【コラボ作品】ゆびゆ

蕾夢雫姫

第1話 入山

「この山を登れば…」


私は、とある山のふもとに立っていた。


人里離れたこの山の中腹に、世にも奇妙な温泉があると聞いた。

なので、わざわざ2日かけて、歩いてきたのだ。


車は昨日から乗っていない。

木々が生い茂り、車が入れるような地帯ではないからだ。


「あと、30分ってところかな。」


奇妙。それを聞くだけでワクワクする。別にそんなでもないなら、ここにきた意味がない。

わざわざ大学の夏休みを使って来たのだから。


「おっ?」


木々の隙間から見ると、ちらりと板が見える。多分、色は違えど温泉マークであろう、ものも描かれている。


良かった。報われた。


そんな幸福感に包まれた。



目的地に着くと、奥の山々の間から、沈みゆく夕陽が佇んでいた。まるで、異界までたどり着いた私を祝福しているようで…


「ここは、ゆび湯。指のための温泉地だぞっ!」


いきなり、後ろから声がした。振り返った時、そこにいたのは、



他でもない、指だった。

そう、指である。


大事なことなので、もう一度、指が、私に話しかけて来たのだ。


「ええと…ん?」


私は、大きな人が埋もれていて、その人の指が出ているのだと思った。しかし、違った。


ぬちゅっとした、気持ち悪い音を響かせながら、黄土色の眼を私の眼下に焼き付けた。

そして、皮膚が破けながら口が現れ、繋がったままの皮膚が残ったまま、言った。


「ここは、指湯だぞ。人間は来るな。」


最後に、一言付け足して、また地面に帰っていった。



「ここに浸かった人間は、人間でなくなるからな…」


それは、自分が実際に人でなくなったかのような言葉だった。



でも、人でなくなるなんて、あり得ない。そう思い、私は指湯に向かって歩いていった…

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