魔法少女がダンジョン配信をする世界で彼女は最強【序章までのお試し投稿】

@ricca248010

ep1「獄炎の拳 *ラヴィ視点」

 万全の準備をした、そのはずだった。


「あぁ……! からだ、が……うごかな、!?」


”ラヴィちゃん逃げて!!”

”うわw事故配信確定でオワッたじゃんw”

”誰か!! 誰でも良いからラヴィちゃんを助けて!!”


 梅田地下ダンジョン、第1層。


 その構造の複雑さと、出現する怪獣の強さから、

 超高難易度ダンジョンとして名高い、

 この場所に挑戦するにあたって、


 わたしは、何が起こったとしても、

 対応ができるように準備をしていたはずだった。


 しかし、しかしだ。


(この怪獣は、もっと深い階層でしか、

 本来出現しないはずなのに……!)


 目の前で唸り声を上げ、殺意をむき出しにしながら、

 そいつは、じりじりとにじり寄って来る。


 鎌のように長い爪と、鋭い牙を持つ、

 巨大な人狼型の怪獣。


 事前にチェックしていた配信者の動画で見た、

 第6層の、通称ボスエリアに出現するはずの化け物。


 1つ奥の層に進むだけで、

 求められる強さの基準が跳ね上がる、

 このダンジョンにおいて、


 それは、想定外という言葉では片づけられない、

 最悪を極めたような出来事だった。


(元々、私に実力がないのはわかっていた……!

 けど、高難易度ダンジョンへの挑戦が、

 最近の人気ジャンルになっていたから!!)


 ラヴィというダンジョン配信者は、

 世界で初めて、ダンジョン配信を始めたことで、

 今の人気と地位を獲得した魔法少女・・・・だ。


 誰よりも早く、魔法少女として、

 ダンジョン配信を始めたという一点だけで、

 わたしは現在の、登録者100万人、

 同時接続数平均5000人という立場を獲得した。

 

 しかし、他のライバルたちが参戦してきたことで、

 チャンネルの成長速度が著しく低下している。


 なかでも、現在進行形で人気を獲得しつつある、

 高難易度ダンジョンにチャレンジする動画の流行は、

 実力だけみれば、他の人たちより遥かに弱い、

 ラヴィという魔法少女にとって、向かい風だった。


”ヤバイって! 本当にラヴィちゃんが死んじゃうって!!”

”今人気の梅田地下ダンジョンなら、他にも魔法少女いるはずだろ!!”


 それでも、折角育ったチャンネルをないがしろには出来なくて、

 無理を承知で、再生数を稼ごうとチャレンジして。


「そのけっか、が……これ……?」


 目の前で、怪獣が大きく腕を振りかぶる。

 その先で存在感を示す爪が突き刺されば、

 間違いなく、私は命を落とすことになる。


「いゃ、そんなの……!!」


 ふり絞った、けれど微かな声が、

 誰にも届くことなく消えていく。


 配信のコメント欄のボルテージが、

 これまで見たことないくらい高まっていた気がするが、

 もう、それを確認する余裕すらなくて。


「だれか…………!!」


 助けて、とそこまで言葉にできたなら、

 奇跡は起きてくれただろうか。


 あの日、魔法少女に選ばれたときと同じように、

 どうしようもない現実を、魔法の力で変えてくれただろうか――。


「――へぇ、こいつは歯ごたえありそうだ」


「え……?」


 知らない声が、聞こえた。


 そして、ダンジョン全体をつんざくほどの打撃音と、

 何かが壁にぶつかる音が、直後に続く。


「結構強めに殴ったつもりなんだが……、

 それでも耐えやがったのは、こいつが初か」


 私の前に現れた奇跡は、魔法少女の形をしていた。


 燃えるような赤くて長い髪。


 それを反映したかのような、巨大な炎で形作られた、

 彼女の身長の半分は超える、両手のナックルが特徴的で。


「ま、一発で終わらないのは、

 たまになら、つまらなくねぇ」


 彼女が呟くと同時に、

 壁まで吹き飛ばされていた怪獣が、

 少しよろめきながら立ち上がった。


 そして、狂ったように叫び声を上げ、

 眼前の彼女に襲い掛かる――!!


