第9話 秘密は明かされる2

 彼氏と彼女、食料と吸血鬼、そんな新しい関係だ。


 そんなことを考えていると、ふと思い出したことがあった。


「そういやあの警報、学校で明石と一緒に勉強していたら鳴り響いた質の悪いjアラートみたいな警報音、あれが鳴り響いてるってことは明石が人じゃないって俺以外も知っちゃったんじゃ?」


「そこはご心配なく、あのアラームが鳴ったのは和久さんのスマホだけだから。そう言う細工を施してます」


 笑顔で言われた。この人、人のスマホに細工したこと悪びれることもなく伝えてきた。


「もしかして、俺のスマホの中身、白瀬さんに筒抜けだったりしないですよね?」


「大丈夫です。勝手に白瀬アラートがなるだけですから心配しないでください」


「十分こわい」


 俺はこれから吸血鬼や狼男、それら人外の者と関わることになるのか。


 そんなできごとから数日後のある日。


 あのできごとで疲れきった体、いや心でベットから抜け出す。


 スマートフォンを見ると、そこには未読が数件溜まってた。


 白瀬さんからのLINEだ。


 昨日のできごとのあと、白瀬は明石と狼男の回復を待って、その後に自宅に帰ったらしい。


 白瀬さんが言うには俺が明石の秘密を知りそれを受け入れてくれたことがよほど嬉しかったらしく、朝までLINEしていたらしい。


 さらに、血まで吸わせてくれることが嬉しくてたまらないらしい。


 そんな時、メッセージが届いた。


「大学受験の勉強、一緒に勉強しない?」


 明石から連絡が来た。志望大学に一歩届かない学力の俺には好都合だ。


 明石の成績はなかなかにいい。


 特に歴史ではいつも模擬試験でかなりの点数を取ってくる。


 恋人に勉強を教えてもらう。我ながら青春してるという感じがする。


 変な事情さえ抱えてなければ、と一言添え寝なければならくなってしまったけれど。


 今更後悔してもしかたがない。


 逆に開き直ってしまおう。


 そんなことを思いながら朝を過ごしていると、白瀬さんからメッセージがきた。


「今度、明石について話があるのですが、お時間いただけますか?」


 明石について? 明石の秘密はもう知ってはいますがまだ何かあるんですか?


 俺はそんな感じの返信を送ると、しばらくして白瀬さんから返信が来た。


「この前にお話しした内容以外にも少し伝えておいた方がいいかと思う内容もあるんです。あ、もしかして、もう既にそう言った話を聞いてますか?」


 俺が知っているのは、明石には人の血という食事が必要で人間の食べるような食事も食べることはできること、吸血鬼の能力を使えば相手の記憶を少しだけ読み取ったり眠らせたり、まるで催眠術みたいに相手に自分の思った行動をさせることができるとは聞いている。


 でもどれも万能で完璧に相手をコントロールしたり、生まれてから全ての記憶を読み取ったりはできないと教えられた。


 正直、何かの小説や物語に出てくる吸血鬼の能力どおりすぎてあまり驚いてはいない。


 吸血鬼が実在しているということに驚きはしたけれど、それだけだ。


 俺は白瀬さんと会うことを約束して、明石と約束した図書館に来た。


 二人で席に座る。


 静かに教材を開き問題集を解き進める。


 数学の問題集だ。


 実のところ、俺は数学はそんなに点数は悪くない、むしろ模試でもいい方だ。


 俺は他の暗記科目が苦手なんだ。年表を暗記するなんて何も面白くない。


 数学だけの男なんて言われてたりもする。


 対して明石はというと、数学音痴と言ったところだ。


「この問題、少し考えたけど途中からわからなくなっちゃった」


 と明石は俺に聞いてきた。


 そんな明石にどうやって問題に手をつけ始めたのか、どこからこの問題を解こうとしたのか聞いていく。それで明石が引っかかった部分を説明する。


 そんなことを何度も繰り返していく。


 俺はその間に歴史の教科書と睨めっこ、年表をと睨めっこだ。


 正直、歴史の勉強の仕方はいまいちよくわからん。


 そんな感じで時間が過ぎ、明石が数学の勉強を終えたようだ。


 明石は歴史の教科書を取り出した。


 明石は歴史の教科書を物凄いスピードで読み始めた。


 それほんとに読んでるの?


