1-16 隠密は寮住まいの必須技能

 時刻は夜の十時、雷人とフィアは身をひそめながら雷人の住む学生寮を目指していた。

 寮は学生二人で一室となっていて、中は二つの自室とその間にある共用スペースから成り立っている。


 プライベートが確保されているという点で、かなり優良な寮だな。

 因みに俺のルームメイトは空だ。


 部屋の番号は四〇一つまり四階にあるわけなのだが、そこまでの道のりではただの一人にも見つかってはならない。なぜかと言うと理由は二つある。


 一つ、寮には門限がありそれは八時であること。

 二つ、この寮は……男子寮なのだ。


 もちろんその事はフィアにも言ってあるのだが、「そんなの問題ないわよ」と一蹴いっしゅうされてしまった。本当に分かっているのだろうか?


 そんなわけで寮長に見つからないように音を立てないようにしながらなんとか階段を上り、部屋の前に来ると鍵を開けて中に入る。なんとか誰にも見つからず一安心と思ったその時、ドタドタという音がして暗がりから何かが飛びかかって来た。


「やっと帰って来た! 遅いよ雷人!」


「おわっ!」


「きゃっ!」


 空のタックルによって俺はフィアを巻き込んで倒れ込んでしまう。

 少し背中から柔らかさを感じる気がするが、今はそんな事を考えている場合ではない。


「おい空、早くどけ」


「あはは、ごめんごめん。でも雷人のこと心配したんだよ……ってあれ? 下に誰か……ってその子あの時の! もがっ」


 大きな声を出そうとする空の口を押さえながら起き上がり、共用スペースへと運ぶ。

 後ろを振り返ると文句を言いたいのを抑えているのか、フィアが少し不機嫌そうな顔をしていた。


「……押しつぶして悪い」


「……いいわ。私の所為せいだろうし」


 まだ若干機嫌は悪そうだったが、謝ったのが幸いしたのかそれ以上は何も言ってこなかった。

 さて、共用スペースには円形の机があるのでそれを囲んで座り、空に事情を説明した。


 その際、フィアからさらに詳しい話も聞くことが出来た。どうやら話はこうだ。


 ある時、町中に突然五体のロボットが現れ、それを特殊治安部隊スキルナイトが破壊した。

 そのロボットがフロラシオンで作られた物では無いと判明した事で邦桜政府が宇宙警察ポリヴエルへ調査の要請を出し、ホーリークレイドルへ依頼が回ってきたらしい。


 調査の結果、何者かが惑星外から転移を用いてロボットを送り込んで来ている事が判明したので、ホーリークレイドルの技術力でもって敵組織の転移に介入したんだとか。


 転移先を人のいない侵入不可区画に限定出来たので、それの対処をフィアがしていて、そこに偶々たまたま俺達が居合わせてしまったみたいだな。


 つまり、敵組織の規模、目的、手段。

 そのどれもが現時点では不明だというのだ。


「……それで、その手伝いとついでに住居を提供しろってこと? 宇宙人とか邦桜の危機なんて突拍子とっぴょうしもない話ばかりだけど、雷人はそれを信じてるんだよね?」


「あぁ、この目でそうじゃないと説明付かないものを見てきたからな。あと、手伝いの話を持ち込んだのは俺からだ。空まで巻き込んで本当に悪い」


 それを聞くと空は色々と諦めたような表情をし、両手で頬を叩いて顔を引き締めた。


「じゃあ僕も信じるしかないね。ヒーローが子供の頃の夢だったって知ってるし、諦めちゃったのは僕も残念に思ってたんだよね。だから、僕も協力するよ。雷人が無事なら僕は良いからさ。ところで……」


 空はフィアの方を見る。


「まず最初の問題として、フィアさんはどこで寝るの?」


「……あっ」


 静かな夜にその小さな声が空虚に響いた。

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