第24話 パーティ その2

 パーティはすでに始まっていた。


 広い会場で立席でのパーティ。奥では演奏をしている人たちがいて、優雅な音色を奏でていた。あちこちにテーブルとそして軽食が並べられ、着飾った貴族たちが、各々グラスを手に持ちながら、会話を楽しんでいる。


「ねえ、見て見て、あのテーブル」


 指差した方を見ると、その一角にケーキを積み重ねて城を形取った物が置かれてあった。なかなか精巧にでできている。感心している間に姉はするりとどこかへ消えてしまった。


 当事者意識がないのは彼女の方じゃないか。


 そう思いながらヨーク一家を探しに歩き始めた。当主のリチャードと長男ジュリアン、妹のマーガレットは全員銀髪という話なので、たくさんの人間がひしめき合うパーティ会場でも見つけやすいと思われた。彼らの一族以外で銀髪をしているものはいなかった。


「いよう」

 突然後ろから肩を叩かれた。振り向くと王太子がいた。


「俺に用があるなら、もう少し後の方がいいな。今、結構、応対で忙しいんだ」


 そして、王太子は近づくと耳元でささやいた。

「マリアちゃんどこ?」


「姉の行方はわかりませんが、おそらく、デザートか何かが置いてあるところにいると思いますよ」

 ため息まじりでそう答えた。


「あいつらしいな。まあ、いいか」


「ヨーク家の皆さんがどこにいるかご存知ですか?」


「うーん、さっき見かけたけどな。連れて行ってあげたいが、もう時間がないんだ」


「どんな人たちなんですか?」


「うーん。当主のリチャードは結構話好きだな。派手好きで陽気な人だと思う。きっと会えばすぐに打ち解けると思うよ。奥さんのセーラさんはすごい綺麗な人だったな。なんというか、惹きつけられるものがあるというか、彼女の周りには絶えず人が集まってきて、彼女自身はそんなにおしゃべりじゃないんだけど、いつも賑やかな輪の中心にいるような人だな」


「兄妹がいると聞きましたが?」


「ああ、二人ともなかなかの美形の兄妹だよ。ジュリアンもマーガレットもどちらかというと、物静かでおとなしい感じに見えたな。あまり、話したことはないけど、ああ、ごめん、そろそろいかなきゃ」


「ありがとうございます」


 王太子は手を振ってからすぐに立ち去っていった。


 ヨーク家のイメージがなんとなくついた気がした。あとは直接会って確かめる必要がある。しばらくの間、ヨーク家の人たちを探して歩き回った。


 ◇


 結局全然見つからず、歩き疲れてパーティ会場の方を離れることにした。


 会場は広すぎるし、人も多すぎる。ちょっと、簡単に考えすぎたようだ。まあ、4年後までは時間もまだあるし、今回はパーティでうまく接触できなくても仕方ない気がしてした。だいたい、姉自身があまりやる気がないのが気に入らなかった。


(あの猫たちはどうなっているのかな)


 なんとはなしに、池の方に向かって歩いていた。


(餌でも持っていけばよかったかな)


 とりとめもないことを考えながら歩いていると、突然、誰かを責めるような声が聞こえてきた。


「なんとか言ったらどうなの、この化け物女」


「そうよ、そうよ。王宮なんかに忍び込んで、王太子様だけじゃ飽き足らず、ヘンリー様に声をかけるなんて。怪しい魔力でも使って、たぶらかすつもりだったんじゃないの? いやらしい」


「こいつ、さっきから一言もしゃべらないんだけど、人の言葉が分かるのかしら?」


 ただごとではない気配を察して、僕は声の方に向かって走って行った。


 3人の貴族の女性が一人の女の子を取り囲んでいる。3人がかりで罵倒しているようだ。


 そして、囲まれているのは、銀髪の髪をした小柄な少女だった。うつむいているので瞳の色が確認できなかったが、おそらく、ヨーク家の一族、ジュリアンの妹マーガレットに違いない。


「待ってください」


 僕は迷わず彼女らに声をかけた。


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