火曜日
片山はいつも通り出勤していた。
しかし、いつもと違う光景があった。
「見えるところに止めるなよ…」
職員駐車場にはパトカーが2台止められていた。
それを横目に片山は車から降りて職員室に向かって歩いた。
この日、佐田から昨日のメモに関する調査の為、警察に渡し、渡り廊下に警察官2名が常駐することを朝の職員会議で伝えられた。
1時間目の前に片山は2階渡り廊下を通ると警察官2人、1人は渡り廊下を、もう1人は階段と2階教室の廊下を見渡せる位置にパイプ椅子を置いて座って監視していた。
「おはようございます。」
「あ…お、おはようございます。」
警察官からの挨拶に戸惑いはしたものの、挨拶を返してその場を通り過ぎた。
その時片山はふと思った。
何故、2階渡り廊下の掲示板に固執するのだろうか、と。
掲示物には目ぼしいものは無く、あの位置でなければならない理由があるとは到底思えない。
そのように考えながらも2年2組の授業を終えた片山は職員室に戻った。
職員室の扉を開けると、そこには作業服を着た男数人が立っていた。
「通ります。」
片山は声をかけて作業員の後ろをゆっくり通っていった。
「あぁ、北校舎の事前作業ですね。」
大山が対応しており、片山は席に着きながらも聞き耳を立てていた。
「私たちの作業車は裏の職員通路に置かせて頂きますのでしばらく通れませんので……」
北校舎東側の多目的棟は老朽化で取り壊す予定で、その事前調査として今日作業員が作業するとの事だった。
もうそろそろ取り壊しかと思いながら片山は自身の仕事に移った。
3時間目は2年6組で授業していた。
片山はあいつが動かなければ、と願いながら授業を進めていた。
「先生。」
その声にドキッとしたが、声の主はユリカだった。
「近松、どうした。」
「お手洗い行ってもいいですか?」
ユリカは隠すように小さなポーチを手に持っていた。
「いいぞ、外の警官と一緒に行って来い。」
片山は廊下を監視していた警察官に合図をして来てもらい、ユリカと共にトイレに向かった。
「よし、授業を続けるぞ。」
警察官に委ねた後、片山は授業を再開した。
しかし、5分ほど経ったところで何かが割れるような音が廊下に響いた。
片山は持っていたチョークと教科書を教卓に置いて廊下に出た。
「ちょっとテープ取ってくるからトイレ前に居てくれ。」
ユリカを連れていった警察官がバタバタと動いているのが見えた。
そして渡り廊下を見ていた警察官が代わりに女子トイレ前まで移動していた。
その時、ユリカがトイレから出てきて一緒に教室に向かって静かに歩き始めた。
片山は3組の前まで行き、ユリカを連れて教室に戻った。
「なんか窓ガラスが割れたみたいよ。」
「どこの?」
「さぁ、分かんない。」
戻ってきたユリカがナギサと話していた。
「まぁ、あの人達が何とかしてくれるだろう。授業に戻るぞ。」
片山はそう言いながらもとある人物を見たが、黙々とノートに授業内容を書いていた。
3時間目が終わると片山は職員室に戻るために廊下を歩いていた。
トイレを過ぎて階段に差し掛かった時に2階と3階の中間踊り場の窓ガラスが割れているのが目に入った。
「さっきのはこれか。」
割れた窓ガラスの近くにはガラスが散乱しており、ガムテープで踊り場に規制線が張られて処置されていた。
そして、渡り廊下には二脚のパイプ椅子だけが置かれていた。
「監視するんじゃなかったのかよ……」
片山は掲示板を見たが何も無かった。
安堵しながら渡り廊下を通り職員室に戻ると騒ぎになっていた。
「片山先生、大変です。」
佐田が駆け寄り切り出した。
「これを……」
渡されたのはあのメモと同じ材質で同じ折り目のあるものだった。
血が引いていく感覚を覚えながらも片山はメモを開いた。
『とても残念に思う。
