第3話 美丈夫の案内

(あら? この殿方はよく見ると……)


 竜次の強さと人間性に惚れ惚れしている咲夜だが、その竜次の顔を可愛らしい三日月目で眺めるうちに、あることに気づいた。彼はいい年の重ね方をした、かなりの美丈夫なのである。もっとも、竜次自身はそのことを今まで気にしたことはなく、それもあって30半ばで独り身を楽しんでいるという寸法だ。


「…………」

「? どうした? お喋りかと思ったら、急に黙っちまって?」

「あっ!? いえ、何でもありません。お話の続きをしましょう」

「まあ、少し手短に頼むぜ。だいぶ日が落ちてきた」


 男性としての竜次に好意を持ち始めている自分を押し隠しながら、咲夜はほんのりと赤くなった頬を深呼吸で落ち着かせ、もうしばらく異世界アカツキノタイラと咲夜自身のことを話した。




「異世界にある国、縁の国のお姫様ねえ……。俺もあのとんでもねえ赤鬼を斬っちまったからな。信じるしかないか」

「ありがとうございます。竜次さんから見て異世界、アカツキノタイラの世は、今、乱れています。それを治めるため、日本のこの辺りにある小さな祠の石杯をお借りしようと……」


 祠と聞き、竜次は顎に手を当て、しばらく考え込んだ。そして、手を握り拳でポンと打ち、


「ああ! あのお地蔵さんがある所か! ちょっと来てみな」


 と、咲夜と守綱率いる小兵団に手招きして、社宅の帰路から外れた茂みの小道を歩き始めた。




 初夏の草が伸び始めている茂みをどんどん進んでいくと、程なく小さな杉林が見え始めた。その林の差し掛かりに、ちょこんと優しいほのかな笑顔でこの地域を見守る、お地蔵さんが座っている。それを祀るように、簡素な祠が建てられていた。誰が作ったともわからないが、歴史はかなり古そうだ。


「俺はこのお地蔵さんが好きでな。よくここに来てお参りをするんだ」


 優しい目をした清々しい笑顔で、竜次は守護の地蔵を指差す。咲夜と守綱は、その向こうの祠を見て、少し驚いた表情をしていた。


「これは正しく……姫様、ぬかっておりました。申し訳ござらぬ」

「いえ、反対方向に行かざるを得なかったのです。オーガに追われていましたから。それにしても、私達が現れた場所から、これほど近かったなんて……」


 咲夜たちは、この茂み小道の外れから歪を開き、日本へ現れたらしい。竜次がドウジギリで斬った赤鬼(アカツキノタイラではレッドオーガとも呼ぶ)も、異世界とつながる歪から、彼女たちを追ってきたのだが、話を聞くと、それは咲夜たちにとって全く想像していなかったことだったようだ。

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