*
「あ、えっと、初対面だから失礼のないように敬語がいいかなと思って」
「ふーん」緋奈は手に持っていた日程表を丁寧に折りたたみ、机の上に置くと「律儀なんだね」と続けて、希春に優しい微笑みを向ける。
カシャリ。また彼女の表情は、その色を変える。
希春は俄然(がぜん)、今朝のことが気になってきた。出会ったばかりだけど、緋奈が自分の感情に素直な子だというのが、ひしひしと伝わってくる。一歩、勇気をもって踏み出す。
「あの、鏑木さん。一つ訊いてもいいかな?」
「ん? いいよ。何でも聞いて」
「今朝、正門に立ってたけど、どうしてあんなに――。その――」
「落ち込んでいたのか?」
「う、うん」
緋奈が唇をキュッと一文字に結ぶ。
「あたし、織坂さんに見られてたんだ……」
「ごめんなさい。気になっちゃって」
「ううん、いいよ。全然」
緋奈は少し俯くと、そのまま静かに話しはじめる。
「あたしね、ほんとは市街地の方にある進学校に行くつもりで受験勉強してたの。でも、その進学校の受験に落ちちゃって今ここにいるんだ」
「それじゃあこの高校は――」
「うん。本命じゃない。――でもね、それはもういいの。受験に落ちちゃったのは私の努力が足りなかっただけだし、出た高校で人生決まるわけじゃないし」
「じゃあ、どうして」
「――家族」
「えっ?」
「うちのお父さんとお母さん、今離婚調停中なの。二人とも顔を合わせたくないからって理由で、あたしの入学式に来てくれなかった」
「――そんな」
「ひどい親だよね。――だからあたし、たくさん勉強してお父さんかお母さん、片方だけにでも『頑張ったね』って言ってもらいたくて、進学校行こうとしてたんだ」
緋奈が顔を上げ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます