ビスマルク侯爵家での夜会にて
数日後。この日はビスマルク侯爵家主催の夜会がある。エマは準備をしていた。
「フリーダ、今日もよろしく頼むわね」
「承知いたしました。エマお嬢様」
エマは侍女のフリーダに髪型や化粧を施してもらう。
「ねえフリーダ、きっと今日の夜会ではビスマルク卿とリーゼロッテお姉様の婚約が発表されるに違いないわ。だってリーゼロッテお姉様、ビスマルク家から夜会の招待状が届いた時、幸せそうな表情とどこか緊張気味な表情が混ざっていたのよ」
エマはリーゼロッテとレオンハルトの婚約発表が楽しみで仕方ない様子だった。ウキウキと鼻歌を歌っている。
「左様でございますか」
フリーダはやれやれ、と言うかのような笑みになる。
(エマお嬢様は他者に関することにはそれなりに敏感なのに、自身に向けられた好意に関しては鈍感でございますこと)
まるで妹を見守るかのような表情のフリーダであった。
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エマ達はビスマルク侯爵家の
会場に入り、まずは主催者であるビスマルク侯爵と侯爵夫人、それから侯爵令息のレオンハルトと彼の弟に挨拶をする。その後、リーゼロッテは令息達に、ディートリヒは令嬢やご婦人方に囲まれた。
(やっぱり、リーゼロッテお姉様とディートリヒお兄様は人気ね)
エマは誇らしげに微笑んだ。
そしてそんなエマにも話しかけて来る者がいる。
「エマ様、ご機嫌よう」
「ユリアーナ様、ご機嫌よう。お会い出来て嬉しく存じますわ」
エマは嬉しそうにユリアーナに微笑みかける。
「ユリアーナ様の本日のドレスは、まるでシュミット氏の小説に登場した星の姫君のようでございますね」
「ありがとうございます、エマ様。
ユリアーナはふふっと品よく微笑む。
「左様でございましたか。実はリートベルク家の
「ええ。楽しみにしております」
「そういえばユリアーナ様には兄君がお二人いらっしゃるとお聞きしましたが、本日の夜会には参加なさっているのですか?」
エマはユリアーナの家族情報を思い出し、聞いてみた。
「上の兄リュディガーは来ておりますが、二番目の兄ルドルフは本日は騎士団の訓練で来ておりません」
「左様でございましたか。でしたら、今日はリュディガー卿にご挨拶いたしましょう。ルドルフ卿にもお会いしてみたいものでございます」
「機会があればルドルフも紹介いたします。ルドルフは最近騎士団の訓練が厳しくなっていて辞めたいと言っておりましたわ」
ユリアーナは苦笑する。
「あら、では世界各国の騎士団に所属しているお方が全員ルドルフ卿のようであれば、世の中が平和になりますわね」
明るく悪戯っぽく笑うエマ。その言葉を聞き、ユリアーナは面白そうに笑い出した。
「ふふっ、確かにエマ様の仰る通りでございますわ」
ユリアーナと話をしているうちに、エマの周りには令息や令嬢達が集まって来る。
「ご機嫌よう、エマ嬢。先程の騎士団の話、とても面白い」
「エマ様、もっとお話をお聞かせくださいませ」
エマはリーゼロッテやディートリヒに負けず劣らず、明るい笑みと機知に富んだ会話で社交界の中心人物となっていた。
その時、会場中心からビスマルク侯爵の声が高らかに響く。
「えー、皆さん、本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。本日は、皆さんに発表したいことがございます」
その声を聞き、皆ビスマルク侯爵に注目する。そしてレオンハルトとリーゼロッテが並んで前に出る。
皆、何が発表されるのか気になり、耳をビスマルク侯爵へ集中させる。
「めでたいことに、我が息子レオンハルトと、リートベルク伯爵家のリーゼロッテ嬢が婚約いたしました!」
すると会場が沸く。
「リーゼロッテ様、おめでとうございます!」
「社交界の白百合リーゼロッテ嬢がレオンハルト卿と……!」
「レオンハルト卿、リーゼロッテ嬢を必ず幸せにしてくださいよ!」
「ああ……リーゼロッテ嬢。俺もリーゼロッテ嬢と結婚したかった……」
会場のほとんどが祝福モードだったが、中にはショックで膝から崩れ落ちる令息もいた。
渦中のリーゼロッテはレオンハルトの隣で幸せそうに微笑んでいる。そしてレオンハルトはそんなリーゼロッテを優しい目で見つめていた。
「ビスマルク卿、リーゼロッテ様のことをとても大切に思っていらっしゃることがあの表情から分かりますわ。ビスマルク卿は一見厳つくて怖そうな方に見えますが、リーゼロッテ様を見る目はとても優しそう」
ユリアーナは会場中心にいる二人を見て微笑んだ。
「ええ、左様でございますわ。一応お互いの家の為の政略結婚ではございますが、あのお二人はお互いのことをきちんと想い合っておりますわ」
エマは今にも踊り出しそうなくらい嬉しそうだ。キラキラした笑みで二人を見ていた。
エマとユリアーナは、リーゼロッテとレオンハルトが少し落ち着いた頃に祝いの挨拶に向かう。
「ビスマルク卿、リーゼロッテお姉様、ご婚約おめでとうございます。まるで自分のことのように嬉しく存じますわ」
エマは明るく、屈託のない笑みだ。
「ビスマルク卿、リーゼロッテ様、この度はおめでとうございます。お二人がお幸せになることを祈っております」
ユリアーナは上品で柔らかな笑みである。レオンハルトと初対面だった時の硬い表情が嘘のようだ。
「ありがとう、エマ。ユリアーナ様も、お祝いの言葉感謝いたしますわ」
「リートベルク嬢、ケーニヒスマルク嬢、ありがとう」
リーゼロッテとレオンハルトはエマ達の祝いの言葉に嬉しそうに目を細めていた。エマはそんな2人を見て、太陽のように明るい笑みを浮かべた。
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その後しばらくして、エマはユリアーナの兄リュディガーに挨拶をする。
「お初にお目にかかります。リートベルク伯爵家次女、エマ・ジークリンデ・フォン・リートベルクでございます。ユリアーナ様とは、懇意にさせていただいておりますわ」
エマはリュディガーに微笑みかける。
「これはご丁寧に。ケーニヒスマルク伯爵家長男、リュディガー・ジギスヴァルト・フォン・ケーニヒスマルクと申します。妹がお世話になっています。恐らくいずれは弟のルドルフも紹介すると思いますので、リュディガーとお呼びください」
リュディガーはユリアーナと同じ、ブロンドの髪にヘーゼルの目だ。顔立ちもユリアーナに似て美形だ。
「承知いたしました、リュディガー卿。では私のこともエマとお呼びください」
エマはニッコリ明るく笑う。
「では、エマ嬢とお呼びします。それにしても、先程から少し様子を見ておりましたが、エマ嬢は噂通り太陽のようなお方ですね」
「やはりお兄様もそうお思いですか」
ユリアーナはクールだがどこか満足そうな笑みだ。おまけに兄妹ということもあり、肩の力が抜けている。
「太陽? どういう意味でしょうか?」
エマはキョトンとした表情で首を傾げる
「太陽のように明るく、周囲に人が集まって来るという意味です」
「エマ様は笑顔が素敵で、お話も機知に富んでいて楽しいお方でございます」
リュディガーとユリアーナが微笑む。
「それは、お褒めのお言葉光栄でございます」
エマは嬉しそうに微笑んだ。
そして更にエマに話しかける者が増える。
「エマ様は"社交界の太陽"ですわね」
ユリアーナはフッと微笑み、小さくそう呟いた。
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