第2話

「そうだね。早い。」


僕もそれに賛同する。


「とりあえず乾杯しない?」


僕は提案する。

浮いていた桜の花びらも、全て落ちていってしまった。


「そうですね。」


2人で声を合わせて「乾杯。」と落ち着いた声で言うと、グラスを合わせる。

カチンと、安っぽいガラスの音が夜空に響いた。


そういえば彼女と出会ったのは、大学のサークルだった。

特にサークルに入りたいとか、あんまりなかったが熱心に勧められて断れなくなった文学研究サークル。

なんだかんだダラダラ続けていたら彼女に出会った。


「初めましての時、林田先輩めちゃくちゃ陰キャで面白かったなー。」


彼女と出会ってからというもの、ずっとそのネタでいじられてばっかりだ。

あれはたまたま。たまたま陰キャっぽく見えただけで。


「僕は陰キャじゃないよ。たまたま髪がボサボサでコンタクトつけてなかっただけ。」


僕はむっとして反論する。

別に陰キャではないと言い切れるほどの友達もいないが。


「そんなこと言うなら君だって陰キャだったじゃないか。」


髪は長くて、ボサボサ。クマのできた目に、とても大きい丸メガネ。

初めて声をかけた時はそんな姿だった。


「あれは…大学のノリが分からなくて着いてけなかっただけで。」


今は髪は肩より上に切りそろえられており、茶髪に染められている。

クマも上手く隠しているのか、全然見当たらない。


唯一残っているのは大きい丸メガネくらいだ。


「深月さんは変わったよね。」


ボソッと口から出る。

月から、大きな丸メガネに視線を移して。

変わったことが嫌とかでは無いが、見つめていると彼女はイタズラな笑顔をこちらに向ける。


「変わって残念でした?」

「そんなことないよ。」


そう言って深い深い夜になっていく。

僕たちの酔いも、さらに深く。

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