第91話.裏切⑤
「もう一つのルートですか?」
ティトが改めて聞く。
「ああ、おそらく山越えよりも安全だと思う」
「それは、どんなルートなんですか?」
「地下水脈だ」
「……地下水脈ですか?」
ルイスの言葉に、ティトは一度ぶるりと身体を震わせてから、噛み締めるように聞き返す。
「ああ。ここに来るまでに、地下水脈があっただろう? あそこに流れていた水、ほのかに光っていたのを覚えているな? あの光、何かに似ているとは思わないか?」
「あっ!」
ティトは短く声を出して目を見開いた。
「似ています。あの青白い光、マリベルが作るパナケアの霊薬に似ていますね」
「だろ?」
「ということは、あの地下水脈の水はパナケアの霊薬なんでしょうか?」
ティトは、自信無さそうに、それでもはっきりと言った。そんなティトに視線を向けて、ルイスは少しだけ目を細める。
「そうだな。当たらずしも遠からずってところだ。確証はないが、あの地下水脈の水にはパナケアの霊薬に類似するものが混ざっている可能性が高い」
「パナケアの霊薬ではなく、類似するもの……ですか?」
ルイスの言葉にティトは首を傾げる。
「ああ、そうだ。俺の予想が正しければ、あの地下水脈の先にはパナケアの泉がある」
「それって!?」
「イザベラ達の目的地だ」
「では、あの地下水脈を遡って行けば、マリベルのもとに行けるんですね?」
「おそらくな」
興奮気味に話すティトに、ルイスは軽く頷く。
そして、ルイスは地下水脈のほうへと向かって歩き出した。
「わっ、兄さん、ちょっと待ってくださいよ~」
ほどなくして地下水脈まで戻ってきた二人は、並んで青白く光る流れを見つめていた。
幅1メートルほど、深さははっきり分からないが底が見えている。おそらく、それほどの深さは無いだろう。
「この中に入るんですよね?」
ティトはぶるりと身体を震わせると、尻尾を縮めて足の間に挟んだ。
「ああ、そのつもりだ」
隣のルイスも小さくつぶやくと、ティトと同じように尻尾を足の間に挟んだまま、嫌そうな顔をしてぶるりと身を震わせた。
「「でも……尻尾が水に濡れるのは」」
二人は顔を見合わせる。
「「嫌なんだよなぁ」」
同時にルイスとティトは、深いため息をついた。憂鬱そうな顔で二人は俯く。
「ぷっ」
「あははは」
「ははははは」
先に吹き出したのはティトだった。それを皮切りに二人は声をあげて笑う。ひとしきり笑いあった二人は、顔をあげてお互いの視線を交わす。
「行くしかないですね」
「ああ、マリベルを取り戻しに行こう。もう一度、俺たちの手であいつらからマリベルを盗み出してやろうぜ」
「はい!」
ルイスの言葉に、ティトは大きく頷いた。
「流れは、それほど速くないですね。このくらいの流れなら、遡って行くことも出来そうです」
「深さはそれほどでもないな。俺でも底に足はつきそうだ」
「奥はどうなっているんでしょうか? なかなか狭そうですね。潜らないと進めない場所もあるかもしれません」
二人は、地下水脈に身を乗り出して、水の中や奥のほうを観察している。
そして、ある程度納得したのか、お互い頷き合うと身に着けているものを脱いで、
「ティト、ロープを」
下着と短剣1本だけになったルイスはティトに声をかける。ティトが
「これで、体を縛っておけ」
そして反対側のロープの端をティトへと放り投げる。すぐに意図を察したティトは、ルイスと同じように腰にロープを巻いた。
ロープは長く、二人の間には5メートル以上の長さがある。
「これで、どちらかが流されても大丈夫だ。しっかり支えていてやるから、安心して先に行っていいぞ」
「いやいや、僕が支えますから、兄さんこそ先に行ってください」
ティトにそう言われて、ルイスは一瞬口を開きかけたが、すぐに口を閉じる。
「分かったよ」
それだけ言うとルイスは、地下水脈に飛び込んだ。盛大に水しぶきがあがり、ティトにもかかる。ティトは、嫌そうに尻尾を引っ込めた。
「思ったよりも浅いな。ティト、お前も早く来いよ」
「は、はいっ」
水から顔を出したルイスがティトを呼ぶ。
ティトは、一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、すぐに取り繕うとルイスに
「うわっ、この水、冷たいですね」
「ああ、体が冷えないうちに先に進むぞ」
ルイスはそう言うと、横穴から分かれて地下水脈を奥へと進む。
──────────────────
🔸地下水脈を進む二人。このままパナケア
の泉に辿り着けるのか?
──────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます