1-21 邦桜の特別性

 レジーナが研究所から走り去った後、ウルガスさんは煙草を取り出すと火を点けて吹かしていた。

 そして机にひじをつき、手にあごを載せるとこっちを見て笑った。


「わりぃな騒がしくて。あいつは確かに凄いんだが、加減ってもんが分かってなくてな」


 その笑顔は呆れたような表情だったが、穏やかでどことなく優しさが感じられた。


 きっと口ではこう言いながらも何というか、子供を見てるような。

 そんな愛おしさがあるんじゃないだろうか?


「いえ、何て言うか、こう……温かいですね」


 その言葉に空とフィアも頷く。

 ウルガスさんは気恥ずかしそうに笑っていた。


「さ、この話はもうこの辺でいいだろ。さあ今度はそっちの番だ。自己紹介頼むぞ」


「オッケー、この二人はフロラシオンの邦桜出身よ。こっちが雷人でそっちが空。今回は一時的な仮入社って形をとってるわ」


「成神雷人です。宜しくお願いします」


「えっと、常盤ときわ空です。宜しくお願いします」


 フィアの紹介に合わせて二人で頭を下げる。

 一方、ウルガスさんはいぶかしげな表情だ。


「仮入社? うちにそんな制度あったか?」


「多分今回が初めてね。特例よ特例。だってほら、邦桜だし」


「ん? ああー、まぁ邦桜ならしょうがねぇのか?」


「うん?」


 二人の反応に雷人と空は頭に疑問符を浮かべる。

 それを見てフィアがすかさず説明をしてくれた。


「私達の仕事先は大体が能力使用可の星なのよ。だって能力が使えないと仕事にならないでしょ? そんな中、能力禁止特星ってだけでも例外なんだけど……。邦桜にはアニメとか漫画とかそういう娯楽が多いでしょ?」


「他がどうなのか知らないが、そう言うからには多いんだろうな」


「宇宙探せばない事もないんだけど、軍事技術とかが発展してる星は多くても大衆娯楽がここまで発展してるとこって少ないのよね」


「つまりだ。邦桜の作品が宇宙の一部の奴らにえらく人気なんだよ。かく言ううちの社長もそうでなぁ。よく分からんコスチュームを戦闘可能なレベルで作れとか、意味分からん難題出してくるわけよ」


「でも作るのよね」


「まぁ面白いし、やりがいはあるわな」


 そういえば夕凪先生がそんな事を言っていたな。でも……。


「宇宙でアニメや漫画が人気なのがどう関係あるんだ?」


「まぁ簡単に言うと供給が足りてないのよ。欲しいけど売って無かったらどうする?」


「作ってる所に取りに行こうってなるわなぁ」


 そこまで聞いて、ようやくその危うさに気付く。


「あぁ、そういう事か」


「えっ? 何、どういう事?」


 空には分からなかったようだ。


「つまりだ。フロラシオンは能力禁止の星なわけだろ? なら極力宇宙人を入れたくはないはずだ。でも、入りたい奴はたくさんいる。そしたらどうなる?」


「……え? まさか不法侵入するの?」


 空が驚きながらそう言うとフィアとウルガスさんが頷く。


「そういう事。そっちの警戒だけで宇宙警察ポリヴエルも手一杯だから、宇宙警察ポリヴエルの手を借りるのは期待出来ない。それと、今はちょっと稼ぎ時でね。うちからの増援もしばらくは厳しいの。今はまさに猫の手も借りたい状況ってわけ」


「とまぁ、大概はこっちの事情だ。手を貸してくれるなら最大限補助をしたい所なんだが……、うちの備品を使いたかったら在籍しないと使えないからな。そこで仮入社、なんだろうなぁ」


「なるほど、フィアしか対応してないのにはそういう事情があったんだな。でも助力を願い出たのは俺だから、補助してもらえるのは本当にありがたいよ」


「そうそう、そういえば指輪スキルリングの話を聞きに来たんだよね。僕もこう、ババ―っと戦えたりするのかな?」


「あぁ、それが目的だったのか。ちょっと待ってな」


 空の言葉にウルガスさんは頷くと席を立ち、奥の方へと歩いて行った。

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