第11話 エンチャントした短剣を食べたらエンチャント効果が自分に移動した

 冒険者ギルドは入団キャンペーン中で、短剣と盾をくばっていた。

 どちらも質がいいとは言いがたいが、ちゃんと鉄で作られている。

 しかしコトミールは自分用の剣を持っているし、前世から盾は使わないスタイルだ。

 宿のベッドに短剣と盾を並べ、使い道を考える。


(エンチャントの練習に使ってから、売り飛ばすとしますか)


 まず短剣に『切れ味強化』の魔法効果をエンチャントする。

 試しに盾を斬ってみる。ほとんど力を込めなくても真っ二つにできた。


(いい感じです)


 ただ押しつけるだけでは斬れないので、気がついたら鞘が真っ二つになっていたという心配もいらない。


(さて。小腹が減ってきました。下の食堂でなにか食べ……この短剣、妙に美味しそうです……さ、さすがに駄目ですよね。悪食スキルがあるからって、刃物を食べるなんて……あ、なぜ手が勝手に。そんな、だめ……あ、美味しい……ばりばり、もしゃもしゃ……)


――――――

鉄の短剣を捕食しました。

魔法効果『切れ味強化』をエンチャントしました。

――――――


「ん? エンチャント? 私に?」


 自分自身にエンチャント。実は前にも試した。

 しかし武器や防具などにはいくらでもエンチャントできるのに、生物には無理だった。


(武器を経由すれば生き物にエンチャントできる……いえ、悪食スキルを持つ私だけにしか通じませんね。それにしても切れ味強化って、私のどの部分の切れ味が強化されたんでしょう……手刀?)


 また盾で試す。

 手刀で正解だった。

 チョップを振り下ろし、剣のように引くと、盾がスパッと切れてしまった。


(こりゃ便利です。なら盾を細かく斬って、破片の一つ一つにエンチャントして……)


――――――

鉄の盾の破片を沢山捕食しました。

魔法効果『雷耐性』をエンチャントしました。

魔法効果『冷気耐性』をエンチャントしました。

魔法効果『熱耐性』をエンチャントしました。

魔法効果『毒耐性』をエンチャントしました。

魔法効果『呪い耐性』をエンチャントしました。

魔法効果『催眠耐性』をエンチャントしました。

魔法効果『手入れしなくても綺麗』をエンチャントしました。

――――――


(成功です。これで色んな属性に強くなったし、何日もお風呂には入れない状況でも清潔です。せっかくなので、私の痛覚の検証もしますか)


 コトミールには、たった今エンチャントした魔法効果のほかに、リリアンサからコピーした『森の精霊の加護』もある。

 これは大別すると、二つのことができる固有スキルだ。

 植物を操れる。

 そして、眠っているときでも結界が自動防御してくれる。

 結界が頑丈なのは検証済み。が、頑丈すぎてその辺に体をぶつけても気づかないようだと、日常にも戦闘にも支障が出る。


(まずはお腹に剣を突き立ててみましょう。切腹みたいな感じで……ふんっ!)


 刺さらないし、痛くない。結界のおかげで服も無事だ。なのに、鋭いものがぶつかったという感覚、、はある。


(攻撃されても気づけない、ってことにはならなそうです。でも、これほどの衝撃でこの程度の感覚ってことは、日常では不感……いえ、布と肌が擦れる感覚はずっとあります)


 頬をつねってみる。やや痛い。


(切腹の真似事ではまるで痛くなかったのに、これは痛いと。結界は全てに働くわけではない? よく考えると、全てを防いでいたら、怪我の治療もできませんし。どこかで線引きしているはず……あとリリアンサさんは私の刺突で痛がってたので、防御力にも限界があるのでしょうね……)


 全力で腹パンしてみた。痛くない。

 自分に雷魔法を撃ってみた。痛くない。

 小指をベッドの柱のぶつけてみた。痛い。


「いだっ! いだだだだだっ! いだぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 ベッドが壊れない程度の蹴り。

 なのに痛い。泣くほど痛い。コトミールは枕に顔を埋め、しばらくガチ泣きした。


「うぅ……人には見せられない姿です……」


 しかし、これで自動防御が働く基準が見えてきた。

 覚悟を決めたときに、我慢できるか否か。

 小指をぶつけた痛みで悶絶したのは確かだが、これが戦闘中だったら我慢できた。というより気にもとめない。だが電撃や切腹は、いくら覚悟を決めても平然とはできない。

 その辺りにラインがあるらしい。


 それにしても痛かった。このあと街の公衆浴場に行くつもりだったが、もう気力が湧かない。今日はこのまま寝る。

 早速『手入れしなくても綺麗』の魔法効果が役に立った、とちょっと嬉しくなるコトミールであった。

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