第2話 恋をしたうさぎ

  あるところ――ラビィのもりにいっとうのうさぎさんがいました。


 うさぎさんはなまえをキャリィといいます。キャリィはふわふわの白い毛なみにルビィのような目とかわいらしいうさぎさんでした。そんなキャリィにはかれしのうさぎさんがいます。ふわふわの白い毛なみにちゃいろい手ぶくろみたいな足がトレードマークの男の子でした。なまえをブラウンといいます。目はつぶらですがキャリィよりはひとまわりは大きくて力もちなうさぎさんでした。キャリィには友だちの犬さん――クロウがいますが。ブラウンはちょっとクロウが苦手でした。

 いつもクロウはブラウンをにらむからです。何でなのかはわかりません。キャリィもどうしてかしらと思っていました。今日もキャリィはブラウンに会いにいくのですが……。


 森をでて原っぱにつくとブラウンがまっていてくれました。けどかたわらにはクロウもいます。なんで?とキャリィは思いました。クロウはあいかわらず、ブラウンをにらんでいます。


「……なあ。ブラウン。おまえはほんとうにキャリィとおつきあいする気はあるんだろうな」


「あるにきまってんだろ。クロウはうたぐり深いなあ」


「ブラウン。おまえ、キャリィをなかせたりしたら。ただじゃおかないからな」


「わかったよ。キャリィをなかせたりこまらせたりはしないから。ぼくもわかっているよ!」


「……なら。いいんだがな」


 ブラウンをにらんでいた目をクロウはやっとゆるめました。キャリィはどうしたもんやらとためいきをつきます。ブラウンとおつきあいをしだしてからずっとクロウはあの調子でした。ブラウンの何が気に入らないのかとキャリィは思います。こたえをききにまたあの白やぎさん――ホルトおじいさんの元にいくのでした。


 ホルトおじいさんは両手いっぱいのクローバーをむしゃむしゃと食べながらはなしをきいてくれます。


「……ふうむ。なるほどのう。クロウが何かとブラウンを目のかたきにしているんじゃな」


「そうなんです。どうしたらいいでしょうか。ホルトおじいさん」


「そうさのう。わしもブラウンはいい子だと思うぞ。だが、キャリィちゃん。クロウはな。きみのことが心配でしかたないんじゃろうて」


 ホルトおじいさんはそういいながらあごのひげをなでました。キャリィはまさかと思いますが。


「キャリィちゃん。きみもあと四、五年もすれば。おとなのうさぎになる。それまでブラウンとおつきあいをつづけられるかね?」


「……わかりません。お別れするかもしれないし」


「なら。ブラウン以外の子とおつきあいするのか。自分のきもちをよおくたしかめてみなされ。そうすれば、見えなかったものも見えるかもしれん」


 ホルトおじいさんはそう言うとむしゃむしゃとまたクローバーをほおばりました。キャリィはうつむいて自分のむねに手を当てて考えてみたのです。


 ゆうがたになり、ブラウンがむかえにきました。キャリィはブラウンにまっすぐに向きあって足をとめます。


「……ブラウン。わたしはあなたのことは好きよ。けどあなたはどうなの。ほんとうのところをおしえてほしいの」


「……キャリィ。ぼくはこのとおり小さくてよわっちいよな。じつはきみといっしょによくいたクロウがうらやましかった。あいつはぼくよりたいかくもいいしつよい。それにかおもカッコいいし」


「そう言うふうに思っていたのね。でもクロウは犬さんよ。わたしやブラウンとはちがうわ」


「うん。それはそうだよな。キャリィはぼくがおとなになったらさ。けっこんしておくさんになってくれるかい?」


「え。その。いいの?」


 キャリィが目をぱちくりさせながらきくとブラウンはにっこりとわらってうなずきました。そしてかのじょの前足をとり、にぎります。


「うん。クロウにすごくおこられたんだ。あそびでつきあうつもりならゆるさんって。それならまじめにちゃんとおつきあいしろってね」


「クロウがそんなことをね」


「そうだよ。ぼくもキャリィやクロウのことばで目がさめた。こんごはきみとのけっこんをもくひょうにしようかな」


 キャリィはいっきにほっぺたにねつがあつまるのがわかりました。あついなと思いながらもあるき出します。ふしぎそうにしながらブラウンはついてきたのでした。


 あれから、四年がたちました。キャリィやブラウンはりっぱなおとなのうさぎさんになっています。にとうはけっこんしていました。キャリィはまいにち、おうちのそうじやおせんたく、おりょうりなどをけんめいにこなしています。ブラウンも森にいっては木のみやきのこ、草などをとりにいったりといそがしくはたらいていました。


「キャリィ。ただいま」


「おかえりなさい。ちょうどよくにんじんのケーキがやけたの。たべない?」


「もちろん。たべるよ」


 ブラウンは森からとってきた木のみがはいったカゴをつくえにおきました。いったん、そとに出ます。水のみばで前足をあらってからふたたび家のなかにはいりました。キャリィがきり分けたケーキをおさらにもりつけていたところでした。おいしそうなかおりが家じゅうにただよっています。


「おいしそうだな」


「ええ。きょうはうまくやけたように思うの」


「そうか。じゃあ、さっそく食べようよ」


 ブラウンが言うとキャリィはにっこりとわらってうなずきました。にとうは仲よくにんじんのケーキを食べながらその日にあったことをはなします。日ざしがおだやかにふりそそぐラビィの森にしずかにかぜがふきぬけたのでした。


 ――おわり――


 

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