26話 学校生活の始まり
「うわー、めっちゃ明るい!!」
「ね〜、目が開かないよ〜」
四人の協力で無事に五体の敵を倒して、模擬作戦は終わった。言伝の指示を受けて、アリーナを出たところでふう達は太陽の明るさに目をやられていた。
「暗闇に長時間いたから無理もないよね」
「前が全く見えないな……」
四人は暫く目を慣らすために立ち止まっていた。
「ねえ、ふーちゃん」
目が少し慣れてきた所で、花がふうの前に出てきた。
「どうしたの?花」
ふうは首を傾げる。
「ふう姉……」
「え?」
「ふう姉って呼んでもいいかな?」
花はずいっとふうに顔を近づけた。花の淡萌黄色の瞳がきらきらと輝いている。
「えっと……」
ふうが戸惑っていると花はぽわっとした笑顔をふうに見せた。
「私ね、ふーちゃんを見てヒーローだ〜って思ったんだ!私を助けてくれた時凄くかっこよかったし、私達を信頼して行動してた所もすごいなって憧れちゃったの!だから、ふう姉って呼びたいの〜」
ふうは少し目を見開いた後、目を細めて微笑んだ。
「うん、いいよ」
その純粋な好意が嬉しくて、ふうは花の頭に手を伸ばして優しく撫でた。
「やったぁ〜」
ーなんだか妹みたいだな
花は気持ちよさそうに目を細めて撫でられるがままになっている。ふうがその手から伝わる花の温もりを感じていると
「あ、ずるい!ボクもボクも~」
と頬を膨らませたきいが花の隣に並んだ。ふうはもう片方の手できいの頭も同じように撫でる。
「ふうさん、人気だね」
そんな三人の様子を微笑ましそうに見ながら亮輔は校舎へと向かう道を歩き始めた。
「君もして欲しかった?」
その様子が少し寂しそうに見えて、ふうは亮輔の背中に向かって声をかける。亮輔が驚いたように振り返った。ふうの言葉が予想外で返答に困っているのか、亮輔は固まったまま目を泳がせていた。
クラスの中でもトップクラスにしっかりしていて落ち着いている亮輔の慌てる姿を見たふう達は顔を見合わせて笑い合った。
「冗談だよ。さあ、いこっか」
ふうはぱっと花ときいを撫でていた手を離して歩き出し、亮輔を追い越す。亮輔は「冗談」というふうの言葉を聞くなり胸をなでおろして緊張を解く。
「確かに俺達の班が一番終わるのは早いと思うけど、もしかしたら他の班が待ってるかもしれないね」
亮輔が少し駆け足で前を行くふうを追いかけてきた。
「俺達の班が一番早いって……りょーくん結構自信家だったりする?」
きいがいたずらっ子のような笑みを見せて亮輔に問いかけた。
「まさか。でも俺達のチームワークは最高だった……違うかな?」
亮輔は首を僅かに振った後、さわやかな笑みをふう達全員に向けた。
「あははっ、違わないかも!」
きいが笑いながら亮輔の後に続いた。
「よーし、じゃあ校舎まで競争しよ~」
花が最後に走り出して先頭のふうの横に並んだ。ふうの腕を掴んで走り出す花につられて亮輔ときいも走り出した。
四人は、もう桜が散ってしまった道を笑いながら駆けていった。
ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「本当にボクらが一番早かったなんてウケる」
きいがバックの中に忍ばせていたチョコを口の中に放り込みながら言った。
ふう達が教室に着いた時、他の班はいなかった。ふう達の十分後くらいにかるま達の班が、その二十分後くらいに雹牙達の班が戻ってきた。
全員揃うと、高鷲はこのデータは今後の授業に活用する、明日からは通常通りの時間割で進めるから教科書を忘れないようにとだけ端的に伝えて教室を去っていった。
今日の授業は模擬作戦のみだったので、この後は自由時間だ。今は午後3時ということもあり、この後何処かに出かけるという約束をしている者や、早速教室を出て寮に戻る者もいた。
先程まで班ごとに座っていたので、ふう、亮輔、花、きいはそのままの席で会話を始める。
「でも明日からは普通の授業なんだね~」
入学式の日に配られた時間割表を眺めながら花は少し残念そうに言う。
「エジャスターになる為の学校だからもっとそれっぽいことをするって思ってたけど、案外普通の高校と変わらなそうな時間割だね」
きいはそれを覗き込んでため息をつく。
「でも、必ず朝は体力づくりのための走り込みがあるし、今日までやっていたみたいなエジャスターになるための諸々の訓練は、毎日二コマづつある専門授業の時にやるんだろ?」
亮輔が指をさしたのは、月曜日から金曜日まで必ず九十分は時間をとってある専門授業。土曜日に関しては、朝の9時~12時までその授業が入っていた。
「うん。ここで毎日訓練をするって言ってたよね。能力の訓練とか、座学とか、戦闘訓練とか、課外授業とかもするみたいだよ」
ふうは亮輔の言葉に同意してきいと花に説明した。
「え!?そうなの〜?」
