第35話 突破

 山は頂上に行くにつれ木は低くまばらになって、岩だらけの足場になっていた。頂上にはかつて魔族たちが使用していた岩盤をくり抜いた砦と、そこに無理矢理取ってつけたように隣接している建物が見えた。


 そして、その砦にはものすごい数のオークの群れが取り囲んでいたのだ。


 絶望的な光景だった。あまりの状況に僕は震える拳を握りしめながら、ただただ、しばらくの間、立ちすくんでいた。


(ジョージはどこだろう?)


 ふと気がついた僕はジョージの姿を確認した。ジョージは砦に向かって突進していた。凄まじい剣戟や血飛沫の音がこちらにも伝わってくるかのような勢い突き進んでいる。しかし、オークの群れが多すぎて建物になかなか近づけていない状況だった。


 このまま黙って見ているわけにはいかない。


 砦が完全に落ちていないところを見ると、王太子はまだ健在なのかもしれない。その可能性が少しでもあるなら、賭けてみる価値は十分にあった。


(時間はもうない)


 自分の使える中級魔法のうち範囲が広くて威力が高い火・風の魔力を組み合わせた爆裂系の呪文を選択した。まずは魔力を集中して、ジョージの位置を確認し、彼に当たらないようにオークの群れに打ち込んだ。


「爆裂閃光弾」


 輝きを放つ玉が着弾すると、爆風とともに数体のオークが吹き飛んだ。続いて第二、第三の光弾を放ち援護を継続。遠距離からの攻撃にオークたちも混乱をきたしていた。


 しかし、気がついた一群がこちらに向かって突進してきた。距離があるうちは魔法でを放って処理したが、倒し切れない2体がかなり近づいてきている。魔力を込めるための集中する時間がない。僕は覚悟を決めて腰の剣を抜いた。


 相手は簡素な鎧を着ていて、盾と大剣、大斧を持っていた。2m程度の大柄な体躯、動作がそれほど機敏ではないことは助かったが、大柄な相手2体を同時に対応するのはかなり難しいと思われた。近づいてくるとその巨躯の威圧感で押しつぶされそうになる。


(ジョージはよくあんな奴らと戦えるな)


 ジョージの凄さを思い知るが、ゆっくりと考えている暇はなかった。オーク2体は互いに少し距離を置いて、囲むような動きで前に進んできた。突破するなら右か左か。


 右の一体が先に大剣を振りかざしてきた。僕はその剣を軽く避けると相手の脇腹にむけ剣を振るった。


 手応えとともに血飛沫が上がる。相手の動きがひるんだところで、その横をすり抜けようとした。


 左にいたオークが大斧を振るい、刃先が頭上をかすめた。ヒヤリとしたが、構わず前へと抜けでた。


(抜ける)


 そう思った瞬間、もう一体のオークが前に潜んでいることに気がついた。大剣をすでに振り下ろしている。


(しまった)


 こちらも剣を振って対応したが、力の差は歴然だった。ビリビリとした手の感触を残して、持っていた剣が飛ばされてしまった。大斧を振りかざすオーク。間に合わない。


(やられる)


 だがそのオークは目の前で突然首が飛ばされ、そのまま、ゆっくり崩れ落ちるように倒れていった。


「剣の腕は今ひとつだな」


 ジョージの姿が目に入った。まるで何事もなかったような顔つきでこちらを見ている。


「ありがとうございます」


「お礼は後でたっぷりいただくぜ。まずは砦だ。援護しろよ」


 ジョージはすぐに振り向くと、再び大群に向かって突進していった。


 ジョージの援護をしながら前へ前へと進む。相手はジョージの勢いに明らかに押されていた。まともに立ち向かっても全く相手にならないことがわかったのか、盾で防御を固めるようになってきた。


 そこで防御を固めている相手に向かって魔法を打ち込んだ。ひるんだ相手は隊列を崩し、その隙をこじ開けるようにジョージが切り込んでいく。まさに鬼神のような闘いぶりだった。


 次々に相手の防御層を突破し、気が付いたら砦の門についていた。たどり着いた僕らに対し、オークたちは容易に近づけないと悟ったのか、少し距離を置いて包囲している。


「聞こえるか。ジョージ・レスターだ。救援に来た」


 少し時間が経った後、鈍い音をたてて門がわずかに開いた。ジョージが先に入れと身振りしたので、僕の方から門に入り、ついでジョージも滑り込むと、門はすぐに閉じられた。


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