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砂川さんは伝票をレジに持っていくことはせず、立ち上がった私のすぐ目の前に立ち少しだけ見下ろしてくる。

身長172センチ、5センチのヒールの靴を履いている私のことを砂川さんは少しだけ見下ろすことが出来る。




田代よりも私の“残念な兄”よりも見下ろす角度は小さいけれど、それでも砂川さんは私のことを見下ろすことが出来る。




久しぶりに見上げる砂川さんの“結構格好良い”と言われる顔にドキドキとする。




でもそのドキドキは“恋”のドキドキではなくて・・・。




「ごめん、砂川さんが親会社に行ったから全部終わりにしちゃった。

メッセージ、何て送ってた?

先に帰った方が良かった?

もう終電もなくなっちゃったしね。」




嫌な風にドキドキとしている胸を感じながら笑顔を作りレジに向かって歩いていくと、私の後ろを砂川さんがついてくる。

3年前の3月最後の日、着信もメッセージも拒否する設定をしていた相手である砂川さんが。




「純ちゃん。」




砂川さんが私のことを“純ちゃん”と呼び・・・




私のことを呼び止める。




砂川さんから呼び止められてしまう。




みんなが呼ぶ“純”ではなく“純ちゃん”と呼ばれただけで、私はこんなにも簡単に呼び止められてしまう。




“あの頃”も“今”も変わらず砂川さんに呼び止められ、そして砂川さんのことを振り向いてしまう。




砂川さんのことを振り向くと、砂川さんは伝票を持つ手とは反対側の手にスマホを持っている。




そのスマホの画面を私の方に見せていて・・・。




そこには私に送ったであろうメッセージの画面が開かれていて、自然とその画面を見てしまった。




そしたら、見えた。




《遅くなりそうだけど必ず戻るから待っていて欲しい。》




画面の1番下にはそのメッセージがあり・・・




そして、その上には2つのメッセージがあった。




私が砂川さんとのことを終わらせた日より後の日付け、私が見ることはなかった砂川さんからのメッセージ。




“最後の日”となった1年後の3月14日、ホワイトデーであり私の誕生日の日・・・




《純ちゃん、28歳の誕生日おめでとう。》




そんなことが書かれているメッセージ。




それと・・・




その1年後の3月14日には・・・




《29歳の誕生日おめでとう。

俺の家にある純ちゃんの私物を返したいから、少しだけでも会えるかな?》




そう書かれていたメッセージまで私の目に入ってきた。

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