お手々を繋いだ商会長

「ソアが言っていたとおり、帝国で内戦が始まるようで食料の価格が高騰しています。ご指示通り、以前から経済制裁の影響で余り気味だった食料を買い占めておきました。これから売りに出すことで大きな利益が出るでしょう。」


商国から帰国して一か月後、俺は何故か商会の部下から報告を受けていた。シュガーに任せっきりでお飾りの商会長をする筈が、スキルに操られた俺が出しゃばったせいで、商会運営に大きく関わることになってしまっていた。


操られた俺が出した指示を実行した結果、商会はなかなか儲かっているらしい。このスキル、とんでもない情報をたくさん知っているんだよな。このスキルはこの世界を俯瞰してみているのではないかとさえ感じるときがある。


正直俺としては儲けはそこそこでいいので仕事を減らしてほしいのだけれど、スキルはそれを許してくれないみたいだ。操られた俺が結果を出せば出すほど、従業員たちがわざわざ国を跨いで俺の意見を聞きに来る頻度も増えてきた。


ただ、現在最悪な状況かと言われるとそんなことはない。母は腕を石化させて商国から帰ってきた俺を見てショックを受け、以前より過保護になった。あれ以降なかなか遠出を許してくれないが、それは俺にとっては好都合である。


ただ、毎朝町の中を走ることまでは禁止してくれなかった。残念ながら、帰国後も毎朝スキルに走らせられている。走るのがより速くなってきている気はするが全く嬉しくない。


「商会のみんなには苦労をかけるね。本当は僕も商国に行って直接指示を出したいんだけど、母上がなかなか許してくれなくてね。」


この操られた体は相変わらず心にも無い事を言いやがる。


「お気になさらず。ソア会長の素晴らしい情報網と判断力にはシュガー副会長も感動していらっしゃいましたよ。」


父の商会の支店長をしていたシュガーは父の指示で俺の商会の副商会長になっていた。とても出世とは言い難い異動であったが、根に持った様子もなく、むしろ何故か俺に対してはいつも肯定的である。


「それは嬉しいな。ところで例の人物のスカウトの件はどうなっている?」


操られた俺は、商国の工房で働いている何者かをスカウトするように指示を出していた。優秀な人物なのだろうか?面倒ごとを持ってくるような人じゃなければいいな。


「そちらはまだ交渉が難航中です。会長の伝言はお伝えしたのですが雇い主と直接話してみたいと言われてしまいまして。」


「そうか、そしたら近いうちにまた商国に向かうことにするよ。」


おい!何勝手に決めてんだ!

まあ、あの様子の母の許可なんて貰えるわけないし大丈夫か。







商都の港にある船の数は、前回来たときと比べれば半分以下になっていた。それでも国内に閑散とした感じは全くなく、品評会の時ほどではなくとも賑わっているという印象を受けた。


「あー美味しかった。ノアは美味しいスイーツ屋さんをたくさん知ってるんですね。おなか一杯になりましたし、そろそろノアの用事を終わらせましょうか?」


隣をご機嫌な様子で歩いている母がそう言った。俺の用事とは、商会に顔を出すことである。なんだかんだで結局スキルの思い通りになってしまった。


なぜ俺が今商国にいるのか?それはスキルに操られた俺のあざとい(?)一手に母が陥落してしまったからである。


『商国の旅で行った素敵な場所を早く母上にも紹介してあげたいです!今度一緒に旅行に行きましょう!』


そう言っただけで母はあっという間に旅行に行く予定を立ててしまった。なんというチョロさだろうか?


とはいえ、今回の旅では基本的に母と手を繋がされている。俺が勝手な行動をして危険な目に合わないための措置である。もう片方の手が石化しているため、自由に動かせる手がなくなってところどころ不便だ。


この状態で商会の従業員と会うのは、商会長としての威厳も何もない。ママとお手々を繋いだ商会長の言うことを聞かされるなんて、流石に従業員たちが気の毒である。


「お母様、商会に着いたら手を離していただけませんか?」


「・・・わかりました。でも勝手にどこにもいかないって約束してくださいね。」


母は渋々といった様子である。母が父から色々話を聞いた結果、俺は目を離したらすぐにトラブルに巻き込まれてしまうと思われているようだ。うう、信用がなさすぎる・・・。


とはいえ、スキルが暴走しないように目を離さないでいてほしいと思っているのは俺も一緒だ。母は【威圧】スキルだけではなく、そこそこ戦えるスキルも持っている。トラブルに会ったときはなんだかんだで父よりも頼りになりそうだ。


そんなことを考えていると商会の建物にたどり着いた。この建物は父の商会の支店だったときから建て替えられていないが、それでも比較的新しい三階建ての建物である。


「お待ちしておりました。ソア会長、キャロル様。」


その立派な建物の前でシュガーと数人の従業員が出迎えてくれた。別に到着時間は教えてないのにどうやって知ったんだろうか?


いつもは真面目な顔つきのシュガーだがちょっと微笑ましいものを見る顔つきである。それにほかの従業員もなんだかニコニコしている。どうしたのだろうか?


あっ!


そこで漸く、母と手を繋いだままだったことに気が付いた。


いや、これはむしろ好都合ではないか?従業員たちに俺がまだガキだってことを思い出してもらえば、商会の運営に深くかかわらなくて済むのでは?


よーし、これはチャンスだ!子供らしさをアピールするぞ!





「キャロル様、今後定期的にソア会長が直接こちらの店を訪れることを許していただけませんか?私どもには会長のお力が必要なのです。」


数時間後、そこには母にそう直談判するシュガーたちの姿があった。なんでだよ!








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