「はっ! いいぜ、蹂躙≪じゅうりん≫の時間だ!!」


 瞬間、身体に響くほどの衝撃と共に、

 2人の戦闘が始まった。


「……すごい」


 さながら格闘マンガのように、

 お互いの武器が高速でぶつかり合う。


 優勢なのは、魔法少女の方。


 怪獣が苦悶の声を上げながら応戦する中、

 彼女は楽しそうに笑いながら、拳を叩き込む。


「どうしたどうした! それでも怪獣なのかお前は!!」


 最早、どちらが怪獣なのか。


 その圧倒的な実力を目の当たりにしている間に、

 ふと、配信をほったらかしにしていると気が付いた。


「って、こっちも凄いことになってる!?」


”は? 待って強すぎない?”

”あいつって確か、他の強い魔法少女が負けていた奴だよな?”

”炎の拳とかカッコよすぎ!”

”神回確定、キタコレ!!”


 慌ててコメント欄を確認をすれば、

 さっき、私が死にかけた時よりも、

 さらに倍の速度で、コメントが流れていた。


 同接数も、平均の倍近い、

 1万人という数にまで届き、

 今もなお、その数を増やし続けている。


 驚異の速度に言葉を失ってしまったけれど、

 直後、これまで以上の打撃音に、

 意識をもう一度、彼女と怪獣の戦いに奪われた。


「さぁ、そろそろ終わりにするか!!」


 見れば、彼女の拳が怪獣にクリーンヒットして、

 今度は、地面に叩きつけられていた。


 その時にできたクレーターの深さが、

 彼女の力の凄まじさを物語る。


「――――――――!!」


 ここまで一方的に追い詰められたからだろうか。


 怪獣は、クレーターの底から叫び声を上げると、

 筋骨隆々なその脚で、床を蹴り上げる。


 飛び上がったその先には、

 先に跳躍し、上空で拳を構えていた、

 炎の魔法少女がニヤリと、

 狂気すら感じる笑みを向けていた。


「今日の最後の獲物だ!!

 冥途の土産に喰らっていきやがれ!!」


 ――そうして私は、視聴者たちは。


 彼女の、恐るべき実力を、

 本当の意味で理解することになった。


「『獄炎の拳ブレイズ・フィスト!!』」


 視界を埋めつくしたのは、無数の拳。


 否。


 凄まじい速度の連打によって、

 分身して見える程の打撃が、残像になって、

 私たちには、大量の拳が打ち込まれているのだと、

 そう、錯覚してしまっているのだ。


 獄炎の拳が、暗いダンジョンを炎の光で塗り替える。

 静けさを、打撃と怪獣の悲鳴で満たす。


 やがて、時間にしては一瞬で、

 けれど、目に焼き付いて離れない、

 魔法少女の蹂躙が、終わりを告げる。


「なんだ。周りのやつより強かったのに、

 戦利品は何も落とさないのかよ……。

 帰って、ゆっくり休むか」


 残されたのは、さっきの物を上書きするかのように、

 無数の拳によって生み出された、

 おびただしい数のクレーター。


 そして、余りにも現実離れした光景に、

 心が置いていかれてしまった、

 私と、インターネットで繋がった視聴者のみんなだけだった。


「……あ、お礼言うの忘れちゃった」


 この時の私は、まだ知らなかったけれども。


 最終的に、リアルタイムで15,764人が、


 そして、アーカイブや切り抜きで、

 数えきれないほどの人たちが見届けた、

 炎の魔法少女の、この無双劇が。


 世界中で、瞬く間に拡散され、

 SNSのトレンドを独占して。


 そして、そして――、




――――――――――――――

【後書き】


皆様、初めまして!! 数ある小説の中から、

「魔法少女がダンジョン配信をする世界で彼女は最強」を

読んでくださり、本当にありがとうございます!!


今回は、お試し投稿ということで、序章の全6話を、

先行公開という形でお送りしたいと思います。


それぞれ、今日と明日の、

8時、12時、18時に投稿予定ですので、

ぜひ、最後まで読んでいただけると幸いです!!

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