花が驚きの声を上げる。
「一年生でも指名や推薦は貰えるから、結構詰め込んでくるんじゃないかな」
今の時代、エジャスターは必要不可欠の仕事で、且つ人手が不足している仕事でもある。戦闘に役立つ能力、もしくはそのサポートができる能力を持っている人が少ない上に死が常に付き纏う危険な仕事。それがエジャスターであり、ヒーローだ。幼い頃誰もが憧れるヒーローではあるが、実際に夢を叶えられる人は少ない。
そうはいっても、毎年行われるエジャスターの資格を得るための試験を受けられる唯一の学校、豪傑高校はその年の受験生の約1/3が志望していると言われている。ただしやはりその中で合格するのはほんの一握り。無事に合格したとしても、エジャスターになれるとは限らない。ただでさえ狭き門というのに、ついて来れない者は振り落とされていくからだ。
「今でも結構こなして来たなーっていう体感はあるんだけど、明日からはもっと目まぐるしい日々が待ってるってことかー」
きいはうーんと唸りながら隣にいる花の口にチョコを押し込み、バンっと机を叩いた。
「今思ったんだけど!朝走った後に数学とか国語とか諸々の授業受けるんでしょ!?」
バッときいは椅子を横に向けて後ろを向いてきいの話を聞いていたふうの目の前に時間割を出した。
「う、うん」
「ボク、絶対寝る自信ある!」
きいの勢いに押されるふうを無視してきいは胸を張った。ふうは自信満々に言い張るきいを見て小さく苦笑した。そんなきいに花が同意してきた。
「私も〜。疲れて寝ちゃうかも〜」
「だよね!?体を使った後に頭を使えとか無理難題すぎる」
「へとへとだね〜」
きいと花のふわふわした会話を聞きながら、ふうは腕時計の上に小さく表示させた空中ディスプレイに視線を落とした。
「体育大会、か……」
学校のホームページから見ることができる行事予定表を見ながらふうは呟く。
「そういえば、5月くらいにあるんだっけ?」
亮輔がふうに問いかける。
「何々!?」
「体育大会って確か……」
二人で話をしていたはずのきいと花が興味津々な目をふうに向けて来た。
「うん。5月の後半にある、武闘大会……普通の高校でいえば体育大会だね」
「普通の高校みたいに競技はしないんだよな。学年ごとに大きなフィールドで生き残りゲーム的なことをするんだろ?」
「そうそう!ボク、見たことあるよ。生徒同士で戦って、最後に残った一人が優勝ってやつだよね」
亮輔ときいが言ったように、豪傑高校の体育大会は他の高校のそれとは全く異なっている。毎年行われている学年ごとの優勝を賭けた生き残りゲーム形式の武闘大会は、メディアからの注目度が高い。
「私もよくテレビで見てたよ〜」
「結構人気だよね、ここの体育大会。優勝者だけじゃなくて、活躍した人は記事にも大きく取り上げられてる」
きいがディスプレイに表示させた記事を見せる。そこには今やエジャスターとして前線で活躍している人達の若かりし頃の姿が映っている写真が多く載っていた。
体育大会の様子は全国に生中継される。そこで人々は将来自分達を守ってくれるヒーロー見習い達の姿を初めて知り、期待を膨らませる。エジャスター達もテレビで見たり、実際に会場に来て視察を行う。
ここでアピールすることができれば、指名がもらえるのだ。
だからこそ、体育大会は今年入学して来たばかりで存在を知られていない一年生にとって初めて注目を浴びることが出来る初めての機会となる。
ーだからこそ、私は……
「活躍できるように頑張らないと~!」
「だね~。あ、みんなこの後用事あったりする?」
きいの問いかけに、花と亮輔は首を振った。
「私は何もないよ~」
「俺もこの後は寮で過ごそうかなとしか考えてなかったな」
きいは目を輝かせて立ち上がった。
「ここの近くに美味しいパンケーキ屋さん、あるんだよね。一緒に行かない?」
「行きたいな~」
「パンケーキか。暇だし、俺も行ってみようかな」
「やった!じゃあ、早速行こー!」
きいに続いて立ち上がって教室を出る花と亮輔の後を、ふうは追う。
ピコンッ
丁度教室を出てドアを閉めた所で、通知音が鳴った。ふうは時計をタップして、メッセージを確認する。
ー校長先生から……
「みんな、ごめん。私ちょっと用事が出来ちゃったから、行けないかも」
ふうはきい達の背中に声をかける。
「えー!!」
きいは振り返るなり、残念そうな声を上げた。
「ごめんね、また今度誘ってくれたら嬉しいな」
ふうは残念そうにするきい達に頭を下げて、きい達が向かっている方向とは反対方向に足を向け歩き出した。
「もしかして、あの事かな……」
呼び出された理由に心当たりがあったふうは急ぎ足で校長室へと足を進めた。
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