第55話・千夜一夜物語 12[アッラー・アディーン(アラジン)]

願いが叶うランプがあったらどれ程良いだろうか。

願いが叶う指輪があったらどれ程良いだろうか。

願いが叶うなら僕は何を願うだろうか。

そんな話だった。話の主人公は色々願いを叶えたな。

僕はアラジン。奇しくもこの今見せられている話の主人公は同じ名前だ。

僕はそこまで悪くない、そこまで世界を呪っていない。

確かに僕は貧しい家の出だけれどそこは大して珍しくない。

シンドバットが来るまでは、それが普通だった。

悪い事してないと言えば嘘になる。

僕は他の人より美形だったからそれを利用したりもしてきた。

綺麗じゃなかったらここまで生きてはいないだろう。

そういう世界の話。

僕は世界から出たいと思ってた。

そんな時シンドバットと出会った。

僕達がまだ幼い頃、シンドバットその時から飄々としていた。何を考えてるか分からない所もあった。

たまたま王族のお忍びで下町に来てたシンドバット。ボディーガードを捲いて逃げ出して暗い道に来た時に出会った。

僕がその時何をしていたかは内緒。

一目でこのあとこの人と何かあると思った。

それはシンドバットも同じだったらしい。

その時からシンドバットよくお忍びに僕の所に来るようになった。

僕らはずっと一緒にいた。

それはどんなときも。

シンドバットは王族なのに自由に生きていた。

それはシンドバットだからなのか。

そしてお互いの気持ちが友から恋へ、そして愛に変化するまでそれ程時間は掛からなかった。

自覚して想いを告げた日は一晩中一緒だった。

僕らは成人した。そして七つの海に飛び出す。

一人なら死んでいただろう。

シンドバットといたから。

シンドバットじゃないと無理だっただろう。

シンドバットがいたから僕がいる。

僕がいるからシンドバットがいる。

と思っていた。

これからもずっとずっとそうだと思っていた。

あの時までは。

あの人に、天使に会うまでは。

全てが書き換わる感覚。気持ちが身体が天使を求めている。

気持ちも切り替わりが急なのは分かっている。けれどそれでもこの気持ちは当たり前の様に、世界の始まりからこうだった様に。

日は昇り沈むくらい当たり前に。

天使は僕の愛する人。

シンドバッドを愛していた気持ちも本物。

天使にこの命を捧げても良い気持ちも本物。

理由・・・・・何故そう思っているのかの理由・・・・。

そうだ・・・・願い・・・・願いがあるなら・・・・願いが叶うなら・・・・。

僕の願いは・・・・。

そう思った時、頭と目の前の靄が消え去った。

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