第8話 よくできました
なぜアリアに癒しの力が目覚めたのか?
アリアは俺が死ぬものと勘違いして、怪我の回復を強く願った。その感情が作用して、癒やしの力に覚醒したのだと推測するが……実際のところは俺にも分からない。
疑問は一旦そのままに、俺たちは洞窟内で一夜を明かした。
充分に休んで回復した俺の魔力で、出入り口の鉄格子を焼き切った直後のことだ。
「君たちは、生贄の子供たちか?」
紋章の刻まれた鎧を着た男たちが、立ち塞がるように現れたのだ。
「だったらどうする? また洞窟に叩き込むか?」
「まさか! よく生きていてくれた! 我々は君たちを助けにきたんだ!」
「助ける? 生贄にしておいて?」
すると鎧の男たちの後ろから、農具で武装した村人が数人、前に出てきた。
「悪かったと思っている……。だが、いくら村を守るためとはいえ、なにも知らない子供たちを生贄にするなんて、やっぱりおかしい! こんなことはもう終わりにしなくちゃいけないんだ!」
「あの、でも……」
アリアがなにか言おうとするが、村人は食い気味に頷く。
「心配するな。化物は領主様に討伐をお願いした。村長は無駄だと言っていたが、領主様ならきっとやり遂げてくれる!」
「いえ、そうではなくて」
「なんだ?」
「化物なら、もう消し炭にしてやった」
「は?」
◇
「状況から、おそらく真実かと……」
調査を終えた騎士の報告に、地方領主は
わずかに白髪の交じる黒髪に、太い口髭。穏やかそうでありながら、厳格な表情を崩さない。自身も帯剣している。身のこなしから、それなりの実力者だと窺える。
「やはりそうか。では、これまでの生贄の遺骨を集めて、丁重に葬ってやりなさい」
「はい……。しかし信じられません。こんな幼い子供が……」
「理由なら心当たりがある」
地方領主は身をかがめて、俺たちの目線に合わせた。
「君たち、名前はなんと言ったかな?」
「人に名を聞くなら、まずは自分から名乗るべ――痛てっ」
アリアに殴られてしまった。
「こらカイン! ごめんなさい! ちょっと口は悪いけど、本当は優しい子なんです!」
「はははっ、いや、これは失礼。私はこのフェルメルン地方を治めている、ジロール・フェルメルン。お見知りおきいただきたいものだね、カインくん?」
「ああ。俺はカイン・アーネスト」
「わ、わたしはアリア・アーネストです! 弟が失礼しました! ごめんなさい!」
「気にすることはない。そこの赤い髪の君は?」
「私は、レナと言います」
残りのふたりも名乗ったあと、フェルメルンは改めて俺とアリアに顔を向けた。
「最近、アーネスト村で魔族を撃退した少年勇者が現れたと聞いたが」
「はい! それ弟のカインです! 勇者様の力に覚醒したんです!」
アリアはきらきらと目を輝かせて、声を弾ませる。
「アーネスト家は勇者ロランの傍系と聞いていたが、なるほど、血が濃く現れたようだ。今回の功績も納得できる」
フェルメルンは、そっと頭を下げた。
アリアは目を丸くして慌てる。
「えっ、領主様?」
「ありがとう、カインくん。ローンケイブ村の人々に代わって礼を言おう」
「礼はいい。俺はアリアを助けに来ただけだ」
「それでも君は、他の生贄を救い、村を救い、そしてたぶん、私たちの命も救った」
「自分たちの戦力は、よくわかってるわけか」
アリアが首を傾げる。
「えっと、カイン、どういうこと? どうして領主様たちを助けたことになるの?」
「あの化物は、この討伐隊の手に負えない相手だったんだよ」
「その通りだ。調べてみてわかった。戦えば、我々は全員死んでいたよ」
領主に討伐を願っても無駄だ、と言っていた村長は正しかったわけだ。
「カインくんにそのつもりがなくても、私から見れば立派な英雄だ。改めて礼を言おう。望みがあればなんでも叶える。是非、言ってくれ」
「なら……魔族をひとり、保護することはできるか?」
俺はフェルメルンを利用できるか、見極める意図もあって尋ねた。
「レナちゃんのことか。お安い御用だ」
なんだと! そんなあっさり!?
「なにを驚く? ああ、気づいていないと思っていたのか。ほとんど人間と変わらないが、瞳の深い紅色はドミナ系魔族の特徴だ。ひと目でわかったよ」
赤髪の少女レナは、視線を俺とフェルメルンに行ったり来たりさせる。
「魔族だとわかっていて、お安い御用と言えるのか?」
「明確に人間に仇なしているのはゼートリック系魔族だけだ。魔族だと一括りにして差別するつもりはない。領民にもそうするよう公示しているのだが、なかなか浸透しなくてな……」
苦笑を浮かべてから、フェルメルンはレナに微笑みかける。
「私の養子となるといい。衣食住はもちろん、充分な教育も受けさせる。恩人の願いだ。必ず幸せにしよう」
「あんたは、分別のある人間なんだな……」
素直に感心した。
かつて俺は、すべての人間を一括りにして敵視していた。
だが、俺の同胞を受け入れ、幸せにしてくれる者がいるのなら、それはもう敵じゃない。
「では頼む――いや、お願いします。領主様」
俺は敬意を表して、敬語を使って頭を下げた。
するとフェルメルン卿も、再び頭を下げる。
「謹んでお受けいたしましょう、勇者様」
頭を上げると、なぜかアリアは満面の笑みを浮かべていた。
「よくできました」
とか言って頭を撫で撫でしてくる。
うざい。でもなぜだか心地いい。
というか、なんか照れくさいな! ええい、やめろやめろぉ!
俺はアリアの手を振り払ったが、アリアは変わらず笑顔だった。
一方でレナは、今にも泣きそうな顔になっていた。
「カインくん、本当にいいの? せっかく領主様がなんでもって言ってくれてるのに、私なんかのために……」
「いい。どうせ俺の願いは、誰かに叶えられるものじゃない。お前みたいなやつが救われるなら、そのほうがいいんだ」
いよいよレナは、涙を溢れさせた。
「……ありがとう」
その様子に、うんうん、と頷きながら、再びアリアが俺の頭を撫でてくる。
さっきから、なんでアリアはこんなに喜んでるんだ?
もう振り払うのも面倒で、俺はアリアの好きにさせてやるのだった。
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