第76話
それから俺たちは流れに流れて、白い花がたくさん咲いている岸にたどり着いた。俺と音星の身体中からは、血の池でついてしまった赤い色はなくなったけど、その代りムッとくる血の臭いがするようになってしまった。
岸で俺は音星を横たえてから、立ち上がった。
「大叫喚地獄……なんかここも……殺風景だな。いや、でも何故か静かになってる」
「火端さん。……本当にありがとうございます」
音星が目をパッと開けて、横になっている状態で岸の周りに生えている花々を見回した。そして、肩にぶら下がった布袋を確認しながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……火端さん。私、少しだけ気を失っていました。助けてくれて、本当にありがとうございました」
音星は俺に向かって頭を深々と下げた。
「い、いや……当然なことだったから……って、ひょっとして、音星は洞穴から落ちてからのことを全然覚えていないのかい? ずっと目を閉じていたままだけだったけど?」
「……ええ、ずっと夢の中でお花畑にいました」
「ふぅー、まあ、それはいいか。お互いなんとか助かって良かったよな」
「ええ」
音星は辺りに、半透明な人型の魂も獄卒もいないのを不思議がっている。俺もそれは不思議に思っていたんだ。
それから、音星はゆっくりと肩に掛けていた布袋から古い手鏡を取り出すと、割れていないかと色々な角度から見つめはじめた。
「火端さん……。弥生さんが心配ですが、一旦。八天街へ戻りましょう」
「え? ああ。そうだな……さすがに疲れたしな。確か地獄と現世では時差があるもんな」
「ええ、あの火端さん? 少し気になってしまって……不思議なことをいうようですが、ここがどこだかわかりますか?」
「え? 大叫喚地獄だと思うけど……」
「いえ。恐らく……今、私たちがいるところは……ここは焦熱地獄だと思うんです」
「ええ!? あの別名炎熱地獄の?! あ、でも。全然、違うんじゃないのか? ここら一体どこもかしこもまったく熱くないぞ?」
「ええ。でも、あっちの方……見えますか? ほら……あそこだけですが、空が真っ赤に染まっています。それに地上では火柱が噴き出ていますし、そのせいで大空が燃え盛っているように見えるんです。でも、ここにはお花が咲いています」
音星が指差す遥か西のところを見ると、恐ろしい猛火が噴出している広い大地があった。 焦熱地獄は、五戒全部を破ったものが落ちるとされている。別名、炎熱地獄って言って物凄い熱い場所なんだ。確かに言われてみるとな……。
「地獄では、阿弥陀如来が菩薩と共に、地獄で往生している人を迎える時があるのは知っていますか? 」
「あ!!」
それと、音星が言った。阿弥陀如来が菩薩と共に、往生している人を迎える時があるといわれているのは、地獄絵の最後に
あ! ひょっとしたら!!
弥生のために、阿弥陀如来が菩薩が来てくれたのかも知れない!
早速、この辺を調べてみよう!
八天街に戻るのは後だ!!
弥生がいるかも知れない!!
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