第15話

高一の春、相沢梨亜子は入学してすぐに注目の的になった。


よそのクラスだったにもかかわらず、全学年の男子の話題を独占したといっても大げさではなかった。


すでに中学の頃からひとの目を惹く存在だったらしい。


将来は女優になるつもり、そんなことまでがまことしやかに噂されていた。


僕と相沢はまったく接点がなかったけれど、僕の方はときどき一方的に学年一と言われている美少女を興味深く眺めていた。


一度だけ、落とし物を拾ってもらったことがあった。


僕の名前が書かれた定期入れを机に置かれたので、顔を上げると彼女がいた。


はい、とひと言だけ言い、僕が何も答えないでいると、じゃ、と小さく手を振って教室を出ていった。


多少なりとも話すようになったのは、二年生になりクラスメートになってからだ。


苗字がア行で〝相沢〟〝有末〟と席が前後になったのも大きかった。


それでも、内面の距離が近くなったとは言えなかったが。


「有末くん、覚えてる? 私、一年生のときに定期入れを届けたことがあるんだけど」


と同じクラスになって初めて話しかけられたのは、始業式が終わった直後だった。


「その様子じゃ、やっぱり覚えてないんでしょう?」


「いや、覚えてるよ。今さらだけど、あのときはありがとう」


いつかお礼を言いたいとは思っていたが、学校の注目を集める存在に自分から話しかけるには僕はあまりにもナイーブにできていた。


「言っておくけど、私、あのとき無視されて傷ついたんだからね」


「無視じゃなくて、突然のことだったから反応できなかったんだ、ほんとうに」


やや狼狽ろうばいしながら僕は答えた。


「なにそれ。でも、まいっか。いまお礼を言ってもらえたから」


相沢は溢れるような笑みを見せた。


彼女がひとを惹きつけるのは、卓越した容姿だけではないことを初めて知った。


僕は気が抜けて、相沢の前で苦笑いしながら、


「ずっと、ありがとうって言いたかったんだ」


と言った。


相沢はちょっと目を見開き、そんな顔もできるのね、と僕の顔をまじまじと観察した。

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