第37話

 空から落ちてくる巨大な石臼に気をつけて、俺は山々の間を見つめてから、身震いして次を探す。


 あるものは挟まり、あるものは潰れる。人型の魂たちはどうやら、妹ではないなと安心しながら、ひと通り見て回った。一応、牛頭と馬頭に追われている人型の魂も見ていく。必死に地獄の責苦から逃げて行く人型の魂たちは、どれも妹とは違うようだ。


 恐らく、妹の魂には目印があるはずなんだ。


 その目印とは、ある一冊の本だ。


 俺が妹の12才の誕生日の時に買ってやった本は、きっと本好きの妹のことだからここ地獄でも持参しているはずだと思っているんだ。


 なあ、妹よ。


 お前はこんな世界に来ているのか?


 違うだろ。


 お兄ちゃんと一緒に天国へ行こうぜ。


「火端さん。私、何故か後ろから小動物の気配を感じます。そうですね……うん? これは……」

「う! う! うわ! シロ!!」


 俺は後ろを振り向くと、シロがのこのこと着いてきていた。シロはここ恐ろしい衆合地獄でも何事もなかったかのように音星の歩幅に合わせて歩いていた。時折、周辺の潰されていく人型の魂を見ては、ニャーと悲しく鳴く時もあった。


 ゴー、スー、ゴ―、スー。

 

 辺りの石臼が擦れる音が激しくなった。空から、また大勢の罪人たちが落ちてきたようだ。バタバタと地面に落ちる罪人たちを、牛頭と馬頭が追いかけ回す。俺はその光景を目の当たりにして、片手を音星の目元に当て。片手にシロを持って、この広大な大地の衆合地獄で妹探しを続けた。 

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