第66話 マリの姿
「絵本のようになっては困るからね。『魔法に頼れば何でも解決できる』って、そんなことありはしないんだから。それに、俺たちとリシュが以外の人たちは、この世界に魔法があることを知らない。だから魔法はこの世界にはないものとされている。折角『魔法がない』ことになったのに、『魔法がある』と世間に知られたくもないし、これでいいんだよ」
「そうですよね。すみません……変なことを聞きました」
魔法使い同士の戦いの後に、スーベル島で生まれた「魔法使い」たちを、「非魔法使い」にし魔法を使えないようにしたくらいである。
シルヴィスやクモイは魔法が使えても、自分の中で線引きをして使っているのだろう。そしてルヴァリシュルの件は、魔法を使わず解決すべきものなのだとリシュールは思った。
「いや、いいんだ。それに、魔法を使わないでどうにかしようとするのも、俺たちにとってはいい勉強だよ」
「そういえば、何故ルヴァリシュルのことをご存じなのですか?」
シルヴィスの
「この国とロハーニアの国境にある森に、仲間の魔法使いが住んでいてね、ルヴァリシュルのことに詳しいんだ」
「……そう、なんですね」
何気ない会話の中にシルヴィスとクモイ以外の、現在も生きている魔法使いのことが入ってくる。
リシュールのことを信頼してくれていることの裏返しなのだろうが、言われたほうはどう反応してよいのか、少し困ってしまう。
「そうそう。その人にも絵本の挿絵を描いてくれる人が決まったと言ったら、喜んでいたよ」
「そう……なんですか……」
「そうですよ」
シルヴィスはうなずいて、ルヴァリシュルを飲んだ。
今度は挿絵の話になり、リシュールの胸の辺りに複雑な気持ちが広がる。
「魔法具」に関する絵本を作るのは、市民に不用意に「魔法具」に近寄らせないようにするため。
そのため、当然「魔法具」に関わっている魔法使い、つまり「『魔法具』を守っている魔法使い」や、シルヴィスの数少ない仲間の魔法使いたちも、絵本が出来上がることを待ち望んでいるに違いない。
そして彼らの望みを叶えるべく、そしてクモイのために力になればと思い、リシュールは挿絵の件を
「あまり期待されると、緊張します。ちゃんと描けるかなって……」
「そういえば、今日は挿絵のことについて聞きたいと言っていたね」
リシュールはうなずくと、
「魔法具のことや、マリさんのことについてもう少しお尋ねしたかったんです」
「魔法具とマリのこと?」
シルヴィスはカップをテーブルに置くと、じっとリシュールを見た。
「はい。クモイに頼まれた挿絵は全部で七つの場面でしたよね」
「うん」
リシュールはそう言うと、ズボンのポケットの中に入っていた紙きれを出して、テーブルに広げる。
この件はシルヴィスがリシュールとクモイの家に来たときに確認もしているので、シルヴィスも知っているが、一応分かりやすいように紙に書いたものを提示した。
一つ目、ウーファイアが村の人々に寄り添っているところ。
二つ目、山から土砂が崩れた場面。
三つ目、
四つ目、ウーファイアが向かった村の
五つ目、ウーファイアに人々が群がる場面。
六つ目、七つの魔法道具の絵。
七つ目、ウーファイア王国の城を描いたもの。
これがクモイに頼まれた挿絵の場面である。
「その中でも、二つ目、三つ目……そして七つ目はイメージが湧いてくるのですが、ウーファイア―—つまりマリさんが登場するところが上手く描けなくて。何でだろうって、自分なりに考えてみたんですけど、絵本にマリさんの姿がないからなんだって気づいたんです。マリさんの姿の手掛かりがない中で、どういう風に描いたらいいか分からなくて……。それと魔法具も、見たことがないのでどう描いたらいいのか、迷ってしまったんです」
「なるほどね」
「クモイは『分からないことがあったらいつでも聞いていいですから』って言ってくれたんですが、マリさんや魔法具の話を聞いたら、やっぱり過去を思い出してしまうだろうなと思って……。すみません、シルヴィスさんを頼らせてもらいました」
「いや、頼ってくれて嬉しいよ。でも、そうか、マリの姿か……」
シルヴィスは
「何か問題でもあるんですか?」
「いや、そういうことじゃないんだけど……挿絵に関しては、リシュの想像で描いていいと思うよ」
思いがけない返答に、リシュールは目を
「僕の想像……?」
それはつまり、リシュールの自由に描いていいということだ。
もちろん、「想像でいい」というなら、絵本の文から考えて自分なりのマリの姿を描くが、そうしてしまったら、シルヴィスやクモイが持っているマリの姿とかけ離れてしまう可能性が大きい。
それを彼らが望んでいるのかどうか分からず、リシュールはきゅっと眉間に
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