなことになるんだ?



 母ナリーサのタユンポヨン地獄から解放された俺。


「いや~~これで午後のお茶会もうまくいきそうだな」

「そうですね、あなた。アビロスちゃんならうまくできますとも」



「え? お茶会? 父上、なんですそれ?」


「何を言っておるアビロス。今日はステラ嬢とのお茶会ではないか」

「もう~~アビロスちゃんたら~~お気に入りのステラちゃんですよ~頑張ってね♡」



 んん? ステラ……



 まさか―――!?



 ステラ・メイトリアスか!


 ゲーム「ブレパ」のメインヒロインにして聖女さま。



 いやいやいや――――――極力会いたくないキャラじゃねぇか!!






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