復讐は実行される。
これは宣戦布告である。』
「先程の混乱で目を離した一瞬で貼られたようです。」
佐田はガラスが割れる前から1階下駄箱付近を見回っており、生徒がいないことを確認している。
そして、警察官もガラスが割れて渡り廊下から目を離していたものの、階段と廊下は監視していた。
2階渡り廊下に至る道はその2人が監視しており、誰かが貼るなど物理的に不可能だったのだ。
そして、警察から届けられたメモには先生達ともう1人の指紋があったと連絡があったという。
「馬鹿な…!幽霊が書いて貼ったとでも言うのか!?」
その指紋は金本リョウタのものだった。
「ガラスを割ったものも無いとなれば幽霊としか……」
職員室は混乱していた。
しかし、片山はある程度目星がついていた。
「いえ、犯人は居ますよ。もちろん生身です。」
その言葉に先生方は静かになった。
「穏便にすませたかったのですが…覚悟を決めないとですね。」
片山は佐田を見て言った。
「お願いがあります。」
片山はそのお願いを伝えて荷物を持って職員室を出ていった。
その時、片山の携帯が震えた。
「もしもし。」
もちろん相手は西山だった。
「頼まれてた件、一致してしまったよ。」
その声はどこか悲しそうであった。
「一致しないことを期待してたんだがな…。今本庁が動き始めた。」
「西山。」
「ん?なんだ。」
「俺の頼みを聞いてくれないか。」
片山は静かにその頼みを伝えた。
「そいつは厳しいぞ。あまりにも危険すぎる。」
「できないならいい。切るぞ。」
「いやいやいや!待てよ。」
電話を切ろうとした片山を電話越しに止めた。
「いつ俺が“できない”と言った?」
「…最善は尽くす。だが片山、お前も一番安全な手段を取れ。友を失いたくはない。」
友人を思う気持ちで西山は諭した。
しかし、片山の覚悟は揺れ動かない。
「…今度酒でも飲もうな。」
そう言い残し、片山は電話を切った。
そして、止めた足をまた動かし、6組の教室に向かった。
既にチャイムは鳴っていて片山が教室に入った時には全員着席して待っていた。
「あれ?4時間目は数学じゃないんですか?」
ナギサはにこやかに聞いたが、片山はそれを無視して教壇に立った。
「先生…?」
他の生徒達も様子がおかしいことに気づいていた。
「皆、窓とドアを閉めてくれ。」
ただならない雰囲気に生徒たちはすぐに指示に従った。
「この中に、メモを貼った人がいる。」
その言葉に教室がザワついた。
「その人物は……君たちだ。」
話を続けた片山は手のひらをで指し示した。
その先には麻田トシミツと近松ユリカが居た。
「先生、冗談はよしてくださいよ。」
笑いながらトシミツは返したが目は笑っていなかった。
ユリカは黙って机を見つめていた。
「悪いが、冗談じゃない。」
その言葉でトシミツの笑顔は消えた。
嘘が下手と言った相手の目が嘘を言っている顔に見えなかったからだ。
「ここからは俺の憶測になるが、このメモの計画は金本リョウタ君が計画したものだろう。そこの2人が共犯として実行した。違うか?」
「えっ…?」
片山の言葉にカナエが反応した。
「恐らくこうだ。」
カナエに目配せして話し始めた。
「まず、金本リョウタ君が今回の事を計画。しかし実行前に亡くなってしまった。真相を知り、麻田と近松はこの計画を代わりに実行した。」
ここまで聞いたトシミツが立ち上がった。
「確かに先生と先週の木曜に渡り廊下で会ってますから、疑われても仕方ありません。でも金曜は先生がメモを見つけたあとで俺が登校してきてますよね?奇しくもそれを証明するのは先生、あなたですよ。それをどう証明すると…」
「旧職員通路。」
片山はトシミツの言葉に被せて答えた。
その瞬間、トシミツの顔が曇った。
「お前、あの日裏門から入ってきたらしいな。」
