第20話 ディアナ王妃とアン王女
「僕が見聞きしたところ、ディアナ王妃がこのようになったのは、やはり、アン王女の存在が大きいのではないかということです」
「まあ、あのばあちゃんだしな。いるだけで雰囲気変わるんだぜ、空気が凍りつくみたいな感じで」
「どうせ、怒られるようなことばかりしているんでしょ」
「それが、俺はそんなに怒られないんだが、周囲には俺が成長していないって、かなり小言を言っているみたいだな。その方が辛い」
彼は少し塩らしい感じにうつむいた。
「どういう方なんですか?」
「どういう方も何も、まあ、貴族ってこうあるべきだってのが、明確にあって、それを守らない人間は相当こっぴどくやられるんだ。王族も例外じゃないどころか、貴族に対して模範を示せといってより厳しく言っているらしい」
「こうあるべきとは?」
「貴族は庶民に生かされているんだから、庶民以上に自分に厳しく生きるべきだとかなんだとかで、贅沢をする人間や、庶民に威張り散らす人間が大嫌いなんだ。そのような振る舞いをしている人間は誰であろうと叱責したり、場合によっては厳しく処罰するんで、みんな怖がって萎縮しちゃってるよ。うちの母さんなんて、ケチくさいだの、古くさいだの、頭が硬いだの散々悪口ばかり言っている」
「うわー、やばいわね。それじゃあ、ブラッドフォード家嫌われるわ」
公爵家の中でも特に裕福と言われているブラッドフォード家。その子供を王太子の婚約者にというのはかなり反対されそうだ。
「王妃殿下の実家はカーディフ伯爵家、元は侯爵家の一族。20年前の魔王討伐戦後に何故か降格処分を受けています。その処分に影響があったのが、その時権力を握っていたアン王女とも言われています。何が問題だったのかは明らかになっていません」
僕は調べてきた話を続けた。
「アン王女って、逆らうとなんだか怖そうだもんね」
「おばあちゃんは、理由なくそんなことをする人ではないと思うよ。いつも怖いけど、横暴ではないはず。庶民には寛大だしね」
「でもあなたのお母さんは、実家からの影響を受けているかもよ。つまり、その時の恨みっていうことね」
「そうかなあ。でも昔そんなこともあったなんて…… 知らなかった」アーサー王太子は深く考えこむ様子を見せた。
「僕の考えでは、そういった因縁も影響しているとは思いますが、アン王女に対する対抗心みたいなものがあるんじゃないかと思っています」
晩餐会が始まる前の演説をぶっているところから、やはり、ディアナ王妃はアン王女にライバル心を持っていることは確かだと僕はにらんでいた。
「じゃあ、今回の婚約騒動はアン王女に対する嫌がらせみたいなものなのかしら」
「ブラッドフォード家はあまりよく思われていませんですしね。あと、王妃殿下はブラッドフォード家の力を借りることによって、アン王女に対抗したいのかもしれません」
「うーん、そうか。そうなのかなあ。きっと俺が悪いのかもしれないな。母さんにあの父さんみたいになるんじゃないって、散々言われてきていたのに、結局、何やってもうまくいかなかったしな。婚約者を自分で選ぶなんてとんでもないと思われているのかもしれない」
アーサー王太子は寂しそうな顔をしている。
「あんたが落ち込む必要なんてないでしょ。あんたの母さんも他人ばっかり頼りにして勝負しようとするから、思うように行かなくって、それでおかしくなるのよ。だいたい人の手を借りて、アン王女に勝っても楽しいのかしら」
「まあ、あの英雄相手に勝負挑むのは、どんな人間でも難しいでしょうね。だから、今回はアン王女に勝つことができる絶好の機会なのかも知れません」
「どういうこと」
「婚約とう言うのは、基本的に両親が決めることだからです」
「それで」
「アン王女は王立学園に入ってから自分の目で見てパートナーを探すべきと言っているようです。でも、女王の座を退いているので、実際の王権を握っているのはお父上。そして、王はディアナ王妃には頭が上がらない」
さらに僕は話を続けた。
「子供の結婚相手を探すのは両親の役目ということも考えると、アン王女への意趣返しとして、強引に姉さんとの婚約話を進めてもおかしくないということです」
皆はすっかり黙ってしまった。王妃とアン王女の対立に関してはこちらではどうしようもない。ましてや子供の立場ではやれることなど何もないのだ。
「やっぱりさ、俺が頑張るしかないんだろうな。母さんに俺のことを認めてもらって、一人前だと思ってもらえれば、俺の意見も少しは聞いてくれるかもしれない」
「そうね、私たちができることはあまりないかもね。応援しているわ」
アーサー殿下の横顔は、いつもよりも頼もしい感じがした。もしかしたら、これから彼は大きく変わるのかもしれない。
「そうだ、今度、二人で王宮に来てくれよ。歓迎するからさ。色々と見せてあげたいものもあるし」
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