第6話 日本から異世界へ
そうじゃないかと俊也は思っていたが、サキは樫木坂高校の通学路途中にある教会から、この世界に出てきたらしい。今、二人が向かっているのはそこだ。
家から近いので教会にはすぐ着いたが、俊也はその門の前に立って妙な顔で考え込んでいる。
「どうしたんですか?」
サキも彼の様子を見て怪訝な顔で訊いてみると、
「あのラダとかいう妖犬の死骸はどこに行ったんだ? 俺はてっきり大騒ぎになってると思ってたんだが、死骸を片付けた感じもないし……」
昨夜、俊也は確かにラダを1匹仕留めたのだが、教会の門前にはその血の跡すら微塵もない。
「ああそのことですね。ラダは私達の世界のモンスターなので、この世界で命を失うと、死骸は完全に消えてしまうんです。消えるまで少し時間がありますけどね」
俊也はそれを聞いて納得できたと共に、彼の心のどこかに異世界が本当にあるのかという疑念がまだ残っていたが、ラダの死骸が消滅している事実から、それは解消されたようだ。
教会の門は開放されている。早朝の礼拝が行われているようで、広い庭には誰もいない。花菖蒲などが咲いている植え込みがあり、辺りは静かだ。
「こっちです。誰もいないうちに来てください」
前へ進みサキは手招きして、俊也に裏庭へついて来るように促した。
二人は裏庭にある、もみの木の木陰にいる。大きく立派なもみの木だ。この木はクリスマス時期には飾り付けがされ、クリスマスツリーとして地区の住民の目を楽しませることもある。
「私はここから来ました。この木陰にタナストラスとここを繋ぐ歪みがあります」
ちょっと周りを見回してみるが、俊也の目には変わった所を何も見つけることができない。
「何もないように見えるけど……。歪みがあるとしてどうやって異世界に行くんだい?」
サキはまた胸元にしまっていた真紅の宝玉が付いたブローチを取り出し、
「これを持ち特別な詠唱を行うと、私達は開いた歪みに吸い込まれ、タナストラスへ行くことになります」
そう説明して、俊也の最終的な意志を確認するため、彼の顔をじっと見た。
「俊也さん。長いお付き合いになると思いますが、本当に来てくれますね?」
俊也はゆっくりとそれにうなずく。彼の肚はもうしっかりと決まっている。
「分かりました、ありがとうございます。では、詠唱を始めます、荷物をしっかりと身に着けて下さい」
胸の前に真紅の宝玉を持ち、サキは俊也には何を言っているのか分からない神聖な詠唱を数分間行った。そうすると、真っ暗な何かが突如として二人を飲み込み、うねりを持った亜空間を彼らは流されるようにしばらく漂った。
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