その言葉にトシミツは度肝を抜かれた。
「いつも正門から入ってくるお前は、あの日、旧職員通路から多目的棟の階段を使って2階に上がり渡り廊下の掲示板にメモを貼り付けた。そして、同じ道を通って外に出たところで黒川さんと鉢合わせた。だから裏門から入ってきた。違うか?」
「それは……」
片山の推理にトシミツは言葉を詰まらせた。
「あの時近松は下駄箱で色んな人に声をかけてたな。そして、俺が動いた瞬間に声をかけて足止めした。そうだろ?」
するとここでユリカが口を開いた。
「先生が言ったことは全て状況証拠でしかない。確実な証拠はあるんですか!?」
ユリカの声は震えていた。
「さっき3時間目の間にメモが貼られていたよ。ガラスが割られたことで近松の監視役がガラスの割れた場所に、渡り廊下を監視している人が近松の監視役になっていた。」
脈絡のない返答にユリカは苛立っていた。
「だから、証拠はあるんですか!?」
ユリカの言葉に片山は指を差した。
「君がまだ持っている。」
ユリカは戦慄いた。
「君は女子トイレに入り、窓から1階の屋根を伝って2階の渡り廊下に出たんだ。しかし渡り廊下には警官がいる。だから他に注意を引く必要があった。警官の配置は急遽決まったことだから咄嗟のことだったんだろう。石か何かで窓を割って注意を引いた。」
淡々と見てきたかの如く片山は話すが、トシミツとユリカは黙って聞いていた。
「そうすれば1人は近松の監視で離れることはできない。そうなればもう1人の方が動くはずだ。授業中に外にいるのは近松だけだと言う先入観から離れやすい。実際そうなり近松はメモを貼ってトイレに戻り、何食わぬ顔でトイレから出てきた。」
「だから……証拠は!?」
ユリカは震えながら同じことを問うた。
「出てきた時に話してたよな。『窓ガラスが割れたようだ』と。トイレよりも先にあるガラスが割れていることを見てもないのにどうしてわかったんだ?」
「お、音で分かったんですよ。あとそれも状況証拠です!誰が見ても納得する証拠を…!」
「1階屋根は汚れている。上履きが汚れてないなら代わりに汚れているはずだ。その靴下。」
ユリカはもう返す言葉がなかった。
「さぁその靴下を見せてくれよ。真っ白な靴下を。」
片山の推理にユリカは黙って靴下を見せた。
靴下の足の裏は黒く汚れていた。
そしてポーチも取り出しチャックを開けて中身を出した。
そこには紐に繋がった手のひらサイズの石があった。
「降参。トシミツ、諦めよう。」
その言葉にトシミツは椅子に崩れ落ちた。
「でも先生。先生の推理は違うところがあります。」
その言葉に片山は警戒して教壇を降りてユリカの机に向かった。
「私達がリョウタ君の計画を知ったのは、リョウタ君が亡くなってからしばらく経った後なんです。」
その言葉に片山は足を止めた。
「リョウタが亡くなってしばらく経った後に部室の俺のロッカーに計画を綴ったノートと指紋をつけたメモが入ってたんです。誰が入れたか俺は知りません。」
片山は寒気がした。
メモを貼り付けた方が
「先生!後ろ!」
カナエの声で片山は悟った。
2人は
「やっと気づいた?先生。」
その声は今井アヤネだった。
片山の後頭部には冷たい物が突きつけられている。
その光景を見たクラスメイトたちは悲鳴をあげた。
「動くな!!動いたら撃つぞ!!」
その言葉に教室が凍りついた。
「そういう事か…。今井がトシミツのロッカーにリョウタ君の指示書を入れたんだな?」
「ご名答。俺が動くにはストーリーとエサが必要でしょ?」
アヤネは片山に銃を突きつけたまま答えた。
「俺…?はぁ…なるほどな…。」
アヤネの口調から片山は全てを察した。
「先生の事だからもうわかってるんだと思ってたよ。」
