乱世...?

「何故昨日あのようなことがあったのに、今日閉会式を行うことになったのか疑問に思っている者も多いだろう。」


いつの間にか舞台上にいた商国の王は、壇上に上がるとそう切り出した。流石に昨日の今日とあって警備は厳重に、近衛との距離も近くなっていた。


「なんと驚け。商国の技術を総動員した結果、たった1日で商国に潜伏していた犯人の仲間をすべて捕まえることができたのだ!」


たった一日で?ほえ~、商国の技術は凄いなあ。


「なるほど伯爵が手伝われたのですね。」


ところが操られている俺の体はそんなことを言い出した。


え、そうなの?


「・・・すごいわねソア君、それもお見通しなのね。そういえば私のことはベラって呼んでもいいわ。私と親しい子供たちはみんな私のことを名前で呼んでいるの。」


ベラ様は少し驚いていたが、やがてなぜか嬉しそうにそう言ってくれた。


心の中で呼んでいる呼び方と同じように呼べるのはありがたい。けど、ベラ様とはあまり親しくなりたくもないし、複雑な気持ちだ。


それにしても犯人の仲間を捕らえるのを手伝ってたってことは、もしかして昨晩はあまり寝ていないんだろうか?それにしてはベラ様の顔に疲れは見えない。昨日と変わらず女神のように輝いている。


そんなことを考えている間にも王様の話は続く。


「今回の事件の裏に居たのは帝国の過激派、いわば前時代の亡霊どもだ!今回の件を受けて、商国は皇国と連携し、帝国の一部地域に経済的制裁を課すことにした!」


一部地域のみの経済制裁って聞いたことないな。そんなものが成立するんだろうか?

ほかの地域を経由して輸入すれば殆どダメージがなさそうな気がするんだけれど、何か複雑な事情でもあるのだろうか?


そんな風に困惑する俺の内心とは裏腹に、会場は熱気に包まれていた。帝国ってそんなに嫌われているんだろうか?確かに数十年前までは侵略国家だったと聞いたが。


「ね?面白いことになったでしょう?これから戦乱の世が―――」


ウキウキした様子でベラ様が口を開いた。もしかしてこう見えて血に飢えたバーサーカーエルフなのか?


戦乱の世?やめてくれ!俺は戦争なんてまっぴらだ。



「―――終わるわね。」


終わる?終わるのか。


よかったあああ。このクソスキルがある限り、気づいたら戦場にいたなんて可能性も大いにあるからな。平和な世の中万歳である。


「あの帝国の亡霊達が消えれば、少なくとも3つの大国から人同士の大きな戦を起こそうとする勢力はほとんどいなくなるわ。そして皆が魔物に戦力を集中させることができる時代が来るわ。」


ベラ様は嬉しそうに語っていた。なるほど、それは素晴らしい未来だ。仮にこのスキルのせいで戦場に行かされたとしても、相手が人じゃなくて魔物なら・・・どっちにしろ嫌だな。


それはともかく、魔物対策に割ける人数が増え世の中はより平和に近づくことだろう。非常にめでたいことであるし、今は素直に喜ぼう。


「今回の早期解決はソア君のお陰でもあるのよ。あなたとあなたの護衛が帝国の人間を捕らえて私たちに引き渡してくれたからね。」


ベラ様はそう言ってウインクした。かわいい。

まあ俺はスキルに操られていただけなんだけど。



最後に腕を治す方法に関しての情報を聞いたあと、ちょうど閉会式が終わり、その場は解散となった。会場を出ると同時に俺に体の制御権も戻ってきて、疲れがどっと押し寄せてきた。




帰路、しばらくの沈黙の後、父が口を開いた。


「伯爵が特別優しかっただけで、貴族というのはもっと理不尽なものだからな。あんな風に無礼を働いているといつか酷い目に合うぞ。」


父の口から出たのはベラ様と会った感想やここ最近起きた一連の事件への疑問ではなく、お小言だった。その目からは真剣に俺のこの先を案じてくれているのが伝わる。


確かに父の言う通りである。権力者がある程度は縛られていた日本とは違い、この世界では権力者が黒を白、白を黒にすることは比較的簡単である。気に入らないと思われれば簡単に悪者にされ、葬り去られる可能性だってあるのだ。


ただし、スキルの暴走は俺にはどうしようもできない。できることは、反省しているふりをして今後やばいことにならないように祈るくらいである。


「はい、しっかり気を付けます。ベラ様とももう少し距離を置くことにします。」


俺はそう返答した。こう言っておけば、皇国の学校に通わなくても済むかもしれない。


「いや、伯爵との縁は生涯大事にしなさい。あんなに素晴らしい貴族などなかなかいないぞ。それにお前の腕のことだってあるだろう。」


ちぇっ、でも確かに俺の腕はベラ様の助けがなければ治すことができない。


どうすれば皇国の学校に行かなくて済むかを考えていると、父はさらに言葉を続けた。


「しかし、子供の成長は早いと思っていたが、まさかソアがこんな風にあっという間に成長してしまうなんてな。キャロルも俺も、かわいい末っ子はずっとうちに居てくれてもいい思っていたが、この調子じゃすぐに遠くに出て行ってしまいそうだな。」


父はそう言って俺の頭を撫でてくれた。


俺は柔らかな夕日に包まれて父の優しさを感じる―――



そんな余裕などなかった。


今、ずっと家にいていいって言ったよね?よっしゃあ!早くこのスキルをどうにかして引きニートになってやる!


俺は場面にそぐわず、そんな決意を新たにしていた。








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