推しからの手紙

俺はどこで間違えたのだろうか?


自分用に作ったはずの家具がなぜか気づいたら高貴な身分の人たちにバカ売れしてしまった。魔石の燃費を度外視して快適さだけに極振りした家具たちは、高貴な人たちの心を見事に射止めてしまったらしい。


最初に商品を商国の王に献上してしまったのも悪かった。あのおっさん、うちの商会の家具をいろいろな人に自慢して回ったそうだ。命を救った恩返しのつもりだったかもしれないがやりすぎであった。


最近は面倒な面会要求があとを絶たない。高貴な方々からの要求だから断りづらいが、商品の供給が追い付いていない以上、希望通り面会したからと言って厄介ごとが増える結果にしかならなそうである。商会長の俺が子供だから簡単に思い通りにできると思っているやつもいるだろう。


どうやって対処しようかと父と一緒に頭を悩ませていたときに、なんとベラ様から手紙が届いた。


・・・推しからの手紙なのに全然読みたくないのはなぜだろうか?


目の前にいる父に早く開けと促されていなかったら、数日は現実逃避して読まなかったかもしれない。


『ソア君


元気にしているかしら?


私はここしばらく書類仕事が溜まっていたのだけれど、部下が苦労してソア君の商会の家具を手に入れてくれたお陰でなんとか乗り切れたわ。


特にあの椅子、すごいわね。長時間座っていてもほとんど疲れない上に、リクライニング機能を使って休憩するとベッドで寝るよりも疲れが取れる気がするわ。ほかの家具も素晴らしいのだけれど、どれも手に入れるのが大変なことだけが難点ね。


これは別に本題ではないのだけれど、しばらくの間、新作が出るたびに私に融通してくれないかしら?少なくとも定価の10倍は出すつもりよ。勿論、断ったからといって不利益を及ぼすようなことはしないと約束するわ。


さて、本題に入るのだけれど、ソア君から頼まれた学園の件、なんとかなったわよ。ソア君が珍しいスキルを持っていたことや話題の商会の商会長をしていること、商国の王を身を挺して助けたことなどが評価されたらしいわ。


ただ今回は色々あって、私だけではなくてからの推薦ってことになっているから気をつけて頂戴。少し周りから注目を浴びることになってしまうかもしれないわ。今回女皇陛下が推薦する生徒は一人ではないから大丈夫だとは思うけれど。


それとトラブルに合ったときに頼るべき生徒のリストも送っておくわ。彼らは全員がすこぶる優秀な上に互いに協力し合っているから、大きな問題が起きても何とかなるはずよ。下手な教師を頼るくらいなら彼らを頼りなさい。


それじゃ、私も皇都に寄る際は様子を見に行くから頑張って頂戴ね。


べラ=シオンツイ


P.S あなたのお父さんが精霊について調べているようだけど、一部の過激なエルフ達を刺激しかねないからやめておくことをお勧めするわ。』







・・・え?女皇の推薦?


意味が分からない。会ったこともないんだが?


それにこの追伸、クソスキルの嘘のせいじゃねえか!俺が精霊の声が聞こえるとか言ったから父は気になって調べてたんだろう。


やばい情報の量が多すぎて疲れてしまった。皇国の学園に通うことが決まっただけでもショックだというのに。


ああ、このまま引きこもって家具のアイデアだけ提供しながら快適に暮らしていたかったな。王国に居続けても無理だった気がするけれども。


「はあ。」


「皇国の学園に通うのはやっぱり無理だったか?」


手紙を読んでため息をついた俺をみて父はそう聞いてきた。


「いえ、入学許可をもらえたのですが・・・お父様、精霊について調べるのは危険な行為なのでやめた方がいいそうです。」


入学許可をもらえたのですが商会のこともあるのでやっぱり行きたくありません。


そう言おうとしたのだが、その瞬間俺の体は乗っ取られてしまった。

うーん、残念ながら皇国行きは免れなさそうである。


「・・・そうか、確かにエルフ達にとって精霊様のことを嗅ぎまわる人族は歓迎できないのだろうな。『軽率な行動をしてしまい大変申し訳ございませんでした。これからは許可なく精霊様のことを調べません。』と返信で伝えておいてくれ。」


俺のスキルが言葉足らずだったせいでベラ様が怒っているのだと思ってしまったようだ。父は落ち込んだ顔をしていた。かわいそうに、精霊のことは俺のことを心配して調べてくれていただけだろうに。


「伯爵様自身が怒っているわけではなくて厄介なエルフを怒らせてしまう可能性を心配してくださっているようです。」


父はそれをきいて安心した顔になった。ちゃんと勘違いを正すなんて、クソスキルお前、人の心があったのか?


「そうか、さっきの伝言に『心配してくださってありがとうございます。』と付け加えておいてくれ。それと貴族の面会要求に関しても伯爵様に相談してみてくれないか?」


たしかに、ベラ様に相談するのはありかもしれないな。特別な家具をいくつか無料で融通する代わりに相談させてもらおう。

貴族との面会は嫌だからな、推しに貢いで虫除けになってもらおう大作戦だ!


「はい、ベラ様に相談してみることにします。ただ、この人との面会だけはすぐにでも受け入れましょう!」


おい!クソスキル!一番ヤバそうなやつを指さしてんじゃないよ!


















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