君と同じ景色を見ていたい

厚めの枕

第1話 最後の夏

 俺の打ったスマッシュを相手が綺麗にレシーブした、というよりたまたまラケットの縁に当たったシャトルは、情けない音を立てて俺たちのコートのネット際に落ちた。この瞬間、俺たちの最後の夏は終わった。

 準々決勝敗退。中学最後の大会はベスト八という結果で幕を閉じた。この結果は人生で最高の結果だったが、勝てそうな試合だったがために、心の中は悔しさで溢れていた。

 ダブルスのパートナーであるあおと俺は体育館のフロアの隅で他の準々決勝の試合を見ていた。会話は無い。激しい猛攻を繰り返すコート内の四人、体育館に響くスキール音、打撃音。ポイントを取った瞬間に湧き上がる観客の歓声、選手の雄叫び。緊張感はこちらにまで伝わってきていた。

 そうして決着がつく。


「戻るか」


「おう」


 碧が切り出して、俺はそう答えた。

 応援席に戻ればチームメイトからは「お疲れ様」「ナイスゲーム」と励ましの言葉をもらった。

 俺や碧の夏は終わったが、りつはシングルスの決勝戦まで勝ち進み、準優勝という結果を残したので地方大会に出場する。そのため夏はまだ終わらない。それがなんとも羨ましかった。




「うわー、もう受験じゃーん」


 帰りの車の中でたかしがそうぼやいた。

 夏の最後の大会が終わり、部活を引退すれば高校受験まで残り半年と少し。時間があるように見えて、あまり無いような気もする。


けいどこ受けるん?」


「一高か光星」


「お前じゃ無理」


 律が聞いてきて、崇が否定したので俺は崇の首を軽く絞めた。崇が「ごめんて!」と言ったので解放してやった。

 他の三人の進路は詳しくは知らないが、おそらく律はバドミントンの強い高校に進学するだろう。ちなみに俺はこの四人の中で断トツで成績が良い。校内順位も一桁である。一高や光星は県で偏差値の高い高校として有名なのだ。


「お前まじで言ってる? 佐藤さんが光星目指すレベルよ?」


 佐藤さんとはうちの学年の成績トップ常連の人である。


「べつに佐藤さんは関係ないだろ。俺が目指すのは俺の自由だろ」


「おっちろー」


 崇はふざけてこういう事を言うタイプであることは分かっている。だから俺は、また奴の首を絞めた。

 くだらない会話だが、それでも楽しい。中学三年間を共にした友達と高校が別になると思うと、少し寂しさはある。しかし、今の時代簡単に連絡も取れるし、どこか遠くに行く訳でもないので無駄に気に負う必要はない。それでも、俺の心の中は曇っているような気がした。

 結局、疲れた体を癒す間もなく、俺らは車の中でずっと話をしていた。



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