「隣町から引っ越してきたことをひた隠し、男に興味無い素振り、奥宮さんの荷物を持っていくように伝えた時のあの拒否の仕方……」
「そう、俺は男の心を持った女子。だからいじめられてたんだよ。」
全ての点と線が繋がった。
「俺の気持ちを理解してくれたのは教師でも誰でもない。リョウタただ1人だった……」
悔しさを滲ませる声でアヤネは話し始めた。
「だからと言ってこんなことしてもリョウタ君は浮かばれないんじゃないか?」
片山は常套句でアヤネを説得し始めた。
しかし、事はそう簡単じゃなかった。
「残念、ここまでリョウタの作戦通り。先生がその言葉を吐くことも想定内だよ。」
アヤネの言葉に片山は焦ったが、まだ拳銃だけならば手の打ちようがあるとも考えていた。
「アヤネちゃん。」
その声はカナエだった。
片山の目に映ったカナエの顔は本気だった。
「カナエちゃん、幻滅した?俺が男だってことに。」
「しない。むしろリョウタ君の親友であったことを心の底から感謝してる。」
アヤネの顔が曇り始めた。
「なんでカナエちゃんから感謝されなきゃいけないのよ。」
カナエは目に涙をためながら口を開いた。
「だって私、リョウタ君の彼女だから……」
アヤネは目を見開き驚いた。
「…は?リョウタの…彼女…?」
「今井、奥宮さんはお前の正体を知っていた。」
畳み掛けるように片山は話し始めた。
「今井がリョウタ君の幼なじみと前から知っていた。髪型や肌の色が違っても、癖や特徴は簡単には変わらない。逆になぜ俺は気づかなかったのかと恥じているくらいだ。」
金本リョウタの幼なじみであるえくぼが特徴の色白少女はアヤネの事だった。
アヤネは明らかに動揺していた。
片山の後頭部に突きつけていた拳銃が揺れ動く。
「お前が…彼女のわけが…」
「リョウタ君が私に自慢してたよ。最高の親友だったって。」
カナエの言葉でアヤネは当時の記憶を思い出していた。
━━━━━━━━━━━━━━━
「リョウタ、本当にやるのか…?」
「あぁ…やるよ。」
リョウタは茶封筒を箱に入れ、それをアヤネに手渡した。
「あとはお前にかかってる。」
アヤネの目には涙が溢れていた。
「本当にやらなきゃいかないのか?他にも手段が……」
「こうもしなきゃ学校は何もしない。新しい犠牲が出る前に俺が絶たなきゃいけない。」
リョウタはそう言い、机の家族写真を伏せた。
「なんで伏せるんだ?」
アヤネは写真を伏せたこと疑問に思った。
「見てて欲しくないからだよ。あと、大切な人を想うと躊躇ってしまう。自分なりの抵抗だよ。」
なにかに想いを馳せるように写真立てに手を置いた。
「さぁ、新時代が待ってる。行くぞ。」
リョウタは覚悟を決めたように、ゆっくりとベランダへ歩き始めた。
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「リョウタは教師になるのが夢だった。だからこそ、あの横暴には耐えられなかったんだ。」
アヤネの目は虚ろだった。
「大人になって教育世界を変えるまでに、一体何人の子供達が犠牲にならなければならないのかとずっと言っていた。その屍の上に自分が教師として立つのが嫌だったと言っていた。」
片山は話を聞きながら離れていくアヤネの方を向き、いつ何が起きてもいいように体制を整えた。
「そうか…カナエちゃんに出会ったから計画が先延ばしになったのか…。」
「私が止めたの。計画は知らなかったけど、死んでも何もならない。残るのは悲しみだけだって。」
カナエは少しずつアヤネに近づき始めた。
「だからお願い。それを置いてリョウタ君を弔おうよ。」
あと少し、そう思っていた。
しかし、アヤネは拳銃を強く握りしめ構えた。
「リョウタは…もう死んだんだ…!」
銃口はの先は、カナエだった。
「やめろ!!」
片山の身体は言葉と同じく動き出していた。
パンッ!!