 と聞きたくなるスピードだ。


 次から次にページをめくっていく。


「なあ明石、それほんとに読んでるの?」


「えっ? 読んでるけど、なんで?」


「いや、物凄い速さで読み進めてるから、ほんとに読んでるのかと思って」


 口に出して聞くほどの速さで読み進めていた教科書に栞をさはめて本を置いた明石は答えた。


「だって人生で、一回読んだことのある本だし、それに何回も読み直してるから、そんなに早かったかな?」


「物凄い速さだったよ」


「あぁ、内容は頭に入ってるんだよ。何回も読んでるから」


「何回も読み直してるから歴史の成績がいいのか、俺も読んだら歴史の成績って上がるのかな?」


「上がると思うよ、でもこの教科書はあんまり良くないね」


「質が良くないって?」


 まさか明石が教科書に文句をつけるほどの歴史通とは思わなかった。もしかして、巷で言う歴女ってやつか?


「歴史っていうのは実際に起こったことなんだよ。生命が生まれて死ぬまでの過程、人生、ある人の生き様、そしてその子供たちの人生なの」


「そんな読み方してる高校生いるなんて知らなかった」


「そんなに大したことじゃないよ。だから、学校の教科書はそれを重要な部分だけ抜き取って絶対に知らないといけない部分、絶対に国が教えないといけない部分を教えてる本なんだよ」


 そう言った明石は再び歴史の教科書を開く。


「ほらここ、このフランスの王様、この時代のフランスには愛人の文化があったの、国王の公式の愛人って言う国の認めた愛人までいた時代」


「そう言われてもあんまりピンとこないな」


「この時代のフランス国王の愛人は外交でも影響力のあった人よ」


 明石は話を続けた。勉強そっちのけで話を聞いているうちに、その時代について知識がついてしまった。


 そうしているうちに時間が過ぎていった。


「もう時間だね帰ろか?」と明石に促される。


「そうだな、帰ろう」


 教材をカバンに収納し、図書館を後にする。


 帰り道の途中、明石は言う。


「歴史の教科書読むより先に、本屋さんで売ってる歴史関係の漫画とか読むといいと思う」


「そうなのか? 日本の歴史の漫画とかは良く見てるけど」


「フランスもイギリスもドイツもそう、漫画とか、その国の歴史について書かれは本当か、そう言うものの中に教科書には書かれていない本当の歴史があるんだよ」


「・・・・・」


「どうして黙ってるの?」


「いや、なんか説得力を感じたと言うか、なんかすごい雰囲気を感じたと言うか、感銘を受けたと言うか」


「それは、歴史が得意だから!!!」


 余程の得意分野なのだろう、明石は自信ありげに声を強めて言った。


「よっぽど自信があるんだな。参考にする」


 俺も歴史関係の漫画とかわかりやすく書かれた本を探してみるか。


「そう言う本を読むと、、、その時代に生きてた人の文化や価値観いろんなことがわかって、教科書の内容が理解しやすくなるの」


「さすが、歴史だけなら模試でもかなりの偏差値を取るから説得力がある」


「歴史ならは余計」


 そうこうしているうちに明石とは今日はここでお別れだ。


「それじゃあ和久くん、私の家こっちだから」


「ああ、それじゃまたな」


「あ、ちょっと待って」


 明石は帰ろうとする俺を止める。


「どうしたんだ?」


「その私こと、あのことなんだけど本当に知っても受け入れてくれるの?」


と、唐突に聞いてきた。


「何言ってるんだ? 知った上で今日も二人で図書館で勉強したんだろ」


 そう答えると少し安心したような顔をして。


「そっか、それもそうだよね。ありがとう。じゃあまたね」


 手を振って帰っていった。


 俺も帰ろう。

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