第64話.セルジーニの街とファルマ家④
食事を終えてから1時間くらい。ようやく重い腰をあげたマリベルを連れて、宿屋の女将さんに教えてもらったアンドレア・ファルマの家の前に来ていた。
セルジーニの街はずれ。
家もまばらにしかなく、
家の周りには雑草が生い茂り、正面の扉も一部色が剥げている。
「こんなところに本当に人が住んでいるの?」
「まあ、宿屋の女将が言うんだから、住んでるんだろうな。とりあえず、行ってみよう」
マリベルが
「留守なのかな?」
「いや、中に人の気配がある。留守ってことはねぇな」
マリベルが首をかしげるが、ルイスは明確に否定した。そして、勝手に扉を開けると、ずかずかと中へ入っていく。
ティトとマリベルは、おそるおそるといった雰囲気でルイスに続いた。
扉の中は、店舗になっているのか正面にカウンターがあり、右側の壁には棚が置かれていて、いくつかの回復薬や丸薬が並べられていた。
カウンターの奥には、くたびれた
髪には白いものがまじり、目は暗く沈んでいる。服も古く、ところどころほつれている。まるで
「ん? よそ者がここに何の用じゃ?」
「アンドレア・ファルマという人に用があってな。あんたで間違いないか?」
「ああ。わしが、そのアンドレアじゃが。何の用じゃ」
ルイスが聞くと、男は訝し気な視線を送ってくる。
「パナケアの薬箱、それからパナケアの首飾りについて聞きたい」
「おぬしら何者じゃ?」
アンドレアは、それまで暗く沈んでいた目を見開いた。
「この娘の名前は、マリベル・テラピアという。テラピアと言えば、分かるんじゃねぇか。それから、俺と、こいつは、まあ護衛みたいなもんだ」
最初にマリベル、それからティトを視線でさしながらルイスが説明する。
「そうか。イレーネさんとこに娘さんがな」
何か懐かしい物を思い出すように、アンドレアは少しだけ目を細めた。だが、すぐに真顔に戻ると、睨むようにルイスを見る。
「わしが、知ってることは話してやろう。ただし、ただでというわけにはいかんな」
「まあ、そうだよな。これでどうだ?」
ルイスは、ポケットから1枚の金貨を取り出すと、カウンターのうえに置いた。アンドレアは、その金貨をひったくるように取り上げると慌てて懐にしまう。
「いいだろう。それでパナケアの薬箱とパナケアの首飾りの何が知りたい」
アンドレアは
「まずは、パナケアの薬箱についてだ。お前が持っていると聞いている。出来れば、実物を見たい」
ルイスも人が悪い。アンドレアが持っているはずがないのは分かったうえで聞いている。
「残念だったな。パナケアの薬箱はわしの手元には無い。10年前に盗まれてしまってな。あれさえあれば、わしもここまで落ちぶれることは無かったんじゃがな」
アンドレアは当時のことを思い出したのか、悔しそうな顔をする。
「では、パナケアの薬箱はいまどこにあるか分からないと?」
「そうじゃ。どこにあるかは、わしが知りたいくらいじゃ」
「なるほどな」
ファルマ家が
「では、パナケアの首飾りについて、知っていることはあるか? もともと、コリエ家が所有していたはずだが。そのコリエ家、以前はこの街に住んでいたと聞いた。今、どこにいるか分かるか?」
「確かに数年前まではこの街で暮らしていたんじゃがな。5年ほど前に街を出て行った。たしかフォートミズに行くとか言っておったかのう」
「フォートミズか。それは間違いないのか?」
「どうじゃろうな。街を出る時にそんなことを言っていただけで、ほんとうにフォートミズに行ったかどうかなんて知らん」
しばらく、ルイスとアンドレアの問答が続く。ルイスが質問して、アンドレアがそれに答えるという形だ。
「まあ、それはいい。じゃあ、街を出て行ったときのコリエ家のやつらの名前を教えてくれないか?」
「ロベルト・コリエ。ロベルトが家長だったな。そのうえに、セルジオってじいさんがいたが。それから、ロベルトの妻がレベッカ。息子と娘がいたが、すまないな。そいつらの名前は思い出せない」
「ああ、ロベルトとレベッカだな」
念を押すように確認するルイスに、アンドレアは深く頷いた。
「最後の質問だ。最近、セシルってやつがここに来なかったか?」
「ああ、来たよ。3日ほど前だったか。おぬしらと同じようなことを聞いていきおったわい」
「そうか。俺が聞きたいことはこんなもんだ。ティト、マリベル、他に何かあるか?」
ルイスが後ろを振り返るが、ティトもマリベルも首を横に振った。
「なんじゃ、もう終いか?」
「ああ、世話んなったな」
ルイスはそう言うと、ポケットからもう一枚金貨を取り出して、カウンターの上に置いた。そして、三人はアンドレア・ファルマの家を後にした。
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🔸パナケアの首飾りは、フォートミズの街に?
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