銃声が鳴り響くと同時に教室に何かが投げ入れられた。
コロコロと転がったと思えば大きな音ともに周囲が光に包まれた。
閃光弾だ。
教室のドアが無理やり開けられ、黒ずくめの人間が何人も入ってアヤネを取り押さえた。
「確保っ!!」
「離せっ!!まだっ!!終わってない!!」
アヤネは取り押さえられながらも暴れていた。
「先生!!」
カナエは片山のもとに駆け寄った。
「片山!大丈夫か!?」
西山も飛び込み、片山の傍に滑り込んできた。
「お前…!」
目の前には腹部を撃たれ顔を痛みで歪ませている片山の姿があった。
白いシャツは鮮血に滲み始めている。
「救急隊を!!急げ!!」
西山は近くの警察官に指示をすると片山の傷口を抑え始めた。
「西山…大丈夫だ…。」
「大丈夫じゃねぇだろうが!!」
手で抑えていただけだったが、西山は自分のネクタイを取り手に巻いて抑え始めた。
「今井さん…」
片山は自分の傷よりアヤネを心配していた。
「おい!動くな!死ぬぞ!!」
西山の制止を無視し、片山は拘束されたアヤネに向かって土下座した。
「片山…」
その光景に西山をはじめとした警察官、生徒達に衝撃を与えた。
「お前らの苦しみを…救ってやれなかった…」
アヤネは動かず呆然としていた。
「教師として…今日に至るまで…苦しませてしまったことを…教育者を代表して…謝罪する…」
片山の腹部からは血が垂れていた。
「先生…ダメ…」
痛みに耐えながら土下座する片山をカナエは見て居られなかった。
「本当に…申し訳ない…!」
「もういい片山、本当に死ぬぞ!!」
「ずっと苦しんできた教え子に…!血が流れているからと言って…!謝らない教師は教師ではない…!!」
西山は片山に圧倒された。
火事場の馬鹿力とでも言うべきか西山が抑えているにも関わらず土下座を止めなかった。
「せん…せい…」
アヤネは目に溜めた大きな雫を落とさずにいれなかった。
「ごめんね…」
その言葉を最後にアヤネは数人の警察官に連れていかれた。
「お前はいいから横になれ!!血を流しすぎだ!!」
片山を急いで横にした西山は傷口を力一杯抑えた。
「先生…!」
「先生!」
生徒達は片山に駆け寄った。
「救急隊はいつ着くんだ!!」
「も、もう間もなく現着です。」
西山は慌てていた。
床一面に広がった血の量は素人目でも危険と分かるほどだった。
「先生!死なないで…!!」
カナエは片山の頭を抱え声をかけた。
「嬢ちゃん、ずっと声をかけ続けるんだ!先生を眠らせるな!」
西山の言う通りに声をかけ続けた。
ごめんなさい、死なないで、目を開けて。
それくらいしか言えなかった。
「奥宮…さん……」
「喋るな!もう…喋らないでくれ…!!」
西山は泣きながら傷口を両手で力一杯抑え続けた。
「先生の社会の授業…!まだ分からないところがあるんです…!だから…だから……」
カナエは必死に声をかけるが、次第に泣き喚くしか無くなってきた。
そして、片山の目が静かに閉じられた。
「片山…!!片山……」
その姿を見た西山は泣きながら目を逸らした。
「警部補!救急隊が到着しました!」
「うぉ…」
到着した救急隊は現場を見て言葉を失った。
「急いで搬送するぞ!ドクターヘリの要請を!」
救急隊長は一目見てドクターヘリを要請した。
「代わります。」
「お願いします!頼みます!」
西山は血まみれの手を退けて救急隊員に代わった。
「先生…先生…」
カナエは片山の頭を抱えながら声をかけ続けた。
救急隊長は片山の首に手を置いてを脈拍を診た。
「かなり下がってる。お嬢ちゃんちょっとゴメンな。」
「ストレッチャーに移すぞ。」
カナエを退けると救急隊はストレッチャーに片山を移し、ランデブーポイントとなる校庭に移動した。
その姿を見てカナエは一目散に片山を追いかけた。
「先生…!死なないで…!」
その言葉に呼応して救急隊員の足も早くなる。
校庭に出ると後ろから生徒達が片山を囲うように走ってきた。
「先生死ぬな!」
「逝ったらダメだって!!」
そう言い校庭の中央に向かっていると、どこからともなく風を切る音がした。
救急隊員が止まると1人がヘリを誘導し始めた。
「舞い上がる砂に注意しろ。」
その言葉で生徒達は自分達の制服の上着を脱ぎ始めた。
「頼めるか?」
救急隊長はその光景で察した。
皆助けたいのだと。
ヘリが見えるとゆっくりと降りてきた。
「OK!!」
誘導の救急隊員が指示を出すと扉が開いて医師が降りてきた。
「現在の状況は!?」
「
救急隊長は引き継ぐと直ぐにストレッチャーをヘリに乗せた。
「あとは任せなさい。」
救急隊長は心配するカナエを連れて離陸するヘリを離れた。
片山を乗せたドクターヘリは砂煙を上げ空に飛び立つ。
カナエははるか高く上るヘリを見て走り始めた。
そして、大きく息を吸って声を上げた。
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